【GREEN KIDS(磐田市)の初アルバム「CONCRETE GREEN」】「辺境」の「辺境」から届くラップ。彼らの存在そのものがヒップホップである
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は、2025年6月13日に配信リリースされた磐田市のヒップホップクルーGREEN KIDS の初アルバム「CONCRETE GREEN」を題材に。
国立民族学博物館人類文明誌研究部の島村一平教授が書いた「辺境のラッパーたち」(2024年6月、青土社)を読んでいたら、「辺境」という概念を「人やモノ、情報が行きかうグローバルな世界とローカルな文化が交錯しながらも、政治的にも経済的にも周縁的な立場に置かれている地域」と定義していた。
同書によると、1970年代に米ニューヨークで始まったヒップホップは、都市の周縁に住むアフリカ系アメリカ人やラテン系移民の文化運動だった。今でこそマーケットがグローバルに広がっているヒップホップだが、もともとは米国内の「辺境」に追いやられた人たちが形作ったムーブメントなのだ。
読み進めるうちに、GREEN KIDSのことが頭に浮かんだ。日本のヒップホップは世界の中でみれば、その存在自体が「辺境性」を帯びている。日本語がグローバルスタンダードではないことが最大の理由。GREEN KIDSがユニークなのは、そんな「辺境」日本の中の「辺境」を表現する存在であることだ。
彼らには二つの「辺境性」がある。一つは、首都圏や人口密集地から離れた静岡県磐田市で生まれ、いまだに同市を拠点に活動している点。そして二つ目は、ペルー、ブラジルにルーツがあるメンバーと日本人メンバーの混交グループである点。「辺境」の中にある「辺境」から届くラップは、その存在自体が宿命的にヒップホップ的であると言えよう。
2019年に彼らに比較的長いインタビューを行ったことがある。ちょうどオムニバスアルバム「若き血 Vol.6」に招かれ、EP「Messed Up」がリリースされた頃。それから6年が経過し、彼らとしては初のアルバムが届いた。2013年結成だから、まさに「待望の」という枕詞がぴったりくる。
2023年リリースのDJ KANJIとのコラボシングル「In Da Club (feat.ACHA,Flight-A,Swag-A,Crazy-K&BARCO)」、今年発表の「AGEASHI (feat.Flight-A,Crazy-K,BARCO,Swag-A&ACHA)」を含む全16曲。
一聴して感じるのが、2019年当時とは比較にならない「貫禄」である。あからさまな欲望を前面に押し出す態度は不適にして無敵。DJ PIGらの手によるトラップやドリルの要素を強めたトラックにのせて、5人のラッパーがリレーする。声の変調をほとんど施していないのは、彼らなりの考えに基づくものだろう。
ラッパー5人の個性が際立って聞こえるのは、アルバムならではだ。一音一音の歯切れがいい Swag-A、少し鼻にかかった声が色気に満ちているFlight-A、さまざまなテクニカルなフロウを聞かせる Crazy-K、近年注目の「お経ラップ」の元祖とも言うべきBARCO、そして「ボス感」を漂わせる低音が魅力の ACHA。
演じ手が自分の役割、自分の強みをはっきり理解しているのだろう。楽曲ごとのラッパーの組み合わせの違いが、リリックの内容をリアルに響かせる上で極めて有効に作用している。
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