沖縄の後継者たちが語る、企業変革への挑戦!ACT-Meetup那覇を開催
地域に根ざした企業の未来を担う後継者たち。その可能性と課題を探る「ACT-Meetup那覇」が2024年11月14日、那覇市松山のSAKURA innobase Okinawaで開催されました。中小企業庁と内閣府沖縄総合事務局が主催する本イベントに約60人が参加し、企業の次世代を担う後継者たちの熱い議論に聞き入っていました。
地域企業の承継が沖縄の未来を左右する
冒頭、内閣府沖縄総合事務局経済産業部中小企業課の玉城京子課長が開会のあいさつに立ちました。玉城課長は「沖縄の企業における後継者不在率は全国平均を上回っており、事業継続に不安を抱える企業が多い状況です」と現状を説明しました。その上で「地域に根づき、人々の生活を支え、歴史や文化を背負ってきた沖縄の企業は、地域活動を支える上で必要不可欠な存在です」と、事業承継の重要性を強調しました。 さらに、新型コロナウイルス以降の社会変化として、エネルギーや原材料の高騰、深刻な人材不足、AIの台頭などを挙げ、「時代の変化に対応し、人々の関心を引き付け続けるためには、新たなニーズに敏感になり、それを作り出していくチャレンジが重要です。登壇者と来場者、支援機関の皆さんとのご縁を大切に、未来の沖縄がさらに魅力的な地域に成長していけるよう、コミュニティーを継続していきたい」と述べました。
IT企業が示す、変革への道筋
基調講演では、株式会社okicom取締役副社長の小渡晋治氏が「アトツギの新規事業立ち上げのリアリティー」という演題で登壇しました。 早稲田大学卒業後、外資系金融機関で10年の経験を積んだ小渡氏。父が設立したIT企業okicomに2017年に入社しましたが、直面したのは昭和の時代から続く古い経営体制でした。 「データもなければ、商品マスターもない。1行のエクセルで今年の粗利見込みだけを見て経営していました」と小渡氏は当時を振り返ります。まず着手したのが、属人的な評価制度の改革です。「なぜあの人が昇給して、自分は昇給しないのか」という不満をなくすため、評価システムの導入を試みましたが、評価結果と感覚値との齟齬が大きく失敗。基本給と諸手当の体系から見直し、透明性のある人事制度を構築していきました。 変革の途上、2023年に父が脳出血で倒れるという事態が。事業承継の必要性を痛感し、その3カ月後には副社長に就任しました。社内の有志を集めてプロジェクトを立ち上げ、ビジネスモデルの見直しに着手し、1年で大小合わせて63項目もの改革を実行しました。
祖業の改革を進める一方で、新規事業にも積極的に挑戦しています。バガス(サトウキビの搾りかすである)を活用した生地開発や、伝統工芸の琉球紅型の振興など、環境や文化に配慮した事業を展開しています。小渡氏はその意義をこう話しました。「すぐには収益化できなくても、社会のパラダイムシフトを見据えた取り組みが必要だと思っています」 会社設立時から43年続く65km歩け歩け大会。社長の意向で、新型コロナウイルス感染症拡大時も開催したといいます。「やめるのは簡単だが、続けることに意味がある」。父の言葉を抱きながら、小渡氏は事業承継と企業変革を進めています。
異なる業種の後継者が示す未来像
小渡氏の講演に続き、株式会社XLOCAL代表取締役COOの坂本大典氏をモデレーターに迎え、株式会社福地組代表取締役社長の福地一仁氏を交えたトークセッションが行われました。
三菱商事から2018年に家業の建設会社に戻った福地氏。入社してすぐに、公共工事中心の従来のビジネスモデルに限界を感じました。「年度をまたいだ後、ゼロから受注を積み上げる構造では、3年先、4年先が見通せない」。この不安定さを解消するため、リノベーション事業や省エネ住宅の開発、さらには街づくり事業まで、新たな収益の柱づくりに着手しました。 新規事業では試行錯誤しながらも、うまくいくポイントを見出しつつあると話しました。「最初は自分で立ち上げますが、早い段階で事業責任者を置き、体制を整えていく」と福地氏。さらに、経験豊富な企業との協業や副業人材の活用など、外部の知見も積極的に取り入れています。 一方、okicomの小渡氏はIT企業という特性を活かし、伝統工芸支援などの新規事業を通じて採用力の向上につなげる戦略を説明しました。「IT企業が伝統工芸に取り組むというユニークな姿勢が、沖縄で何かを実現したいという思いを持つ人材の採用につながっている」
