「つぶつぶ」と言うときの唇はどうなっている? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「U」を含むオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「くすくす」「つぶつぶ」「ぷるん」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年12月号から、母音の「U」を含むオノマトペに宿るイメージを見ていきます。
母音 Uを含むオノマトペ
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句例のオノマトペを発音してみてください。「うすうす」「くすくす」「すく」「つぶつぶ」「ぬるりくるり」……唇はどのくらい突き出ますか?
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現代日本語の母音Uは、方言にもよりますが、英語のtwoやlookほどには唇を丸めません。それでも、「ふっつり」「つぶつぶ」「ぷるん」「むくむく」あたりは、比較的唇が突き出るのではないでしょうか。今回注目するウ段は、この発音特徴を反映して、突き出るイメージを持つといわれます。ただ、このイメージはそれほどはっきりしたものではありません。句例のうち、「すく」と立つ観音像、紫陽花の「つぶつぶ」した花芽、「むくむく」と動くホースには、「突き出る」に相当する方向性が見出せるかもしれません。一方、「うすうす」や「くすくす」は何も突き出ていません。
私の研究チームが行った実験によると、日本語に限らず、そしてオノマトペに限らず、Uには暗いイメージが伴うようです(次々回見るOにもその傾向があります)。実際、「暗い」「曇り」「鬱」「憂い」「幽々」、さらにgloom(薄暗がり)、cloud(雲)、shadow(影)のような暗さに関する言葉には、しばしばUが入っています。同様に、「うすうす」とおとずれる春愁や、べったら漬の「ぬるりくるり」とした手触り、家族を「ふつつり」と忘れる様子は、やや暗い印象を与えるかもしれません。ただ、「くすくす」や「ぷるん」には、そのような印象はなさそうです。このように、ウ段はオノマトペ研究者の悩みの種です。
『NHK俳句』テキストでは、「多くのオノマトペのUにはあまり意味がないのではないか」という仮説をもとに、日本語におけるUの役割を考えていきます。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年12月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版))/ Akita, K., McLean, B., Park, J., & Thompson, A. L. (2024). Iconicity mediates semantic networks of sound symbolism. The Journal of the Acoustical Society of America, 155.
◆トップ写真:GYRO_PHOTOGRAPHY/イメージマート(テキストへの掲載はありません)