介護職員の個人目標はどう設定すればよい?よくある疑問・記入例を徹底解説!
介護職の個人目標が果たす3つの役割
スタッフそれぞれのスキルアップに役立つ
介護の現場で働くみなさんにとって、個人目標を立てることは、自分の成長を支える「道しるべ」のような存在です。日々の業務に追われていると、目の前の仕事に精一杯になりがちですが、目標を持つことで「次に何を伸ばしたいか」「どんな力を身につけたいか」が見えてきます。
介護の仕事は、身体介助や生活支援、記録業務など幅広いスキルを求められるため、「自分には何が足りないのか」「より良いケアをするには何を学ぶべきか」といった振り返りにもつながります。
また、目標を立てることで自分の課題を客観的に捉えやすくなり、改善の道筋を明確にできます。たとえば「移乗介助をよりスムーズに行う」「利用者さんとの会話を増やす」といった小さな目標でも、達成を重ねることで成長を実感し、自信ややりがいを得ることができます。こうした積み重ねが、結果的にチーム全体のスキル向上にもつながっていくのです。
評価制度と連動したキャリア形成を促進する
多くの介護施設では、個人目標の達成度が人事評価や昇進・昇給に関係しており、キャリアアップを考えるうえで重要な要素となっています。
東京都社会福祉協議会の調査によると、「キャリアパス(昇進・昇格の仕組み)を構築している」と回答した法人は56.7%にのぼります。
こうした制度を整えている職場では、目標を持ち努力する姿勢がきちんと評価され、昇給や昇進につながることが少なくありません。
たとえば「介護福祉士資格の取得」を目標に掲げて合格すれば、資格手当の支給やリーダー職への登用など、待遇面の変化も期待できます。
一方で、研修体系が十分に整っていない職場もあり、自主的に学ぶ姿勢が求められるのも現実です。厚生労働省の処遇改善加算でも「キャリアパスの整備」や「職員の資質向上」が要件とされており、事業所にとっても個人目標の管理は重要な取り組みとなっています。
自分の将来像を意識しながら、「5年後にケアマネジャーになる」など長期目標を立て、そこから逆算して「今年は実務者研修を修了する」といった段階的な目標を設定することが、安定したキャリア形成につながります。
モチベーション維持・現場改善に活用する
介護の仕事は、数字で成果を測ることが難しい分、モチベーションの維持が課題になりやすい職種です。そんなときこそ、個人目標が大きな支えになります。
たとえば「利用者さんと1日5分は会話の時間を設ける」「ヒヤリハットを毎月3件以上報告する」といった具体的な目標を立てると、日々の努力を実感しやすくなります。
また、定期的に振り返りを行うことで「今月はここができた」「次はここを改善したい」と前向きに仕事に向き合えるようになります。
さらに、こうした目標管理を全職員で行うことで、業務改善にもつながります。たとえば「申し送りを10分短縮し、その分利用者さんとの関わりを増やす」といった目標は、チーム全体の効率化やサービスの質向上にも波及します。
個人目標は単なる「評価項目」ではなく、職場をより良くするための“現場改善のツール”でもあるのです。小さな目標の積み重ねが、介護現場全体を変えていく力になります。
介護現場での個人目標設定でよくある疑問
そもそも目標が思いつかない…
一方で、「個人目標を立ててください」と言われても、何を書けばいいのか悩んでしまう。これは多くの介護職員に共通する悩みです。
公益財団法人介護労働安定センターの調査では、「今より上位の職位を目指す」と答えた人は全体のわずか15.1%にとどまり、「今のままで良い」と回答した人が75.4%を占めています。つまり、現状維持を望む人が多いということです。
その背景には、「昇進すると責任が増えてしまう」「現場を離れたくない」「研修に参加する時間がない」といった現実的な事情があります。また、利用者さんとの関わりを大切にしている人ほど、「今の働き方を続けたい」と考える傾向も見られます。
とはいえ、キャリアアップを目指さない場合でも、個人目標を立てることには意味があります。
まずは「いま困っていること」や「改善したいこと」を書き出してみましょう。たとえば「報連相をもっとスムーズにしたい」「利用者さんの表情変化に気づけるようになりたい」など、日々の気づきの中にヒントがあります。
さらに、「理想の介護職像」を考えることもおすすめです。「利用者さんに信頼される存在になりたい」「新人をサポートできる先輩になりたい」など、思い描く姿を言葉にしてみましょう。
目標は大きくなくても構いません。自分が「これなら頑張れそう」と思えるものを一つ決めること。それが、日々の仕事に前向きな変化をもたらす第一歩になります。
目標が未達成だった場合は評価が下がる?