課題を共有しあえるコミュニティー形成を
モデレーターの坂本氏は「沖縄は地方の中でも特殊で、後継者以外にも優秀な人材が戻ってくる数少ない地域」と解説。後継者同士の交流については、「今は自社の取り組み、改革で精一杯」という小渡氏と福地氏の声に対し、坂本氏は、スタートアップ界における経営者コミュニティーのような、課題を共有し学び合える場の必要性を提言しました。 福地氏は「30年後、50年後に『あの世代(自分たちの世代)の当時のアクションが良かった』と言われるような会社にしたい」と語り、小渡氏も「ファミリービジネスとして、従業員のウェルビーイングを高めながら成長を実現したい」と展望を示しました。二人の対話からは、伝統を守りながら変革に挑む後継者ならではの使命感が浮かび上がりました。
変革の陰にある葛藤と決意
質疑応答では、後継者が手掛ける新規事業への社内の反発にどう対処したかという質問が集まりました。福地氏は「2年間で20人ほどのマネージャークラスが退職した」と正直に語り、「本当に大変だったが、それも含めて変革する機会だったのではないか」と振り返りました。 一方、小渡氏は新規事業部門を明確に分け、評価の仕方も分けることで大きな反発を防いでいると説明しました。「あとは、社長がきちんとオーソライズ(公認)する、会社として進めていると掲げることが重要だと思います」 また、経営者としての体力・メンタルの維持についても議論が及びました。小渡氏は「家族との時間を優先し、接待やゴルフは他の役員に任せている」と明かし、福地氏は「経営者は常に演じなければならず、エネルギーが消耗する。時には一人で知らない土地に行って充電する時間を作っているという対処方法をソニーの元社長、平井一夫さんから教えていただいたので、私も取り入れたいと思っています」と語りました。
後継者による経営モデル創造、拡大
本イベントを通じて印象的だったのは、後継者たちが単なる事業の継承者としてではなく、積極的な変革者としての役割を担おうとしている姿でした。伝統と革新のバランスを取る姿勢は、後継者や後継予定者にとっても、大きなヒントになったようでした。 ACT-Meetupは全国9ヶ所で開催されており、那覇での開催が9ヶ所目となりました。沖縄総合事務局の玉城課長が述べたように、このような場での出会いと学びが、沖縄の企業の未来を支える大きな力となることが期待されます。すでに県内では、事業承継後、多角的に事業を展開する企業も現れており、後継者たちによる新しい経営モデルの創造は、着実に広がりを見せています。
新規アイデア競う「アトツギ甲子園」決勝大会を2025年2月20日に開催
中小企業庁が主催する39歳以下の後継予定者を対象とした、ビジネスコンテスト「アトツギ甲子園」の第5回大会が2025年1、2月にかけて開催されます。家業のイノベーションを通じて地域経済の活性化や地方創生への貢献を目指し、後継者たちが自社の経営資源を活かした新規ビジネスアイデアを競い合います。 本コンテストでは、後継者の役割を単なる「事業維持」ではなく、積極的に新しい価値を創造する「企業変革者」と位置付けています。参加者は4分間のプレゼンテーションと6分間の質疑応答に挑戦。まだ事業化前のアイデア段階でも参加可能で、各地方ブロックから選ばれた3名のファイナリストが決勝大会へと進むことができます。 審査基準は「新規性」「持続可能性」「社会性」「承継予定の会社の経営資源活用」「熱量・ストーリー」の5項目。参加資格は39歳以下の中小企業・小規模事業者の後継予定者で、親族外承継も含まれます。 決勝大会出場者であるファイナリストや、ファイナリスト以外でも特に優秀と認められた準ファイナリストには、補助金の優遇措置に申請可能なほか、さまざまな特典が受けられます。受賞者以外でも、「アトツギ甲子園」にエントリーすることでメンタリングや審査委員からのアドバイスなど得られる特典がありますので、チャレンジする価値の高いビジネスコンテストです。 ・他者推薦エントリーの締め切りは11月28日(木)12時 ・エントリー締め切りは12月6日(金)12時