次世代につなぐ伝統~津軽と南部の堅豆腐~
昨今の健康志向の高まりから、タンパク質を多く含む豆腐の良さが見直されていますね。
「堅豆腐」という言葉を聞いたことがあるでしょうか?沖縄や北陸地方が有名な堅豆腐、実は青森県にも存在し、津軽地域と南部地域の2つの系統が存在します。その伝統を復活させ、支える人たちを取材してきました。
堅豆腐とは?
堅豆腐は石豆腐などとも呼ばれ、石川県などのものが有名ですが、雪深い地域では貴重なタンパク源として重宝されており、ここ青森県にも存在しています。縄でしばっても型崩れしにくいことが最大の特徴です。
本当に縛ってみた!
日常的に様々な料理に用いられるだけでなく、正月や祭礼の時など、「ハレ」の日に食べるものとして位置付けられています。
津軽の堅豆腐復活プロジェクト
世界自然遺産・白神山地の西目屋村 砂子瀬地区や川原平地区では、周辺を水源とする冷たい水を使って締めた目屋(めや)豆腐が古くから作られてきました。
あえて豆を荒く処理し、しっかりした食感の中に大豆の味が強く感じられるおいしい豆腐です。
ところがこの目屋豆腐に悲劇が。。。1960年から2002年にかけて、2度に渡るダム建設により、西目屋村一部地区の住民は移転を余儀なくされ、集落の慣習を引き継ぐ存在がいなくなってしまいました。目屋豆腐の伝統は一度途絶えたのです。
きっかけは「最近、目屋豆腐食べてないなぁ」の一言
そんな中、ダム建設業者の「最近、目屋豆腐食べてないなぁ」の一言がきっかけで、西目屋村役場と道の駅津軽白神ビーチにしめやを運営する白神公社が立役者となり、目屋豆腐復活プロジェクトが立ち上がりました。
西目屋村役場
西目屋村産業課 商工観光係 山内係長はまず畑の作付けからスタートし、畑の水はけ改善や、豆腐作りの道具の手配などに苦心しました。
一方、白神公社では元住民へのヒアリングを重ね、豆腐作りを開始しました。ところが、家庭によってにがりを入れるタイミングなどが異なり、製造方法を確立するまでにかなりの苦労がありました。とにかく豆腐を何千丁と作って、うまく固まらせる方法を模索しました。このような関係者の苦労の末、ついに伝統の目屋豆腐が復活したのです。
一般社団法人ブナの里白神公社のみなさん 連日、即日完売!
2014年に販売にこぎつけた目屋豆腐。12~3月の冬季、暖房もつけない氷点下の工房で朝6時からほぼ手作業で作られています。毎日120丁がなんと即日完売。村外からも県民が買いに訪れます。豆乳を絞る作業はスタッフの体重で調整し、煮汁をかき混ぜる加減でも味が変わるため、日によって若干味が変わるのもご愛嬌で、手作りならではの魅力です。
◇店舗情報◇
店舗名 道の駅津軽白神ビーチにしめや 住所 西目屋村田代神田219-1 電話 0172-85-2855 営業時間 9時~なくなり次第終了 ダム水没地区出身者が営む、地産地消カフェ
白神山地への玄関口であるアクアグリーンビレッジANMON内に2023年4月にオープンしたのが「カフェ白神とうふ」です。店長の工藤治子(はるこ)さんはダム建設で水没した地区の出身で、幼い頃から目屋豆腐に慣れ親しんできました。
工藤店長は、目屋豆腐を作ることのできる人が皆高齢化していることが気がかりでした。そんな想いから、カフェで目屋豆腐を提供することを決意。毎朝、店内で手作りし提供しています。
伝統に独自のアレンジ
通常の目屋豆腐よりも水から引き上げるタイミングを少し早め、食べやすいようにおぼろ豆腐寄りにしている工藤店長。
さらに工夫したのが、茶飯とセットで提供していることです。工藤店長曰く、「私自身が体調不良だったときに茶飯に豆腐をのせてみたら、白ご飯やおかゆよりもおいしく感じたから、という偶然の産物ですが、あまり他では見ない提供の仕方になったかなと思います。」
だし醤油も茶飯と豆腐の味のバランスが損なわれないように工夫しているとのこと。
おいしくて、その上体にも良さそうです!
子どもたちもやってきて食べる堅豆腐
工藤店長は、この白神山地の近くで目屋豆腐を提供することに意味があると感じています。また、カフェに来店してくれる小さな子どもなどが「おいしかった!」と喜んでくれることがとても嬉しく、やりがいになっているそうです。
滋味あふれる味わいの茶飯
蛇口をひねれば白神山地の湧水が出てくるという、この上なく自然豊かな土地の厨房で毎日手作りされている目屋豆腐、ぜひお試しください!
