ラ行で始まる和語はある?ない? 言語学者・秋田喜美さんが日本語のオノマトペを徹底解剖!【NHK俳句】
「らんらん」「りんりん」…「R音」で始まるオノマトペのイメージとは? 秋田喜美さんの解説を紹介!
「らんらん」「りんりん」「るんるん」…オノマトペは擬態語や擬音語の総称です。
2025年度『NHK俳句』テキストに掲載の「オノマトペ解剖辞典」は、新書大賞2024(中央公論新社主催)で大賞を受賞した『言語の本質』の共著者で言語学者の秋田喜美さんによる連載です。
様々なオノマトペを俳句とともに徹底解剖するこの連載で、日本語への興味を深め、俳句作りのヒントも学んでみましょう。
今回は『NHK俳句』テキスト2025年5月号から、「R音」のオノマトペに宿るイメージについての解説をお届けします。
共鳴音 R音で始まるオノマトペ
――――
R音(ラ行)で始まる和語はあるでしょうか? R音で始まる日本語を挙げようとすると、「乱雑」「林檎(りんご)」「類似」「列」「論理」のような漢語や、「ラッコ」「リンス」「ルージュ」「レモン」「ロンドン」のような英仏語やアイヌ語由来の外来語、あるいは「令和」や「伶奈(れな)」「莉子(りこ)」「蓮(れん)」のような涼やかな固有名詞ばかりが思い浮かぶはずです。和語でも語中(単語の途中)になら、「いろ」「ある」「おろす」など、R音を見つけることができます。つまり、R音は和語の語頭で禁じられた音なのです。
――――
この禁止事項は、同じく和語の一種であるオノマトペにも当てはまります。R音は、オノマトペの語中では実は最もよく現れる子音です。「ころ」「ぱら」「びり」など、オノマトペの「もと」となる二拍語根(本連載第一回)の五分の一が、語中にR音を持ちます。
一方、R音が語頭に立つオノマトペは稀です。句例を見ても、「りり」や「ロンロン」のような馴染みのないオノマトペや、「爛々」「りんりん(凜々)」「縷々」のような漢語のオノマトペが大半です。呂律が回らない様子を表す「れろれろ」や、八〇年代に流行った、心が弾む様子を表す「るんるん」のように定着したオノマトペは、例外といってよいほどです。そのため、俳句でこれらのオノマトペを使うと、どこか日本語らしからぬ、不思議でよそ行きの雰囲気が伴うことになります。
言葉の音選びは、子供の名前を考えるのとよく似ています。我が子の名前に願いを込めるように、俳句の一音一音に思いを込めるためのレシピを、本連載はまとめているわけです。
『NHK俳句』テキストでは、R音始まりのオノマトペに感じられる溌剌とした力強さについても解説しています。
講師
秋田喜美(あきた・きみ)
1982年、愛知県生まれ。名古屋大学文学部准教授。専門は認知・心理言語学。著書・編書に『オノマトペの認知科学』『言語の本質――ことばはどう生まれ、進化したか』、Ideophones, Mimetics and Expressives など。
※掲載時の情報です
◆『NHK俳句』2025年5月号より「オノマトペ解剖辞典」
◆イラスト:川村 易
◆参考文献:『日本語のオノマトペ──音象徴と構造』(浜野祥子著・くろしお出版)/『現代俳句擬音・擬態語辞典』(水庭進編・博友社)/『擬音語・擬態語辞典』(山口仲美編・講談社学術文庫)
◆トップ写真:/イメージマート(テキストへの掲載はありません)