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【英国】現代メキシコ料理「KOL」「Fonda」はなぜゲームチェンジャーなのか?

料理王国

【英国】現代メキシコ料理「KOL」「Fonda」はなぜゲームチェンジャーなのか?

世界各地でメキシコの蒸留酒メスカルが密かなブームであり、メキシコ料理への注目も集まっている。タコスやブリトーなどストリート・フードのイメージが強いジャンルだが、ロンドンでは新潮流が形作られようとしている。

2024年度「世界のベストレストラン50」で17位(UK勢1位)にランクインしているモダン・メキシコ料理「KOL コル」。この店を大成功させているチームが昨年、少しだけドレスダウンした「Fonda フォンダ」をロンドン中心部にオープンし、さっそくフーディーたちの話題をさらっている。

多国籍キュイジーヌが文字通り隣り合わせでしのぎを削るロンドン市場でさえ、メキシコ料理といえばファースト・フードかカジュアルなタケリアが主流。いわゆる高級路線のレストランは数軒あるかないかという状況の中で、2020年にテイスティング・メニューのみのモダン・メキシコ料理店KOLが誕生し、ロンドナーたちはその可能性へと目を見開かされた。KOLは創業2年後にイギリス国内で初めてメキシコ料理店としてミシュラン一つ星を獲得。瞬く間に「世界のベストレストラン50」でも上位に食い込むスター・レストランになった。

KOLとFondaをパートナー企業とともに成功させている共同オーナーシェフが、メキシコ生まれのSantiago Lastraサンティアゴ・ラストラさん(冒頭写真 © Ben Broomfield)。彼こそイギリスにおけるメキシコ料理のあり方を、永遠に変えてしまった立役者なのだ。

テラコッタやパステル・カラーを配した居心地の良い空間。階段ホールには著名なメキシコ人デザイナーによるアガベ繊維で編まれたピンク色のナマケモノが垂れ下がる。その他にも多くのメキシコのクラフトマンシップを紹介している。

右奥はシーバスのセビーチェ、ルバーブ添え。その下がカボチャの種をすりつぶした前菜の定番「シキルパック」。スペシャルにはオークニー諸島でのホタテを胡麻と焦がしハバネロのサルサ、グースベリー、パリパリのコーン・チチャロンといただく斬新な一皿を用意(左)。

サンティアゴさんは今イギリスで、いや世界で注目されているシェフの一人。キャリアの初期にスペイン「Mugaritz ムガリッツ」で働きながら学び、バスクで修士号を取得。その後コペンハーゲンの「Noma ノーマ」などの厨房を経験した後、2020年に故郷メキシコの自然に根ざした豊かな風味、食感を独自スタイルで提供する高級メキシコ・ダイニング「KOL」をオープンした。

FondaはKOLと同じと言う贅沢な自然食材を使って、タケリアと高級レストランの間を繋ぐようなモダンで洗練されたブランドを目指して生まれた。先日Fondaのランチタイムに足を運んでみると、サンティアゴさんその人がいらっしゃり、少し話を伺うことができた。
「今年でロンドンは8年目になります。ここはある意味、世界の食を牽引する街だと思います。15年前のコペンハーゲンはすごかった。けれど今訪れても、あの頃とあまり変わっていない。一方ロンドンでは毎週注目すべきレストランが新規でどんどんオープンしていますよね。競争も激しいですが、新しいものに対してとてもオープンな街なので、様々なチャンスがある。意義ある仕事ができる場所だと思っています。」

白身魚のフライやリブアイ+チーズなどのグルメ・タコスが感動的な美味しさ。スペシャルにはロブスターのアル・パストールも。

「KOL」と「Fonda」を行き来するサンティアゴさん。

柔らかなポーク・コンフィをメインに。ホワイト・チーズのクランブルをトッピングした絹のように滑らかな豆ペースト「フリホレス」を焼きたてのコーン・トルティーヤに塗り、野菜のピクルス、ソースを添えれば極上の一口が出来上がる。

伝統の調理器具コマルで焼くトルティーヤは最高。これが全ての基本となる。

メキシコで「Fonda」とは地元で愛される家族経営レストランのこと。その名の通り温かく通いやすい店でありながらも、料理に対する革新性を保っているところが最大の持ち味だ。

メキシコ料理の魂でもあるトルティーヤは、在来種のトウモロコシを使用。全ての側面において倫理性や透明性のある生産者から輸入し、毎日レストランの厨房で製粉、伝統の調理器具「コマル」で火を通して焼きたてを提供している。

テーブルには常に自家製のサルサ・ソース3種を用意。ズッキーニとグースベリーの「サルサ・ヴェルデ」、アルボルチリとトマトの「サルサ・ロハ」、カスカベルチリとヒマワリの種、蜂蜜が入った甘辛い「サルサ・マチャ」。全ての料理をバックアップするこれらのソースが、メキシコ料理の繊細さを教えてくれる。

今回いただいたセビーチェは、なめらかなアーモンド・クリームで和えた新鮮なシーバス。伝統の漬け汁「アグアチレ」でマリネした真っ赤なルバーブと一緒にいただくと、未体験の洗練にただ感動させられる。タコスは口の中でサクっとトロけるフィンガーサイズのタラのフライや、熟成リブアイとチーズを組み合わせたものなど数種を用意。ストリート・フードと言われている料理だが、いずれもその美味しさと繊細さに身悶えする前菜として生まれ変わっている。

ほのかなチリの隠し味が楽しいサンティアゴ流チーズケーキは、ブラックカラントのソースで。

ロンドン中心部メイフェアの一等地、ロンドン市内でも強豪が集まる一画に佇む。

KOLの誕生以来、現在のロンドンで「高級メキシカン」というジャンルは新たな領域を確立しており、その延長にあるFondaも同様の位置付けとなっている。近年になって洗練されたメキシカンがいくつかオープンしているが、メニューへの取り組みという観点から言って、明らかに異なる。KOL & Fondaこそが、明らかにジャンルにおけるゲームチェンジャーなのだ。

実は彼らがロンドンにもたらした大きな功績が、もう一つある。メキシコ産アガベ蒸留酒、メスカルのバー・カルチャーだ。ちょうど10年ほど前からメキシコ産蒸留酒に注目が集まり始め、テキーラだけでなく小規模なクラフト生産者が造るメスカルが急速にもてはやされるようになった。その流れの中にメキシコ料理への注目もあり、サンティアゴさんの事業はその点でも大きく貢献している。

KOLで心血を注いでメニュー開発をしているサンティアゴさんは、時間があると「ついFondaに足が向いてしまう」と言う。FondaはKOLよりも敷居が低く、アラカルト・メニューに力を入れているのだ。そしてシンプルな佇まいの特製チーズケーキを頬張ろうとしている筆者に、シェフはこう教えてくれた。

「実は日本には4、5回行ったことがあり、日本の食文化は大好きです。伝統の日本文化で見習いたいのは、シンプルさですね。Fondaの食器やインテリアにも、その考え方を取り入れているんです。機能的でいて、美しい。用の美と言う考え方に大きな影響を受けました。」

各国のカルチャーを吸収し、故郷メキシコ料理の素晴らしさを伝えようとするシェフの活躍が、今後も楽しみでならない。

FONDA
https://fondalondon.com/

text・photo:江國まゆ Mayu Ekuni

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