◇店舗情報◇
店舗名 カフェ白神とうふ 住所 西目屋村川原平大川添417 アクアグリーンビレッジANMON内 電話 080-2028-3756 営業時間 10時~16時(定休日:火曜及び水曜)
南部の堅豆腐の伝統を守り、支える
青森県の三八地域や岩手県の県北部など、かつて南部氏がおさめた「南部」地域でも、昔から堅めの豆腐が作られてきました。「やませ」と呼ばれる冷たい北東風の影響で稲作が困難な地域だったため、雑穀や大豆が主要な食糧であり、大豆から作られる堅豆腐が貴重なタンパク源としてこの地域の食文化となったのです。
しかし、「朝は早い・冬は寒い・夏はいたみやすい」と苦労の多い豆腐業界では、後継者不足から昔ながらの豆腐店が次から次へと閉業している状況です。それでも、「90歳までは豆腐職人を続ける!」と力強く語ってくれたのが、田子町の田畑豆腐店さんです。
この道48年のベテラン豆腐職人
田畑豆腐店 店主の田畑 信男さん(71)は、妻の伸子(しんこ)さん(69)と二人三脚で店を切り盛りしています。
祖父である田畑 円次郎さんが創業した頃からずっと伝統的な製造方法を受け継ぎ、丸大豆を100%使い、防腐剤を入れないことが特徴。そのため、スーパーなどの小売店に卸すことは一切していません。つまり、田畑豆腐店の豆腐を購入するには直接お店に出向くか、行商を待つしかないのです。
48年間、食品ロス ゼロ!
夫婦でできる範囲で、毎日売り切れる量だけを製造し続けてきた田畑夫妻。その方針をぶれずに貫いてきた結果、48年間食品ロスゼロという、SDGsにかなう状況を達成しています。また、田子町周辺では高校卒業と同時に地域から離れてしまう若者が多いのですが、そんな若者がお正月などに帰省し堅豆腐を食べたときに「懐かしい」と喜んでくれることが一番のやりがいです。また、弘前市や秋田県、岩手県などから2時間前後もかけてわざわざ買いにくる常連客の存在も励みになっています。
◇店舗情報◇
店舗名 田畑豆腐店 住所 田子町石亀杉本75 電話 0179-33-1758 営業時間 10時~なくなり次第終了(定休日:月曜) 故郷の伝統を守りたい
階上町にある「アグリキッチンカフェ」オーナーの小松 良重(よしえ)さん(66)は、南部の堅豆腐の今後を案じる一人です。生まれ故郷である南部地域の伝統を守るにはどうしたら良いのか?それには豆腐店に生産を維持してもらう必要があり、そのためには食材として堅豆腐を活用し、魅力を発信するしかないと考えました。そんな小松さんは、これまでに10種類以上の堅豆腐レパートリーを考案してきたのです。
料理上手で、おしゃべりも大好きな小松さん 知事も食べた!売れ筋の堅豆腐田楽
堅豆腐のメニューを地元の道の駅で販売したり、地元の様々なイベントに出店し販売することで堅豆腐の応援をしている小松さん。「階上いちご煮まつり」のブースを訪れた宮下青森県知事も購入した一番人気商品が、堅豆腐の田楽です。南部地域で食べられる「そばかっけ」という郷土食で使われる味噌をアレンジしたペーストを、こんがりと焼いた堅豆腐にのせたもの。八丁味噌ににんにく、しょうが、山椒、すりごまなどを加えた独自のブレンドで作られた味噌が香ばしく、小腹が空いたときの栄養価が高いおやつや、日本酒のおつまみにもなりそうな味わいです。
若い世代に受け入れられるアレンジを
小松さんは以前八戸学院大学の女子ラグビー部寮でまかないのボランティアをしていたこともあり、若い世代への「食育」には並々ならぬ関心があります。食生活アドバイザーの資格を活かし、「使いにくそう」というイメージを持たれがちな堅豆腐に洋風のアレンジを加えたり、スイーツの材料にしたりと、若い世代の関心をひくような工夫を重ねています。
小松さんご自宅の居間でくつろげる、アグリキッチンカフェ
堅豆腐の豊富なタンパク質を摂取することで、心身を健康に保ってほしいという願いをこめて、日々メニュー開発に精進する毎日です!
◇店舗情報◇
店舗名 アグリキッチンCafe 住所 階上町道仏耳ケ吠43-301 電話 0178-88-5273 営業時間 11:45~15:00(定休日:日曜及び月曜(土曜は要予約))
青森県の堅豆腐を次世代につなげようという人々に共通するのは、生まれ故郷の伝統への熱い想いでした。若い世代の方もぜひ、滋味あふれる大豆のおいしさを味わってみて、その魅力のトリコになってくださいね!
by フォレスタ