【注意喚起】「速くなる」と言われてネット回線を変えたら「むしろ遅くなった」ので問い合わせた結果 → 言い逃れが巧妙すぎてむしろ感心した!!
かつて営業の仕事をしていたことがある。あの仕事に「商品のいいところを強調し、よくないところは積極的に言わない」側面があることは、多くの人が理解しているところだと思う。そのへんのバランス感覚が割と備わっていた私は、そこそこ優秀な営業ウーマンだった。
……が、だからといって嘘はNGである。クレームになるからだ。割とギリギリのラインを攻めて契約を勝ち取っていた私であるが、それでも嘘を言ったことはない。録音されていたら一発アウトだし、何より人を騙すのはよくないことだから。
そんな私はつい先日、嘘の説明を信じてネット回線を契約してしまった。注意喚起の意味も込めて、コトの顛末をお話しよう。
・高速回線が欲しい!
契約から2年が経つソフトバンク光は何不自由なく使えていたが、最近の私は「もっと高速なネット回線が欲しい」と考え始めていた。オタク活動の一環である先着順購入のチケット争奪戦……俗にいう “チケ発” に勝ち抜く必要が高まったからである。
有識者の見解によると、チケット争奪戦に勝ち抜くには「下りで800メガ〜1ギガくらい出る回線が望ましい」とのこと。いっぽう我が家の回線速度は「下り80メガ」……まるでお話になっていない。
そんなこんなで「もっと早い回線ねえかな」と思っていたところへ、ある日、見ていたかのようなタイミングでネットの営業の人が訪ねてきた。初老男性たる彼はウチの回線速度を測定し「こりゃ遅い!!! さぞ困っていらっしゃるでしょう」と言った。
営業の人いわく、私が使っているのは正確には光回線でないらしい。これは『VDSL』という電話回線を利用した接続方式で、光ファイバーはマンションの途中までしか来ていないのだそうな。「ソフトバンク光なのに光じゃなかった」という衝撃事実に、私は一気に話を聞く体勢になった。営業の人にとっては “針にかかった” 瞬間だったと思う。
営業の人によるところ、ウチのマンションにおいては彼の会社の回線のみが「部屋まで直で来ている」とのこと。よって他の回線には真似できない高速通信が可能であり、「他の部屋の方もみなさん、ネットが速くなったと喜んでおられます」……そう彼は熱弁。そして「うちの回線に変えれば、速度が格段に上がります」と断言した。
ネット不得意ながら、回線速度というものが様々な要因に左右されることは分かる。そのため「絶対に速くなる」と断言されたことに驚きを禁じ得なかったが、過去の経験から認識していた「営業は嘘をついてはいけない」という鉄則が、逆に私を「そこまで言うなら本当に速くなるのだろう」と確信させる結果になった。
それがいけなかった。
・あんまりではないか?
ここまでくれば皆さんお察しのことと思う。かくしてメチャ速度アップ確定回線を契約した結果、我が家のインターネットは……
ちっとも速くならなかった。
あまりに速くならなさすぎてビックリしたので、ネット回線得意民に変更前と後の測定結果(同日・同時刻に測定)を比較してもらった結果「使い道によるが、2つの結果を比較すると、一般的には『速度は変わらない or 若干落ちている』といえる」との回答だった。
ムカつくとかフザけんなという感情よりも、まず先に浮かんだのは「一体なぜ、あの営業の人は『絶対に速くなる』と断言したのだろう?」という疑問である。私が営業職を離れた15年ほどの間に、営業界隈では「嘘OK」という新ルールが爆誕していたのだろうか?
さて。ここまでにお伝えした内容は100%の真実(を、なんならマイルドにしたもの)なのだが、いかんせん証拠がない。そこは私の落ち度なので、別にクレームを言うつもりはない。
しかしながら、実際には速くならない、少なくとも速くなるかどうか分からない段階で「速くなる」と断言することは、果たして営業トークとしてアリなのだろうか? そのあたりを確認すべく、私は新しく契約した回線のカスタマーセンターへ電話を入れることにした。
・理由を知りたい!
