学校からの持ち帰り忘れが多い!プリント、宿題、連絡帳も…ADHD特性に効果的な忘れ物対策は?【公認心理師・井上雅彦先生にきく】
監修:井上雅彦
鳥取大学 大学院 医学系研究科 臨床心理学講座 教授/LITALICO研究所 スペシャルアドバイザー
学校から持ち帰り忘れる……忘れ物が多いとき、どう対策する?
学校からの配布物や宿題、週末の体操着など、家に持ち帰るべきものを学校に置いてきてしまう――。持ち物の管理が苦手で、よく忘れ物をするお子さんへの対応に悩むご家庭も多いかもしれません。
発達ナビのQ&Aコーナーでも、以下のような声が寄せられています。
直近では、学校からの持ち帰り物を忘れることが非常に多く、本人&母共に困っています。
例えば、連絡帳(書いたのにおいてくる)、傘(雨の日家から差していける傘がない)、ノート・教科書(宿題ができない)、筆箱(鉛筆削りなど毎日のタスクができない)等
上記の連絡帳・筆箱…など毎日定常で持ち帰る物も忘れてくるのが特徴です。
また、毎日全部忘れてくるわけではなく、筆箱がない日、ノートがない日…など日によってバラつきがあります。https://h-navi.jp/qa/questions/184405
ADHDあるあるですが、小学一年の我が子、忘れ物が多いのです。
毎日ランドセルに付箋で持ち帰るものを書いていますが、3日間書き続けて言い続けてやっと持って帰ってくるような感じです。
朝の提出物は全て連絡帳袋に入れ、これも付箋で「朝、連絡帳袋の中身を全部先生に渡す!」と書いていますがそれでも出し忘れることがあり…
まあ、付箋を見忘れている&本人の中でランドセルの一部になってしまっている、
または帰り支度の時にぼーっとする or 他のことをやっていて慌てて帰り支度をして忘れてしまうのだと思います。先生も帰りの支度の声かけはしていただいていますが、持ち帰るものまでは見ていただけず。でも、私もそこまではお願い出来ないと思っているので何とか自力で解決したいのです(>人<;)
https://h-navi.jp/qa/questions/40424
かろうじてランドセルは背負ってますが、手に他の荷物はもちませんし、教科書、連絡帳などは学校に置きっぱなしです。
本人いわく、
手荷物は、他のもの(通学路で拾う石ころや棒切れ)が持てないから持ちたくないし、忘れちゃう。連絡帳とかは面倒くさいし、学校で忘れる。
とのこと。
リスト作って確認しても、家から出るところまでは何とかなりますが、学校から帰り(学童クラブへ)は本人任せです。ちなみに私は働いているので、フォローできません。似たようなタイプのお子さんは、学校からの帰りに、どうやって持ち物や連絡帳を維持されてますか?
https://h-navi.jp/qa/questions/35888
今回はそのような持ち物管理のお悩みについて、鳥取大学大学院教授で発達障害を専門とする井上雅彦先生にお伺いしました。
学校からの持ち帰り忘れが多い中学生の息子。ADHD(注意欠如多動症)の忘れ物対策は?
A:忘れ物対策は、学校から帰る前に持ち帰るものを点検する習慣付けや、持ち物をできるだけ一つにまとめるなどの工夫を、お子さんと一緒に考えていくことが大切です。
家から学校に持って行くものはある程度保護者がサポートできますが、学校から持ち帰るシーンは保護者が直接関われないので、なかなか対策が難しいですよね。
理想としては、学校で帰りの支度をする時間などに、持ち物を点検する習慣が付けられるといいですね。そうすると忘れ物をしにくくなると思います。例えば大人でも、出発前に「財布・携帯電話・カギを持ったか?」などを無意識に点検している方も多いのではないでしょうか。同様に、毎日持ち帰るものについては、点検することを1つずつ習慣化できると良いかもしれませんね。
習慣化をサポートする際は、日によって持ち帰るかどうかが変わるものよりも、毎日必ず持ち帰るものから始めることがポイントです。スモールステップでまずは1つ、決めた道具を持ち帰ることを目標にしていきます。
例えば、持ち帰るものを「連絡帳」と決めたら、ランドセルやカバンを開けたときに目に入る位置に「連絡帳を入れる」と書いた紙を貼るなどして、思い出せる工夫も大事になってくると思います。
不注意による忘れ物は、注意したり叱ったりしても、なかなか改善することが難しいでしょう。「忘れないように頑張る」などの意識付けよりも、お子さん本人と一緒に工夫を考えていくことが大切です。
例えば、宿題で必要なことが多い国語・算数は毎日全て持ち帰るというお子さんもいます。日によって持ち帰るかどうか変わるよりも、多少重くても毎日持ち帰るほうが忘れなくて良いという場合もあるでしょう。
本人が使いやすい連絡袋にするのも一つの方法です。ファスナー付きだと開けることに手間取る場合はクリアファイルのほうが良いかもしれません。クリアファイルもあえて透明なものではなく、本人が好きなキャラクターや目立つ色のほうが目に留まりやすいかもしれませんね。
発達ナビライターの丸山さとこさんは、息子さんの忘れ物やなくし物対策として、「なくすこと、忘れることを前提に準備」という対応をしたそうです。
そのため、コウの入学に伴い『なくし物・忘れ物対策』として、私は大量の学校用具を用意しました。主に大量購入したものは、筆記用具・給食袋・ハンカチとティッシュ・水筒・歯磨きセットです。
特に、消しゴムや鉛筆などの小さな消耗品は大量にストックが余っても困ることはありませんので、箱単位で多めにストックしておくよう心がけていました。
残念ながら「予想よりストックは使わなかったな。余って困ったな~」と思う機会は全くなく、筆記用具はどんどん足していくスタイルのまま、コウは小学校を卒業しました。給食袋は4袋学校に置き忘れたことがありましたし、水筒は3本で足らずにペットボトルを持たせたこともありました。
https://h-navi.jp/column/article/35030058
「持って帰るものを忘れないようにする」と大きな目標にするのではなく、お子さんが特に忘れやすいものや、忘れたときに困る度合いが大きいものから、1つずつ対策を考えていけると良いですね。
持ち物の管理が苦手で、大事なプリントも親に渡してくれないときは?
