Yahoo! JAPAN

シド アンコールの最後まで白熱した演奏で会場を揺らした、ツアーファイナル公式レポート

SPICE

シド

11月9日(日) にZepp Haneda (TOKYO)で開催されたシドのツアー『SID TOUR 2025 ~Dark side~』ファイナル公演のオフィシャルレポートが到着した。

「アンコール! アンコール!」。約2900人が発するその声を聞きながら、私の近くにいた女性は“シド”の名前が入ったバックドロップを、唖然とした表情で見つめていた。爆音による耳鳴りで意識が遠のいていたわけではない。おそらく、数分前まで目や耳にしていた衝動と衝撃が、全身にこびりついていたのだ。それは彼女だけではない、なぜならあの日は──。

シドは9月17日に、彼らのダークサイドを表現したコンセプチュアルな新作EP『Dark side』をリリースした。10月5日から『SID TOUR 2025 ~Dark side~』を開催し、11月9日に東京・Zepp Haneda (TOKYO)でツアーファイナルを迎えた。この日はあいにくの雨に見舞われたが、会場には大勢のファンが詰めかけていた。

開演時間になり、幻想的なSEが流れて、スポットライトがステージを青く染めた。ゆうや(Dr)、明希(Ba)、Shinji(Gt)が順に登場し、各々の定位置に着くと静かに楽器を手にした。最後にマオ(Vo)が姿を見せて、マイクを掴んだのをきっかけに、Shinjiのヘヴィなギターリフから始まる「記憶の海」で幕を開けた。以前、私が彼らにインタビューをした際、マオは自身がいる世界よりも、さらに深い闇に飲み込まれている主人公をイメージしてこの曲を書いた、と話してくれた。1番を歌い終えたマオは、曲中の主人公が抱える心の闇を振り払うように叫んだ。ゆうやが四分音符のキックを刻む中、明希のうねるベース、リズム隊とは違うところで鳴っているShinjiのジャキジャキとしたギターが会場に響く。

緊張感を纏ったまま1曲目を歌い終えると、マオは胸を掻きむしるように声を荒げて「shout」へ。ステージとフロアのギリギリまで移動し、腕を広げて「もっとこい、もっとこい」と言わんばかりに観客に迫り、何度もシャウトを炸裂。続いて明希とShinjiも前方へ行き、激情的な演奏を見せつけた。

「まだまだいけるだろ? 今日は頭から最後までぶっ飛ばしていくぞ、いいか!」とマオが呼びかけると、会場から無数の腕が上がった。「いくかぁ!」と言って披露したのは「CANDY」だ。フロアでは皆がヘッドバンキングをして、狂喜乱舞の光景が広がる。明希とShinjiはステージの端から端へ自由に動き回り、マオは巻き舌で「ウラァアア!」と絶叫して熱狂の渦を大きくしていく。「XYZ」を経て「焼却炉」では燃え盛る炎の映像をバックに、メロディアスなギターと力強いドラミングが、見る者の心を焼き尽くし、迫真の演奏を繰り広げた。明希が宙を見てベースを鳴らす姿がなんとも儚く美しくて、まるで天に昇る焼却炉の煙を見ているようだった。

ここでShinjiが前に出て、髪を振り乱しながら「reverb」のブルージーなフレーズを奏でた。マオはジャケットを脱ぎ、艶やかさと血が滾るような歌声で魅了。明希は高くジャンプして着地すると、そのまま腰を屈めて仁王立ちで演奏。そして、ゆうやが叩く一打一打が心臓の鼓動を加速させていく。無意識に一人ひとりを目で追ってしまうのは、彼らがスタープレイヤーの集団である証だろう。

ここで面白い光景を見た。真っ赤に染まったステージで「悪趣味」の演奏を始めたかと思いきや、開始1秒で3人の音が止まった。マオが静かにマイクを口に近づけて「“シド”は俺がいなきゃ始まらないっしょ」と発し、大きな歓声が上がると演奏を再開した。とにかく、この曲は演奏のスキルと熱量が最高点に達していて、ハイライトの1つだったと思う。「ウァァア!」という叫びとともに抜群のタイミングで演奏を締めると、そのままマオはステージを後にした。