「もし目標を達成できなかったら、評価が下がるのでは?」と不安に感じる人も多いでしょう。
確かに、個人目標が人事考課と連動している職場もありますが、実際には「達成したかどうか」よりも「どんな努力をしたか」や「そこから何を学んだか」が評価のポイントになることがほとんどです。
目標を立てても、業務の変化や人手不足など、想定外の事情で計画どおりに進まないことはよくあります。そんなときは、途中で上司に相談し、目標を見直すことが大切です。定期的な面談の場で進捗を共有すれば、「柔軟に対応できる力」も評価の対象になります。
また、目標が達成できなかった場合は、その理由を整理して次に活かすことが重要です。たとえば「計画の立て方が甘かった」「周囲のサポートをうまく得られなかった」といった反省点をまとめ、次の目標設定に反映させましょう。
未達成=失敗ではありません。挑戦の過程で得た学びは、確実にあなたの力になります。大切なのは、「次はこうしてみよう」と考え続ける姿勢です。結果だけでなく、その“努力のプロセス”も、しっかり評価につながるのです。
数値化できない目標はどう設定すべき?
介護の仕事には、「利用者さんに寄り添う」「チームの雰囲気を良くする」など、数値では測れない大切な目標も多くあります。こうした目標は、「行動」に置き換えて具体化することがポイントです。
たとえば「利用者さんに寄り添う」を目標にする場合、「毎日3人の利用者さんに笑顔で声をかける」「週1回はゆっくり話を聞く時間をつくる」といったように、行動レベルで表現すると実践しやすくなります。
また、目標を振り返る際には、日誌や記録を活用して「できたこと」「感じたこと」を残しておくと、自分の成長を目で確認できます。
数値化できない目標こそ、自分の価値観や介護観が表れるものです。数字ではなく、「誰のために、どんな介護をしたいか」という思いを込めて設定してみましょう。小さな行動の積み重ねが、信頼される介護職としての成長につながっていきます。
【記入例あり】介護職のキャリア別「個人目標」の書き方とコツ
新人職員向け目標例
介護の仕事を始めたばかりの方にとって、個人目標は今後のキャリアを築く大切な第一歩です。まず意識したいのは、「できることを少しずつ増やしていく」こと。
新人のうちは、業務の流れを覚えるだけでも精一杯かもしれません。ですから、背伸びをしすぎず実現可能な目標から始めるのがポイントです。
たとえば、「半年以内に介護職員初任者研修を修了する」「1年以内に実務者研修の受講を開始する」といった資格取得を軸にした目標は、とても現実的です。資格を取ることで基礎知識が身につき、自信を持ってケアにあたれるようになります。
また、日々の業務スキルに焦点を当てた目標もおすすめです。「移乗介助を安全に行えるようにする」「申し送りで要点を簡潔に伝える」など、具体的な行動目標にすることで、日々の成長を実感できます。
大切なのは「完璧を目指す」のではなく、「昨日より少し上手くなる」を積み重ねること。小さな成功体験が積もることで、仕事への自信とやりがいが生まれていきます。
中堅職員向け目標例
介護職として数年の経験を積んだ中堅層は、これまで培ったスキルを次の段階へと発展させる時期です。
この時期に意識したいのは、「自分の強みをどう活かすか」「チームの中でどんな役割を果たすか」という視点です。
公益財団法人介護労働安定センターの調査によると、「今後取得したい資格がある」と答えた介護職員は全体の3割以上にのぼり、そのうち最も多かったのが介護支援専門員(ケアマネジャー)で37.0%を占めています。
この結果からも、多くの職員が“次のステップ”を意識していることがわかります。
たとえば、「2年以内に介護支援専門員の資格を取得し、ケアプラン作成に携わる」「主任介護支援専門員を目指し、1年間の学習計画を立てる」など、キャリアアップを見据えた具体的な目標を設定するとよいでしょう。
一方で、リーダー職を目指す場合は、「サブリーダーとして半年間リーダー業務を習得する」「シフト作成を3か月以内に一人でできるようになる」といったマネジメントスキル習得型の目標が効果的です。
さらに、専門性を深めたい人は「認知症ケアリーダーとして現場を牽引する」「看取りケア研修を受講し、終末期ケアの質を高める」など、特定分野に焦点を当てた目標も良いでしょう。
中堅職員は、現場での中心的存在です。自分の成長だけでなく、後輩の育成やチーム全体のサポートを視野に入れることで、より大きな信頼を得られるようになります。
リーダー向け目標例
リーダーや管理職クラスの介護職員には、現場全体をまとめる力と、組織をより良くするための視点が求められます。
リーダーの個人目標は、「自分の成果」だけでなく「チーム全体の成果」に結びつくよう設計するのがポイントです。
たとえば、「半年で現場の事故発生件数を50%減少する」という目標を掲げた場合、そのために「全職員から月60件以上のヒヤリハットを収集する」「事故対策マニュアルを作成し、職員全員に共有する」といった具体的な行動計画を立てます。
また、「新人職員の離職率を前年より30%減らす」という目標には、「OJT研修の見直し」や「月1回の個別面談実施」などの施策を組み合わせると効果的です。
加えて、「サービスの質を高める」ための取り組みもリーダーの重要な役割です。
たとえば、「利用者さん一人ひとりの生活リズムを見直し、ケア時間を最適化する」や「ケア記録の統一ルールを半年で整備する」といった目標は、現場全体の改善につながります。
リーダー職は、目標を一人で達成できる立場ではありません。チーム全員の力を引き出しながら前進することで、組織全体の成長を支えることができます。