子どもの【発達障害】高額療養費制度・子ども医療費助成・自立支援医療・福祉医療 専門家がわかりやすく解説
発達障害者が社会に適応して暮らすためには、服薬・カウンセリング・療育など、医療費が多くかかるケースも。負担軽減のため支援制度を利用するには正しい知識と申請が必要。「もらえるお金・減らせる支出」をテーマに、青木聖久教授(日本福祉大学)が解説。
【マンガ】発達障害の医療費ともらえるお金・減らせる支出小中学生の約11人に1人(8.8%)に発達障害の可能性がある(※1)とされるなど、発達障害は決して珍しくはない障害です。
発達障害者が社会に適応して暮らすためには、服薬やカウンセリング、療育など、医療費が多くかかるケースもあります。
医療費の負担を軽減するため、さまざまな制度が設けられていますが、利用するには正しい知識と申請が必要です。
「もらえるお金・減らせる支出」をテーマに、発達障害者への経済的な支援について、青木聖久教授(日本福祉大学)に教えていただきました。
(※1 文部科学省「通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する 調査結果について」より)
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
発達障害に多い「感覚過敏」
──発達障害の人にはどうして医療費の支援が必要になるのですか?青木教授:発達障害の症状によっては、人よりも多くの医療費がかかることがあります。
発達障害の人に多い症状として、感覚過敏があります。光や音、味や匂いや肌触りなど、体が受け取る感覚が非常に敏感で、本人にとっては刺激となってしまうような状態です。症状が強い場合、日常生活に支障をきたすことがあります。
例えば、感覚過敏のため歯磨きができない、という人もいます。口の中が極端に敏感で、歯ブラシなどの異物を入れることができないからです。その結果、歯を磨くことができず虫歯が増え、多くの医療費がかかってしまうのです。
参観日に床をのたうち回っていた息子
青木教授:『発達障害の子とハッピーに暮らすヒント』などの著書がある作家の堀内祐子さんは、発達障害がある4人の子どもを育ててきました。私も彼女と親しくしていますが、彼女の次男のエピソードがとても印象的でした。
発達障害の子とハッピーに暮らすヒント:4人のわが子が教えてくれたこと(堀内祐子+柴田美恵子:著)
青木教授:堀内さんの次男はとても丁寧な人で、いつでも敬語で話すような性格です。彼は匂い(嗅覚)の感覚過敏がありました。
ある日、堀内さんが参観のため幼稚園へ行くと、次男が床をのたうち回っていたそうです。
なぜかというと、保護者がたくさん教室にいることで、普段はしないはずの香水や化粧の匂いが充満し、苦しくてたまらなかったからです。
次男の様子を見て、堀内さんは「匂いが嫌なんだな」と理解しましたが、事情を知らない他の保護者や教師は、ふざけていると感じてしまうかもしれません。
このように発達障害の人は、他者からは原因が見えにくい困難を抱えています。そのような困りごとに対処するため、多くの費用がかかるケースも多いのです。
重くのしかかる医療費の負担
──周囲からは分かりにくいけれど、発達障害の人には多くの苦労があるのですね。青木教授:他にも発達障害がある人は、通院や服薬が長く必要になることが珍しくありません。また、定期的な服薬以外にも、療育やカウンセリング、日常生活を送るためのソーシャルスキルトレーニング(SST)など、さまざまな支援が必要になることがあります。
日本は国民皆保険制度が整っているので、保険適用の治療は誰でも3割の自己負担で受けることができます。
しかし、3割負担といっても長期にわたれば家計への負担は大きいですし、そもそもカウンセリングなどは保険適用外のことも多く、医療費の自己負担が重くなります。
だからこそ、自己負担を軽減するための仕組みについて知っておくことは大切です。
──医療費の負担が大きいことがよく分かりました。具体的にはどのような支援があるのですか?青木教授:代表的な制度として「高額療養費制度」や「子ども医療費助成制度」「自立支援医療」などがあります。ひとつずつ説明しましょう。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
上限額を超えた分が返金される「高額療養費制度」
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
青木教授:まず、高額療養費制度は、ひと月の自己負担額が高くなってしまったときに、負担を軽減できる制度です。高額療養費制度は、次のような特徴があります。
・ひと月の医療費が高額になった場合に軽減できる