ボーカル不在の中、場内には悲しいピアノの旋律が流れた。薄暗いステージに青く光ったライトがゆらゆらと泳ぐように揺れている。そして、3人の演奏が哀しく抒情的な音の世界を創出した。白い光の輪が明希、Shinji、ゆうやを照らした。最後にゆうやがドンと強烈なドラムを叩いて、2本のスティックを高く投げると綺麗な放物線を描いた。緊張感と緊迫感に酔いしれるインストゥルメンタルを披露したところで、前半戦が終了した。

再びマオがステージに現れて「低温」で後半戦の幕が開けた。インスト曲で見せた妖艶で魅惑的な世界観を保ちながらも、そこに壮大で儚い色を重ねていく。前半はダークと激しさが共存していたが、後半はダークな森のさらに深くへと誘っていった。「息を呑む」という表現がしっくりくる。それはまるで1本の映画を観ているような、あるいは舞台を観ているような、完成された美の光景であった。その後もジャジーな「刺と猫」、静と動の緩急が素晴らしい「siren」と、今の彼らだからこそ似合う情緒的なミディアムナンバーが続いた。

それまで恍惚の表情を見せていたマオの目が変わった。ドスの利いた声で「……まだまだいけるよな?」と問いかけると、観客が声を上げた。念を押してもう一度「まだまだいけるよな?」と尋ねると、先ほどよりも大きな声が上がる。「じゃあ、全然いけると言ったことを俺が後悔させてやる。全員で俺にかかってこい、いいかぁ!」とものすごい剣幕で言い放って、『Dark side』のリード曲「0.5秒の恋」を炸裂。「オラァオラァ!」と声を上げて、檻から放たれた猛獣のように鋭い牙を向ける。明希が頭を振って一心不乱にベースをかき鳴らすと、一緒になってもみくちゃになるフロア。それを見てマオは「いいじゃん、お前ら。お前ら全員と結婚してやるよ。ここからは旦那も彼氏も忘れて、俺についてこい。いいか、結婚しよう」と小指を差し出して「プロポーズ」へ繋げた。

「プロポーズ」の序章として、狂おしく歪んだ愛の物語を歌った「0.5秒の恋」。この日、2曲を続けて聴くことで楽曲の物語がより輪郭を帯びて感じられた。マオは狂気的な主人公を自身に憑依させたように、中指を立てながら叫んだ。

危険な香りが充満した会場。「また当分会えないから、会えるうちにいろいろやっておこうよ」と敬礼のポーズをとり「敬礼ボウイ」が始まると、マオは高音の咆哮を何度も上げ、それはまるで警告を伝えるサイレンに聴こえた。鬼気迫るゆうやのドラムが勢いを増幅させる。シドの熱に浮かされた観客は、何かに取り憑かれたみたいに激しくヘッドバンキングをかまし、これがライブ終盤だとは思えないほど、とてつもないエネルギーを放出していた。それを見たマオは笑みを浮かべて「いいじゃん、いいじゃん!」と言葉を送る。そのまま猛攻を緩めることなく「右手のスプーンと初恋とナイフ」で高揚という名の沸点を更新させた。4人の強靭な演奏と歌が鋭い槍のごとく次々に飛んできて、それが見事に心の急所を突き刺す。曲の後半では3人がゆうやを囲み、より、もっと、壮絶で、強烈なパフォーマンスを生んだ。

本編のラストに彼らが届けたのは「吉開学17歳(無職)」だ。マオはステージを降りてフロアを歩きながら、観客の顔の近くで熱唱。明希は水の入ったペットボトルをステージにぶちまけると、今度は自らフロアに飛び込んだ。Shinjiはステージのど真ん中でかきむしるようにギターを鳴らし、ゆうやのアグレッシブなドラムがズシンズシンとこちらの身体を刺激する。「すごい……すごい」という声が四方八方から聞こえる。確かに、すごいとしか言いようがないほどの電光雷轟だ。演奏が終わると明希はベースをフロアに放ってステージを後にし、マオ、ゆうや、Shinjiもやり切った様子で袖へと消えた。

