「みんなを納得させなきゃいけない」 井田勝大、指揮者としての覚悟を語る
個性豊かな様々なゲストをお迎えして、幼少期のターニングポイントや、やる気スイッチの入った瞬間を深掘りしていきます。
メインパーソナリティの佐藤隆太さんと佐々木舞音アナウンサーの2人でお送りします。
3月3日(月)放送のゲストには、シアターオーケストラ東京などの音楽監督を務める、指揮者の井田勝大さんが登場!冒頭から「なかなかこういった職業の方とご一緒することがないので…」と佐藤さんも興奮気味!楽しいお時間をお届けします。
佐藤:僕も舞音ちゃんもちょっと興奮してます。(笑)
井田:どうしてですか?
佐藤:やっぱり指揮者の方って、すごい憧れありますけどなかなかお会いする機会って我々あまりないので。こうやってゆっくりお話できるお時間をいただけて本当に嬉しく思ってます!
井田:こちらこそ本当にありがたいです。よろしくお願いします!
佐々木:指揮者の方ってドラマとかでは見るんですけど、実際どういう感じでお仕事されているのかって、ものすごく興味があります。
サッカー少年からオーケストラの世界へ!“やってはいけない練習”が、実を結んだ!?
佐藤:そもそもやっぱり指揮者の方って僕らが想像すると、やっぱり幼い頃から常に音楽に触れていたとかそういうイメージがありますけども、いかがでしたか。
井田:私は父親が音楽教師で、トランペットを吹いてたので、父親の影響でトランペットずっと聞いてましたね。それでジャズを親父がやってて、親父がその練習にジャズのバンドに一緒に行ったりするんですけど、それについて行ったりして。ドラムのおじちゃんだったりとかサックスのおじちゃんとか、そういうおじちゃんたちにかわいがられて、楽器とかそういう音楽とかは常に身近にあって、楽しみながら音楽に親しんでたっていうような感じですね。
佐藤:ご自身がお父様の影響でトランペットを始められるんですか?
井田:小学校んときは、サッカー少年だったんです。
佐藤:そうなんですね!
井田:あんまり楽器に興味なくて、中学校になったときに「親父もやってるしちょっとやってみたいな」と思って、それでサッカーやめて吹奏楽部に入ったっていう。
佐藤:ちゃんと楽器に触れるのはそこが初めて?
井田:中学校になってからが初めてですね。
佐藤:お父様の方から何か「お前もやってみろ」みたいなことは?
井田:何て言うんですかね。すごく言われたって訳ではないですね。特に言われたわけじゃなくて。ピアノだけはね、ちょっと“やらされてた感じ”はあると思います。でもサッカーの練習休まなきゃいけないから。ピアノのレッスン行きたくないと思って結構ピアノレッスンはサボってましたね。もうガッツリ、サッカー少年だったわけですよ。(笑)
佐藤:なるほど!(笑)トランペットって楽器としてすごく難しい楽器ですよね。
井田:そうですね。やっぱすごく難しくて、唇の振動だったりとかその形がすごく大事なんですよね。それと、中学生みたいにまだ体がちっちゃいと、息も十分に入っていかないんです。悪い吹き方を覚えたりすると、なかなか上達しないってなっちゃう人はたくさんいるんですけど、私の場合はありがたいことに順調にいった部分もあるし、一番良かったのは、いろんな人のCDを聞いたことですね。そのCDに合わせて一緒にトランペットを吹いたり、本当はあんまりやっちゃいけないことって言われてるんですけどね。そういうタブーだったりしても、まあやってみたらいいなと思ってやってみて、そしたら意外とその耳から入ってくる音色を目指して、自分の唇が勝手に反応して同じ音を出すようになったりとかすごく不思議な感覚だったんですよ。それが自然とできるようになってきたんです。
佐藤:へ~!面白いですね!
井田:思いつきでやってみた練習だったんですけど意外と、どこかにヒントが隠れてるっていうか、ちょっと意外とわかんないもんだなって。
リーダー気質が影響し、指揮者の道へ進むも、初のオーケストラの指揮は苦い経験に…?
佐藤:そこからどういった流れでその指揮者に?
