日本橋一丁目中地区市街地再開発事業が終盤。日本橋にそびえる超高層建築物の姿とは
日本橋一丁目中地区で再開発工事が進む
首都高日本橋区間の地下化事業と連動して進められている複数の市街地再開発事業。その中で、最も早期に完成を迎える街区がある。
それが、三井不動産株式会社や野村不動産株式会社らによって進められている「日本橋一丁目中地区」の市街地再開発事業である。計画されているのは、高さ約284m、地上52階建ての超高層建築物で事務所や店舗、ホテルなどの複合用途で構成される。さらに、日本橋川沿いには低層建築物が2棟が立ち並ぶ。
2021年12月に建築工事に着手しており、日本橋三越本店の正面からもその圧倒的な存在感を視認できる。観光や買い物で日本橋を訪れ、この巨大な構造物に目を留めた読者もいるのではないだろうか。
再開発が必要とされた理由
日本橋一丁目中地区を含む東京駅周辺から日本橋川沿いにかけての一帯は、都市再生特別措置法における「特定都市再生緊急整備地域」に指定されている。さらに、今回の都市再生プロジェクトは、「国家戦略特区」における区域計画の認定を受けている。
本地域での特定都市再生緊急整備地域の整備目標としては、「国際競争力向上に資する先進的なビジネス支援機能の導入促進」や「外国人が住みやすい居住環境の充実」などが掲げられており、周辺一帯で積極的な都市再生プロジェクトが推進されていることが事業実施の背景の一つとなっている。
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再開発が必要とされたもう一つの理由は、首都高日本橋区間の地下化事業の存在である。この地下化事業では、日本橋川の地下のみならず、一部で建物敷地の地下空間を活用する必要があるため、建物の更新が不可欠となった。
併せて、日本橋の上空に青空を取り戻そうとする取り組みの一つとして、周辺エリアを「日本橋リバーウォーク」と位置づけたまちづくりが進行中である。歴史的にも象徴性をもつこの地を原点回帰の場としつつ、東京の経済を牽引する都心エリアとして再構築することが期待されている。このため、地下化事業と市街地再開発事業が一体的に進められている。
日本橋一丁目中地区市街地再開発事業の概要
日本橋一丁目中地区の市街地再開発事業は、施行面積約3ヘクタール、A街区(商業・業務施設)、B街区(住宅・商業施設)、C街区(オフィス・商業・ホテル・MICE施設・ビジネス支援施設・駐車場等)の3つに分けて整備が進められている。
※ MICE:会議(Meeting)、報奨・研修旅行(Incentive)、国際会議(Convention)、展示会・イベント(Exhibition/Event)の総称
事業の目的としては、「高規格な業務・商業機能等の一体整備による複合機能集積地の形成」、「歩行者ネットワークの強化による回遊性の創出」、「歴史的建築物の保存活用」、「日本橋川沿いの良好な水辺環境の創出」とされ、国家戦略特区を活用した都市再生プロジェクトらしく国際競争力強化を図ることとしている。建築物の概要は次のとおり。
【A街区】
市街地再開発事業では、中央区の指定有形文化財に指定されている「日本橋野村ビル旧館」の外観を保存活用しながら建築工事が進められる。なお、旧館は1930年に竣工、モダニズム建築を代表する安井武雄氏の代表作であり、歴史的に見ても貴重な文化財の一部が残るように再開発の建築設計に組み込まれている。
・建物用途:事務所、店舗、連絡通路
・延べ面積:約5,200m2
・容積率 :約350%
・建物規模:地上4階、地下1階
・建物高さ:約32m
【B街区】
B街区では、A街区で改装される「日本橋野村ビル旧館」と調和の取れた建築物が計画されており、計画高さもA街区とほぼ同様の約31mで計画されている。また、B街区の特徴としては、住宅として51戸が計画されている点といえる。
・建物用途:住宅、店舗
・延べ面積:約6,600m2
・容積率 :約220%
・建物規模:地上7階、地下2階
・建物高さ:約31m
【C街区】
本市街地再開発事業の主要街区はC街区であり、地上52階建て、高さ約284mの超高層建築物が予定されている。容積率は約1,950%と非常に高く、1万5,560m2の敷地面積に対して約37万3,700m2の延べ面積が確保されている。郊外に立地するような大規模集客施設とされる商業施設はおよそ1〜2万m2程度なので、その15〜30倍に及ぶ建物ボリュームとすればその大きさがイメージしやすいかもしれない。
・建物用途:店舗、事務所、カンファレンス施設、ビジネス支援施設、ホテル、サービスアパートメント
・延べ面積:約37万3,700m2
・容積率 :約1,950%
・建物規模:地上52階、地下5階
・建物高さ:約284m
テナントについては、ホテルや事務所(一部)の概要がすでに公表されている。ホテルについては、ヒルトンの最上級ラグジュアリーブランドである「ウォルドーフ・アストリア」が東京に初進出する。世界でも約30軒ほどしか展開されていない希少性のあるホテルブランドであり、国内では大阪に続く2店舗目となる。
2020年10月の三井不動産株式会社およびヒルトンの報道発表資料によると、地上39階から47階までの9フロアに展開され、全197室の3つのレストランとラウンジ&バー「ピーコック・アレー」の他、屋内プール、スパ、フィットネスセンター、チャペルなどが予定されている。
また、事務所のテナントについては、現時点において、野村グループ本社、第一三共株式会社本社が移転することが発表されている。
公共施設としては、広場や歩行者通路・貫通通路、都営地下鉄日本橋駅の新設改札、日本橋川に面する護岸の改良工事などが計画されている。
また、B街区における住宅部分については、戸数と面積帯が設定されている。
•1R(25m²以上40m²未満):40戸
•1DK〜1LDK(40m²以上60m²未満):9戸
•2LDK〜3LDK(60m²以上80m²未満):2戸
建築工事の状況
2021年12月に工事に着手してから4年半経過し、2026年3月の竣工を目指し工事も終盤にさしかかっている。
現地におもむくと建築工事が進んでいる状況を確認できる。個人的には、日本橋の室町側から眺めるとその存在感に圧倒されるのでぜひ足を運んでみてほしい。
事業スケジュール
現時点の公式資料によると、日本橋一丁目中地区市街地再開発事業の竣工は2026年3月が予定されている。順調に進めば、来年春には日本橋エリアに新たな街区が誕生することとなる。
日本橋エリアの再開発は今後も注目
日本橋一丁目中地区の市街地再開発事業は、高さ約284mの超高層ビルを中心とする大規模プロジェクトである。隣接地では国内最高高さとなる「Torch Tower」の建設が進められており、本地区の存在感は目立ちにくいかもしれない。しかし、その規模と都市機能の集積度から見ても、街区全体の構造を一変させる再開発といえる。
本事業が完成すれば、多くの人々でにぎわうことはもちろん、首都高の地下化とリバーウォーク整備が完了した際には、日本橋エリア全体の魅力が格段に向上する。日本橋が新たな観光・経済拠点として再び脚光を浴びる可能性が高い。そして、その中核をなすのが、本事業ではないだろうか。
また、本事業は単なる再編ではなく、経済成長の中で一度失われた江戸・東京の風景と物語を、再び都市に呼び戻す取り組みである。日本橋は、再び「日本の始点」としての存在感を取り戻しつつある。今後も本エリアで進展する再開発事業の動向を注視し、その変化を引き続き発信していきたい。