薬不足で薬局をたらい回しにされました
空気の乾燥が気になる季節ですが、東京都は先週、インフルエンザの流行シーズンに入ったと発表。私も先週、風邪気味だなと思って病院に行ってきたんですが、その際に、数年前から耳にする「薬不足」という問題に直面したので取材しました。
不足の薬は薬剤師が必死でかき集めている
今年の状況はどうなっているのか。東京・中野で「とおやま薬局」を営む薬剤師、遠山 伊吹さんに伺いました。
「とおやま薬局」薬剤師 遠山 伊吹さん
抗生物質と、咳止めと、痰切りと、漢方薬でも一部、咳とか熱に効くような成分の漢方薬も足りてないですね。ジェネリックも先発薬品も両方足りてない状況です。
私の経営している「とおやま薬局」では近くに小児科がありまして、非常に風邪の患者さん、多くいらっしゃるんですけど、その中でせき止め、例えばアスベリンという薬がありまして、これ、粉薬で月に5本ぐらい消費されるんですけど、入荷が月に1本あるかないかっていう状況なんですね。なので本当に必要量の20%ぐらいしか入荷してない状況ですね。
本当に高熱出してたらい回しになってる方もいらっしゃいますし、5、6軒回ってうちに来てやっと薬があったって方とか多いので、どうしてもない場合は、ちょっと探していただくしかないですね。
<処方箋イメージ>
「薬局をたらい回しにされている人もいる」という話でしたが、まさに先週の私自身がその一人。病院で喉風邪と診断されて、「咳止め」や「抗生物質」などを処方してもらったのですが、かかりつけ薬局に行くと、「在庫がない」と断られました。次の薬局でも「在庫なし」。最終的には、7件目の薬局で病院に連絡を取ってもらい、在庫のある薬に処方箋を書き換えて急場をしのぎました。
では、「在庫がある薬だけ」を処方してもらうことはできないのか?実は、それも簡単にはできません。例えば、3種類の薬が処方されている場合、2種類だけでは効果が十分に得られないことがあります。そのため、薬局側で勝手に薬を削除したり、変更したりすることはできないのです。
さらに、アレルギーがある方や、妊婦中の方など、特定の薬しか使えない方の場合、代わりの薬が使えないケースもあるため、クリニックも、薬局に在庫がある薬の中で対応せざるを得ない状況です。
なぜ薬が足りない?
でもこの「薬不足」、数年前から聞いている気がしますが、なぜ薬が足りなくなっているのか?薬剤師会の広報も務める遠山さんに、その背景を伺いました。
「とおやま薬局」薬剤師 遠山 伊吹さん
かなり複雑な理由があるんですけど、まず一つに薬を作る製造過程においても年々チェックが厳しくなってまして、設備投資をして高い基準の中で作らないといけないということで、そういったコストも上がってるということ。あとはロシアとウクライナの戦争の関係で原材料が入りにくいとか、薬の物自体も値上がってるというのもそうなんですけどそれに付随するパッケージとか、プラスチックとか値段も上がってて、あとはジェネリックメーカーの不正の問題もあって工場が止まってたりとか、そういったいろんな原因があって、今の状況になっている。
なので価格に転嫁できないので、国が(値段を)決めちゃってるので。仕入れ値が上がったからっていって、じゃあ値段を「1錠10円の薬を、20円で売ります」とかっていうことができないので。なので、その中で増産というのはメーカーとしても厳しいという話はよくしてますね
<薬イメージ>
複数の要因が絡み合っていますが、そのでも特に影響が大きいのが、ジェネリック医薬品の製造がガクッと減ってしまったことがあります。2021年頃から複数のメーカーで製造工程で不正が発覚して、業務停止などの行政処分が行われた結果、製造がストップしてしまいました。
さらに今年はインフルエンザやマイコプラズマ肺炎などの感染症が広がって、薬の需要が急増。これが、「薬不足」に拍車をかけているようです。
こうした中、薬局側が卸売業者に問い合わせても「在庫がない」と返されるケースが多く、わずかに残った在庫をかき集める必要があります。「とおやま薬局」では、系列店同士で薬を融通し合い、日々、在庫状況を共有することで対応しているようですが、この4年で、状況はさらに悪化していると話していました。
ぜんそくの薬も連鎖して不足
そして、風邪用の咳止めや抗生物質だけではなく、別の薬にも影響が出始めているようです。
「とおやま薬局」薬剤師 遠山 伊吹さん
ぜんそくの薬ですね。咳止めも2種類あって、風邪の咳止めと、ぜんそくの咳止めがあるんですね。
風邪で咳止めがなくなくなっちゃうと、仕方なくぜんそくの薬を代用するケースもあるんですね。そうすると毎日、ぜんそくの発作予防のために飲んでる方が薬がなくなるようなケースもちょっと出てきてまして、実際にぜんそくの方が吸う「吸入薬」も今不足しだしてきてるので、風邪じゃなくて、そういったぜんそくの方も、今後もしかしたら苦労するかもしれないですね。
ぜんそくの吸入薬が不足しはじめているようです。とくに吸入薬は種類によって使い方が変わるので、新しい薬に切り替える際には使い方を覚え直す必要がありますし、高齢の患者さんにとっては大きな負担です。
遠山さんはまずはこの冬のピークの12月、1月を乗り切れるかどうか心配していましたが、薬不足の問題は、健康にかかわる大きな問題。日本全体で医薬品の生産体制を見直す必要があります。
(TBSラジオ『森本毅郎・スタンバイ!』取材:田中ひとみ)