幾度かのたらい回しを経て数日後、営業男性の上司を名乗る男性から電話があった。通話は全て録音しておいたので、ここからお伝えすることは先ほど以上に正確な事実である。あくまでクレームではないことを宣言したうえで、冷静に「あの営業トークはアリなのか?」と聞いてみた。
──「絶対に速度が速くなる」と断言する営業トークは、ルール的にありなのでしょうか?
上司男性「ありと言いますか……『他のお部屋ではこういう数値が出ました』というご案内をすることは、なくはないと思うんです。でも『必ず』という伝え方は、基本的にはやらないので……」
──「絶対に上がる」と言われたのですが
上司男性「いや、断言はしていないとは思うんですけど……う〜ん。もう、完全に断言していました?」
──はい
上司男性「そうですか……そこに関してはもう、本人にしか分かりませんもので……」
──じゃ、ご本人に確認してください
・衝撃の言い逃れ
やはり「絶対に速くなる」というトークはNGであるっぽいことが判明し、私はホッと胸をなでおろした。いくら令和だからって、さすがに嘘はいけないようだ。30分くらいが経過し、再びスマホが鳴った。先ほどと同じ上司男性だった。30分前の100倍くらいハキハキしている。
上司男性「お世話になります! ちょっと今、本人と連絡が取れないので、私のイメージでお話させて頂きますね。(← ん?)
え〜と、お客様の自宅で速度測定させていただいた際に『ウチのほうが速度が早い』とご案内させていただく可能性って、実際のところ、無くはないのかな? っていうところではあるんです。で、そのパターンの1つに “速度測定をさせていただいたタイミングで、たまたまだいぶ低い数字が出た”という場合があります。
そういった時に関しては、『これよりは出ますよ』ということで案内させていただくケースもあるかな? っていうところになりますね、ハイ!」
……上司男性の言い分を解説すると、例えば私がそれまで使っていた回線の平均速度を100とし、男性が売る回線の平均速度も100とする。しかし先に申し上げたとおり、回線速度というものは時間やタイミングなど様々な要因で変化する。
営業の男性が私の自宅で速度を計測したとき、偶然にも死ぬほど回線が混み合っていて、速度計は「10」とかの値を示した。なので「これよりは速くなりますよ」と案内した……と、上司男性は言っているワケなのだった。
こうなってくると、営業男性の脱法営業トークを証明する必要に迫られた場合、“営業男性のトークをあらかじめ録音しておく” ことに加え、“営業男性が速度を計測する様子をおさめた動画” が必要になることになる。
素人にこのような展開を予測することはほぼ不可能であるうえ、そもそも、それほどの知識があれば脱法営業トークに引っかかること自体が無いだろう。世知辛い……あまりに世知辛すぎる。
上司男性「基本的に断言はしないことが大前提なんですけど、状況によっては『これより出る』という確信があるといいますか……そういう言い方になってしまった部分が、可能性としてはあるのかな? というところです。
普段の営業活動だったり案内活動に関しては私が責任者という形でやっていますので、改めて今後はこういうことが起きないよう、しっかり指導させていただこうとは思っております。このたびは大変申し訳ございませんでした。貴重なご意見、ありがとうございました」
おたくで今後こういうことが起きなかったとして、それ私に何かメリットある? という思いは、もちろんある。しかし勝てないことが確定している以上、争っても心が疲弊するだけ。軽はずみな営業で損をする可能性は誰の人生にもありえるが、リスクを極力回避する努力をすることでしか防衛できないのが現状だ。
ってことで、ネットの営業の人がうまいこと言ってきた際は、会話を全て録音のうえ、重要そうなシーンは録画しておくこと! ホント世知辛くて嫌になるよね!
執筆:亀沢郁奈
Photo:RocketNews24.