・診療科や通院を問わずに使える
・家族の医療費を合算できる場合もある
ひと月あたりの上限額は年収ごとに決まっていて、例えば年収が300万円の人ならば、月の自己負担の上限額は5万7000円です。これを超えた金額は、手続きをすれば戻ってくるのです。(※1)
(※1 高額療養費制度の上限額は、2025年8月から段階的に引き上げが予定されています)
「子ども医療費助成」自治体によって大きな差
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
──子ども医療費助成制度についても教えてください。青木教授:これは、市区町村などの自治体が行っている、すべての子どもの医療費を減らしてくれる制度です。
本来ならば、就学前の子どもは2割負担、小学生以上は3割負担となる国の医療制度に上乗せする形で、それぞれの自治体が実施する医療費の助成です。
この制度によって、通院や入院にかかる医療費が「自己負担なし」または「一部負担」となります。
ただし、この助成は自治体によって大きく差があります。
例えば通院・入院ともに、親の所得に関係なく18歳まで自己負担なしの自治体がある一方で、対象年齢が「就学前」までと非常に短い自治体から、反対に「24歳まで」と手厚い自治体まで、さまざまです。また、保護者の所得によって助成を制限している自治体もあります。
申請方法は、所定の申請書に記入して申請し、認められると「医療証」などが交付され、それを医療機関に提示する自治体が大多数のようです。
──自治体によって差が大きいのですね。
通院の負担を軽くする「自立支援医療」
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
──「自立支援医療」とは何でしょうか?青木教授:自立支援医療は、障害を持つ人を対象に、国が行っている医療費助成です。
身体障害がある人への「育成医療」(18歳未満)と「更生医療」(18歳以上)、精神疾患・発達障害がある人への「精神通院医療」の3つに分かれています。
このうち精神通院医療は、精神障害者保健福祉手帳がなくても申請できます。認められれば、所得によって自己負担が1割かそれ以下まで軽減されます。
精神通院医療という名前のとおり、対象になるのは主に通院して受ける医療、つまり外来での診療・投薬が中心です。外来診療に加えてデイケアや訪問看護も対象になりますが、入院治療は対象外です。
なお、自立支援医療が適用されるのは、都道府県などが指定した医療機関のみであり、利用者が自由に医療機関を選ぶことはできません。また、発達障害と関係のない病気の医療費も対象外です。
地域ごとに独自の制度がある場合も「福祉医療」
──他にも役立つ制度があれば教えてください。青木教授:いま紹介した、「高額療養費制度」や「子ども医療費助成制度」「自立支援医療」などに加えて、障害を持つ人やひとり親家庭などを対象に、医療費を軽減する制度を自治体が設けていることがあります。
これは自治体によって名称がまったく異なり「重度障害者医療費助成」や「福祉医療費給付金制度」などさまざまです。
書籍『発達障害・精神疾患がある子とその家族が もらえるお金・減らせる支出』(著:青木聖久、漫画:かなしろにゃんこ。)より
青木教授:このような制度を設けている自治体の中には、精神障害者保健福祉手帳を持っている人に医療費助成を実施しているところも多数あります。
ただし、内容は自治体によってバラバラで、手帳の等級に関係なく医療費が無料になる自治体もあれば、手帳の等級が1級のみを対象として助成をする自治体もあります。
うまく活用すれば医療費の負担をさらに軽くできるので、まずは住んでいる自治体に助成制度があるかどうかを調べましょう。インターネットで調べたうえで、役所に電話で問い合わせれば確実です。
さまざまな経済的支援は、発達障害で困難を抱える人が安心して社会で暮らしていける、手助けになります。ぜひお住まいの地域の支援制度をよく知って、上手に活用してほしいですね。
──まとめ──
発達障害の医療費負担を軽減するには、国や自治体の支援制度を活用することが大切です。高額療養費制度や子ども医療費助成、自立支援医療など、さまざまな助成があります。
特に自治体による支援内容は地域ごとに異なるため、住んでいる自治体に直接問い合わせることが重要です。制度を賢く利用し、医療費負担を減らしましょう。
青木聖久教授に教えていただく【発達障害の子どもと家族が「もらえるお金」と「減らせる支出」】連載は全3回。障害者手帳についてお聞きした第1回に続き、第2回となる今回は、医療費の負担軽減制度についてお聞きしました。最後の第3回では障害年金について詳しく紹介します。