創業34年の焼肉店、2代目の挑戦 名張・とらじ
改装でイメージ一新
創業して34年、三重県名張市蔵持町原出で親の代から親しまれてきた「焼肉亭とらじ」を3年前にリニューアルした2代目の岩本元煕さん(49)。従来の茶色からグレーを基調としたモダンな外観に変え、夜は店内から漏れる照明できらびやかな表情を見せる店舗「やきにく三重屋とらじ」に一新した。
2005年、29歳の時にそれまで勤めていた大阪市内のアパレル会社を辞めて家業の焼肉店に戻り、20年に2代目を引き継いだ。社訓は「ありがとう」で、顧客や取引先、店のスタッフとの縁を大事に、感謝の気持ちを忘れないことを心掛けているという。
「小学生のころにとらじの肉で育ったというお客さまが結婚の際、両家の顔合わせの場に新装した当店を選んでくれた。歴史を感じるとともに、感謝の気持ちでいっぱい」と話す岩本さん。
また、「先日、娘さんが母親の誕生日プレゼントの場に当店を利用して頂いた。他のお客さまにも協力してもらい、店内に誕生日の音楽を流し、照明を暗くしてケーキをプレゼントするというサプライズを演出。お母さまは感激の涙を流され、私たちスタッフも大きな感動を頂いた。焼肉店を続けていて本当に良かったと思う瞬間だった」と振り返る。
2代目を継いだ時、名張では比較的知名度のある店を自分の代でつぶさないようにしたいという気持ちがあったという。「親から事業を引き継ぎ、重いリュックを背負って山に登るという心境だった。しかし、休憩時間にリュックを下した時、自分の体がすっと軽くなっているのに気づいた。苦しい中で、もがきながらも足腰を鍛えておくことを、親から教えられたという思いがすごくある」と話す。
コロナ禍は店の将来を考える上で絶好の機会になったという。屋号のとらじの牛のデザインは、自らマジックインキで描いたもの。改装に当たり毎晩、このデザインを考えるうちに、頭の中には新しい店の外観、内装のイメージが出来上っていたという。早速、高校時代にサッカー部で汗を流した同級生の建築士に連絡し、設計を託した。
1階はSLをテーマに黒とグレーを基調とし、2階へ続くエントランスの階段下にワインセラーを設置。2階は純和風な空間にし、部屋の扉は大正初期の勝手口をイメージした。座敷席は足を伸ばせる掘りごたつ式に、通路は車椅子でも通れる広さにした。更にトイレの内装にもこだわり、「女性が思わず化粧直しをしたくなるような、上品で心地良い空間」に仕上げたという。6人部屋を中心に全部で13室。間仕切は高くし、感染予防にも配慮している。
農家との信頼関係
同店で扱うのはブランド牛の松阪牛だ。仕入れ先はもちろん、その前の段階の畜産農家にも足を運び、肉へのこだわりをぶつけ合い、20年間で人間関係を築き上げてきた。「取引先との信頼関係ができてこそおいしい肉と出会える」と話す岩本さん。
家族や仲間など、大切な人と出会う機会が減りつつある中、「おいしい肉を囲みながら、お客さまが驚き、笑い、心から楽しめるような店づくりに全力で取り組んでいく」と力強く語った。
2025年2月22日付887号22面から