このまま観客が帰るはずもなく、すぐにアンコールが起きた。一方で私の近くにいた女性やその周りにいた人たちも、呆然と立ち尽くしていた。あまりの衝撃に身動きが取れない様子だった。

観客の声に応えて、4人がステージに姿を見せた。マオが嬉しそうに「いい感じじゃん、お前ら。今回のツアーで一番いいよ。でも、まだまだいけるよな? じゃあ、みんな大好きな……『妄想日記』」と告げて、再び興奮状態となる会場。続いて「妄想日記2」「赤紙シャッフォー」と曲を重ねて、ラストを飾ったのは「眩暈」。「みんなでこの会場を、揺らせ揺らせ揺らせぇ!」と檄を飛ばして、アンコールの最後まで白熱した演奏であった。計20曲、約2時間に及ぶ圧巻のステージを届けた彼らに、大きな歓声と拍手が送られた。

ライブが終わって客席が明るくなるかと思いきや、薄暗いままステージ天井から大きな紗幕が降りて、映像が投射された。そこには来年4月10日にZepp Haneda (TOKYO)で『SID OFFICIAL MEMBERS CLUB ID-S限定 410の日2026』の開催が決定していること、さらに、メンバーからのメッセージと共に5月15日から全国25ヶ所で『SID LIVE HOUSE TOUR 「いちばん好きな場所 2026」』を行うことが発表された。メンバーの想いと再びシドと会えることを知った観客は「ありがとう!」「絶対に行く!」と声を上げた。

終演後、私はライブを終えてすぐのメンバーに挨拶をさせてもらった。さぞかし疲労困憊だろうと思っていたら、4人とも余裕すら感じるほどケロっとしていて驚いた。マオは「今日はすごくよかったですね! みんなと1つになれた」と話し、明希は「ファイナルに相応しいステージでしたね」と充実した気持ちを聞かせてくれた。そこにいたShinjiとゆうやも晴れやかな顔に見えた。会場を出ると、まだ雨は降っていた。冬の冷たい雨粒は、火照った体には心地よかった。

文=新貝 聡 写真=加藤 千絵

【関連記事】

おすすめの記事

新着記事

  1. 姉弟が滲ます「家族間のテンション」と「東雲の血」──『劇場版プロジェクトセカイ 壊れたセカイと歌えないミク』Blu-ray発売記念 東雲 彰人役・今井文也さん×東雲 絵名役・鈴木みのりさんインタビュー

    アニメイトタイムズ
  2. ハウステンボス冬イルミ「白銀の世界」フィナーレ 九州グルメイベントは焼き牡蠣が登場

    あとなびマガジン
  3. ちいかわ冬コスチュームで登場 ちいかわらんど新作ぬいぐるみ

    あとなびマガジン
  4. 【京都ニュース】創業109年、老舗蕎麦店が四条烏丸で復活へ「大黒屋」

    キョウトピ
  5. BRAHMAN結成30周年SPスタッフ座談会ーーステージを支えてきた裏方のプライド、共に歩んできたバンドとの歴史を語る

    SPICE
  6. 名張警察署だより 犯罪被害者等支援~大切なあなたへ~

    伊賀タウン情報YOU
  7. ほぼお店の味だよ。【マ・マー公式】の「パスタ」の食べ方が感動するほどウマい

    4MEEE
  8. 【流行語ノミネート】AIに聞いて作った「コンビニ薬膳鍋」が、なぜか悔しいほどおいしかった

    ロケットニュース24
  9. ホワイトソースなし!「簡単グラタン風レシピ5選」じゃがいもや豆腐、長芋でラクラク失敗しらず♪|編集部おすすめレシピ

    料理メディアNadia
  10. 老け顔さんは注意して!避けた方が良いNGショート〜2025晩秋〜

    4MEEE