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「虫・カビ」駆除剤が販売終了 文化財ピンチ

TBSラジオ

ジメジメしてくると気になるのがカビ。この時期、博物館などの施設でも、カビや虫から文化財を守るための対応に追われています。

貴重な資料をいつまでも残す作業

神奈川県にある「寒川文書館」の高木 秀彰さんに、駆除の現場を見せてもらいました。

「寒川文書館」高木 秀彰さん

(たくさんダンボールが積み重なってますが、この中に資料が入ってるってことですか?)

そうです。収蔵庫の中にビニールテントを建てまして、そこのテントの中に資料を入れ、薬剤を導入すると。

虫やカビとかがついたままで収蔵庫に入れますと、他に影響を与えてしまって保存が出来なくなくなってしまうということがありますので、「薬剤」でもって、虫とかカビとかを殺すという、そういう作業。これを経て、収蔵庫にしまうということになります。

寒川に関する様々な記録資料、特に町職員が作った公文書、それから民間の方々が残してくれた古文書とか、あるいは写真とか地図とか、年に1回やってきております。

<寒川文書館の、「燻蒸」の様子。施設の中にテントを立てて、対象となる資料を殺虫・殺カビしてきます(寒川文書館提供)>

新たに運び込まれた資料に虫やカビが付いていると、文書が傷ついたり食べられてしまって大変です。

そこで、テントなどで密閉した空間に、薬剤を混ぜたガスを充満させて、36時間ほど置くことで、虫の成虫や卵、カビをゼロにする作業を年に一回、行っています。

<「寒川文書館」JR相模線寒川駅下車徒歩10分>

「燻蒸」ガスが来年、販売停止に

こうした作業は「燻蒸(くんじょう)」と言って、紙の資料だけでなく、布や剥製、民具などを収蔵する博物館や、町の郷土資料館などでも、当たり前に行われてきました(家庭で殺虫・殺菌する、煙を出す燻煙剤の業務用のイメージ)。

ただ、この燻蒸作業に欠かせない薬剤が、今後手に入らなくなるかもしれないと業界で不安が広がっているんです。全国およそ50カ所の施設で燻蒸作業を手掛ける、稲村 修さんに聞きました。

燻蒸業者・稲村 修さん

製造メーカーが「製造中止します」と。

メーカーの方から「辞めるかもしれない」っていうのは前々からちょっと小耳には挟んでいたような感じですけれども、正式に発表があったのは今年に入ってからですかね。

文化財の認定薬剤だったので、他の薬剤に変えるのが難しい。

効果があるガスって言ったらいいんですかね。他のメーカーさんのガスも効果はあるんですけども、条件を揃えていけば確実に「殺虫、殺卵、殺カビ」までいく。

今後どうしようか、代替えがないか、ないかっていうのを考えてはいるんですけども、なかなか。皆さん頭悩ませてます。

燻蒸作業に欠かせない薬剤、「エキヒュームS」というガス。半世紀にわたって中心的に使われてきましたが、これが、来年3月末で販売が終わることが、明らかになりました。

今回、長年販売してきた「日本液炭(にっぽんえきたん)」というメーカーにもお話を伺ったところ、原料となるガスの値上がりで製造が厳しくなったことや、成分に含まれる「酸化エチレン」が環境に悪影響を与えるもので、環境省が排出抑制を求めていたことなどが、販売終了の理由だそうです。環境意識の高まりを背景にした時代の流れと考えれば、やむを得ないのかもしれません。

でも、代わりはないのか?

他のメーカーの薬剤は、効果が「虫」に限られていたり、営業地域が限定されているそうで、手に入れやすく、虫にもカビにも効くのは「エキヒュームS」だけ。完全な代わりは見つかっていません。

トラップ、目視で虫を防ぐ

来年以降どうするか、寒川文書館の高木さんも困っていましたが、そうした中、薬剤に頼らない、虫・カビ対策を進めている施設もありました。「名古屋市博物館」の小西 恒典さんのお話。

「名古屋市博物館」小西 恒典さん

「トラップ」と言いまして、虫は隅っこを歩く性格があるのでですね、通路になりそうなところに置いて、例えば1ヶ月後にそれを見ていく。

パッと見て何虫ってわかることがあまりなくてですね、かなり倍率の高いルーペで見たり、そういうことで、ようやく足が生えてそうとか、羽が大きそうとか、何の仲間だろうというようなことになる。

たまたま紛れ込んできただけなのか、収蔵庫の奥深くに潜んでいるのかっていうのがわからないのでですね、ちょっと他の物から遠ざけていくとかですね、しばらく様子を見る。

今回「エキヒュームS」はカビと虫の両方に効くのでですね、目の前からなくなってしまったってことでちょっとそれは残念に思ってるんですね。

何でもガスをかけるのってことじゃなくてですね、どうしても必要なときは、今ならどの薬がいいんでだろうって考えながら、そういう選択してくってことになりますね。

文化財用の殺虫剤というのは、大きな曲がり角にきているのは確かですね。

目視というと不安に思う方もいるかもしれませんが、こちらでは、温度・湿度管理を徹底して、虫やカビが出る前に未然に防ぐことを徹底していて、ここ数年大規模な虫・カビの発生は防げているということでした。
(「名古屋市博物館」は2026年までリニューアル工事でお休み。より虫が侵入しにくい施設に作り替えるなど、改築している最中です)

ただ、こうした環境管理の方法は、古い建物や隙間の多い施設だと限界もあります。

古い書物ほど破損したら二度と手に入りません。行政も音頭を取って、新しい方法を見つけていく必要がありそうです。

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