A:プリント類を保護者に渡してくれないという場合には、まずはお家のなかで連絡袋を出す場所を決めて、帰宅したらすぐにランドセルから連絡袋を出すことから始めていくと良いかもしれません。
学校でも、連絡帳を出す箱、宿題を出す箱が決まっていて、登校したらすぐ決められた箱に出すことを毎朝のルーティンにしている場合もあります。お家でもリビングの分かりやすい場所にトレーなどを置いて、その横にお子さんの好きなおやつなどを置いておいて、「帰宅したら連絡帳を出してその日のおやつゲット」という流れにするのも一つの方法です。
また、プリント類を保護者に渡してくれないのは何が原因か?どこでつまずいているのか?を改めてお子さんと一緒に確認していくことも大切です。
プリント類を保護者に渡すまでのステップの例としては、
1:学校で配られたプリントをすぐに連絡袋に入れる
2:連絡袋をランドセルの中に入れる
3:帰宅後にランドセルから連絡袋を出す
4:連絡袋から保護者に渡すべきものを選別し、保護者に渡しに行く
大きくこの4つがあると思います。
前述の連絡帳用トレーを置く工夫は、ステップ3〜4を行いやすくする工夫になりますが、お子さんはどこでつまずいているでしょうか。
ステップ1でつまずいている場合にも理由はいくつか考えられると思います。例えば、「持ち帰るべきプリントと、学校に置いておくプリント」を選別することが難しい場合、「配られたプリントはすべて連絡袋に入れる」と手順を減らす工夫も選択肢になるでしょう。あるいは、実は連絡袋自体、家に忘れてしまうので学校で入れる袋がない、なんてこともあるかもしれません。
このように今一度お子さんと一緒に手順を振り返ってみることで、お子さんに合う手立て・必要な工夫が見つかりやすくなるでしょう。
まとめ:持ち物管理アプリの活用にもチャレンジ
学校からの配布物については、最近はスマートフォンのアプリ経由で、保護者に直接データを送信する学校も増えてきているのではないでしょうか。デジタルな方法が普及することで、ご家庭の困りごとが減っていく面もあるかもしれませんね。
小中学校の校内では難しいかもしれませんが、大人になるにつれて、スマートフォンやスマートウォッチのリマインダー機能、音声デバイスの活用など、デジタルを駆使していくことも、忘れ物を減らすことに役立つと思います。
持ち物管理アプリやリマインダーなど、まずはご家庭のなかで少しずつデジタルな手段を取り入れてみても良いでしょう。
(コラム内の障害名表記について)
コラム内では、現在一般的に使用される障害名・疾患名で表記をしていますが、2013年に公開された米国精神医学会が作成する、精神疾患・精神障害の分類マニュアルDSM-5などをもとに、日本小児神経学会などでは「障害」という表記ではなく、「~症」と表現されるようになりました。現在は下記の表現になっています。
神経発達症
発達障害の名称で呼ばれていましたが、現在は神経発達症と呼ばれるようになりました。
知的障害(知的発達症)、ASD(自閉スペクトラム症)、ADHD(注意欠如多動症)、コミュニケーション症群、LD・SLD(限局性学習症)、チック症群、DCD(発達性協調運動症)、常同運動症が含まれます。
※発達障害者支援法において、発達障害の定義の中に知的発達症(知的能力障害)は含まれないため、神経発達症のほうが発達障害よりも広い概念になります。
ASD(自閉スペクトラム症)
自閉症、高機能自閉症、広汎性発達障害、アスペルガー(Asperger)症候群などのいろいろな名称で呼ばれていたものがまとめて表現されるようになりました。ASDはAutism Spectrum Disorderの略。
ADHD(注意欠如多動症)
注意欠陥・多動性障害の名称で呼ばれていましたが、現在はADHD、注意欠如多動症と呼ばれるようになりました。ADHDはAttention-Deficit Hyperactivity Disorderの略。
ADHDはさらに、不注意優勢に存在するADHD、多動・衝動性優勢に存在するADHD、混合に存在するADHDと呼ばれるようになりました。今までの「ADHD~型」という表現はなくなりましたが、一部では現在も使われています。