井田:そうですね。不思議なもので、これもやっぱり自分のそういう青春期の経験ってすごくでかいなと思って。部活でやっぱ部長とかやってたんですよね、こうやってよく喋りますし。人をまとめるのが得意っていうか、人をまとめるとか、みんなで何か一緒にやるってのはすごい好きで。当然、大学にはトランペットで入ったんですけど、やっぱ自分のトランペットに向き合うがために、練習室にこもって1人で練習して、その瞬間はなんかすごい不安なんですよね。それがオーケストラの練習に行って、みんなと一緒に吹くとなると、やっぱり自由なんですよ。それだけなんか部活のときもそうだったんだけど周りのみんなに助けられて音楽やってたんだなっていうことを大学に入って痛感して。そのときにオペラを色々やってたんですけど、オペラってやっぱり“歌う人ありき”なんで。その歌う人がどういうことを歌ってるのかっていうことを全然わかってなくて、もっとオペラ全体を勉強したいなって思い始めたのが一番のきっかけで。
佐藤:なるほど。
井田:オペラを勉強したいと思って友達に「指揮者でもやれば?」って言われてちょっと体験的にやってみようかなと思ったのが一番初めのきっかけで。やりだしたら、なんて面白いんだと。(笑)自分がトランペットを1人で練習して、不安になりながらやってることよりも、さっき申し上げたように“みんなでやること”だから、どういう方向に持っていくかとか、どういう演出にしていくかとかそういうことを決める権限を持ってて、指揮者っていうのは。そうするとなんか、みんなでもっとこういうふうにしたら面白いじゃないか、とかアイディアがどんどん出てくるんですよね、自分の中で。そうするとやっぱりちょっと指揮やってみたいなって沸々と思い始めてある時、学校の先生に「指揮者やってみたいんだ」と言ったら、「お前なんかも絶対無理だよ」みたいなふうに言われたんですけど、それでもやっぱりちょっと諦めずにやってみようと思いを持って努力を続けてたっていうのがなんか大学生の頃の一番の思い出かもしれませんね。
佐藤:確かに、あの指揮者という立ち位置からすると、やっぱり一つのチームの皆さんと常に向き合うわけですよね。っていうところがやっぱり居心地がいいというか、そこに挑戦してみたいということですね。
井田:楽器のことも勉強しなきゃいけないし、もっと音楽全般のことも知らなきゃいけないし、勉強の意味ですごくハードルは一気に上がるのが指揮者っていう存在なんですけど。やっぱりそれも一つの経験だと思って、ぜひ挑戦してみたいなと思って、やっぱそれを指揮者の勉強することがトランペットにもすごくいい影響ありましたし、新しい捉え方を得られましたね。
佐々木:1人で指揮棒を振る練習とかもするんですか?
佐藤:素振り的なことですよね。
井田:鏡に向かって自分で音源に合わせてやる練習って、タブーなんですよ。
佐々木:え~!
井田:なぜかというと、指揮者はやっぱりオーケストラの一歩先を振って、音楽はこっちの瞬間に行くんだっていう、本当0コンマ何秒か先を振らなきゃいけないんですよ。なので、CDに合わせて練習するみたいなことをすると、本当に“後を追っていくような指揮”をやってしまうことになってしまうんですね。なので、本当に自分のスコアを読んで、もちろんそこを読んで勉強する中でCDを聞いたりすることはありますけれど、CDではなく楽譜から出てきた音を自分の指揮で表すっていう感じなので。自分のイメージと体の動きがちゃんと一致してるかっていうことを鏡で見ながら確認して練習をしてます。さすがに今はもうそういう練習することもなくなって、楽譜を見て自分がそれを自然と表現すればそれが体に現れるっていう状況になりますけど。でもやっぱりその練習って本当に練習の中の2割ぐらいでおおよその8割は本当に楽譜を覚えたり、楽譜を理解したりとかっていう、作曲が何を求めてるのかっていうことを求める、っていう時間が一番長いですね。そう考えると、実はトランペットより本当に孤独かもしれない
佐藤:そうですよね!なかなか具体的な掴みどころがないっていうか。
井田:現場に行ってみて、実際振ってみたり、「こういう方向でやりたいんだ」ってオーケストラに行ってみたりしないと答えが出ないんですよね。自分が「そうだ、こうだ」って思ってても「おかしいんじゃないの」って言われたら、自分が思う音は鳴ってこないし。みんなを納得させなきゃいけないんで。
佐々木:かっこいい!
佐藤:でも大変!難しいですよね、気を配らなきゃいけないことが山ほど!人生で初めて指揮棒振るったときのことは覚えてますか?
井田:覚えてます!覚えてますけど、そうですね…初めてオーケストラで指揮を振ったときっていうのは、もう、思い通りにならない!
佐藤:そうなんですか!
井田:何にもならないんで、やっぱり自分が緊張してたのもあるかもしれないけど。自分が思ってた通りにならなくて、自分が思ったより全然遅くオーケストラが反応するし、ついてきてほしいのについてきてくれないとか。何とか演奏会をやり切ったんですけど、本番終わった次の日、全身筋肉痛なんですね。それで、インフルエンザになって。もうなんか気張ってたのが一気に解き放たれたから、1週間ぐらい寝込んじゃって。もうそれだけなんていうか、指揮者っていうものの重圧っていうのを感じたというか、そういうものは確かに覚えてます。(笑)
(TBSラジオ『やる気スイッチラヂオ アストルム』より抜粋)