【訪問看護】できること、できないことの境界線は? サービス内容、利用条件まで解説!
「訪問看護ってどこまで対応してくれるの?」
「家族の負担はどれくらい軽減されるの?」
こんな疑問を持ったことはありませんか?
在宅で医療やケアを受けられる訪問看護は、家族にとっても大きな支えになりますが、その範囲やできること・できないことを明確に理解しておくことが大切です。
本記事では、訪問看護についての疑問をわかりやすく解消します。
訪問看護とは?
訪問看護は在宅医療・介護の要となるサービスです。病院から自宅に戻った後も、必要な医療ケアを継続して受けられるよう支援します。
訪問看護の定義と概要
訪問看護とは、病気や障害を持つ方が自宅で安心して生活できるよう、看護師などの医療スタッフが自宅を訪問して提供する医療・介護サービスです。病院でのケアだけでなく、住み慣れた自宅でも必要なサポートを受けたいというニーズに応える重要な仕組みです。
訪問看護は医師の指示に基づいて行われます。医師が作成する「訪問看護指示書」には、バイタルサイン測定、全身状態観察、保清、服薬管理など、訪問看護師が行うべきケア内容が記載されています。訪問看護師はこの指示書をもとに、利用者の状態をアセスメント(評価)し、具体的なケア内容を決定します。
訪問看護で提供されるサービスは、単に医療行為を行うだけではありません。利用者の生活全般をサポートし、その人らしい生活を送れるよう支援することも重要な役割です。具体的には、日常生活のケアや医療処置、リハビリ支援、家族との相談支援まで多岐にわたります。
特筆すべきは、訪問看護は病院と異なり、その人の生活環境に合わせたケアを提供できる点です。住み慣れた環境で家族と共に過ごしながら、必要な医療ケアを受けられることが最大の特徴と言えるでしょう。
訪問看護の利用対象者
訪問看護を利用できるのは、医師が訪問看護の必要性を認めた方です。年齢や疾患を問わず、医療的ケアが必要な方であれば誰でも利用可能です。
対象者は大きく分けて、介護保険適用と医療保険適用の2つのグループに分かれます。
年齢による区分
疾病による区分
状態による区分
対象者
・40歳未満の医療保険加入者とその家族(妊産婦や新生児も含む)
・40歳以上65歳未満で特定疾患以外の病気や障害がある方
・65歳以上で要支援・要介護の認定を受けていない方
・厚生労働大臣が定める疾病等(難病患者、がん末期患者など)に該当する方
・精神疾患の方(精神科訪問看護基本療養費が算定される場合)
・特別訪問看護指示書期間内の方
・退院直後で状態が不安定な方
対象となる主な疾患としては、慢性疾患(糖尿病、心不全など)、神経系疾患(パーキンソン病など)、悪性腫瘍、難病、精神疾患、認知症などが挙げられます。
対象となる主な疾患 慢性疾患 糖尿病、心不全、高血圧症、慢性腎臓病、呼吸器疾患など 神経系疾患 パーキンソン病、脳血管疾患(脳梗塞・脳出血)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)など 悪性腫瘍 各種がん(終末期含む) 難病 指定難病(338疾患)、スモンなど 精神疾患 統合失調症、うつ病、双極性障害、不安障害など 認知症 アルツハイマー型認知症、血管性認知症、レビー小体型認知症など その他 褥瘡、ターミナルケア、リハビリテーションが必要な状態など
特に高齢者の一人暮らしや、外出が困難な方、在宅での看取りを希望する方などにとって、訪問看護は大きな支えとなります。
訪問看護の利用開始から終了までの流れ
訪問看護を利用するためには、まず医師の判断と指示が必要です。その上で、介護保険または医療保険での利用手続きを行います。
介護保険で利用する場合の流れ
市区町村の介護保険窓口で要介護認定を申請する
介護認定調査が行われる
要支援・要介護の認定を受ける
ケアマネジャーと相談し、ケアプランに訪問看護を組み込む
かかりつけ医から訪問看護指示書を発行してもらう
訪問看護ステーションと契約する
訪問看護が開始される
医療保険で利用する場合の流れ
かかりつけ医に訪問看護の必要性を相談する
医師が訪問看護の必要性を認め、訪問看護指示書を発行する
訪問看護ステーションを選んで契約を結ぶ
訪問看護計画が作成される
訪問看護が開始される
訪問看護を利用すると、訪問看護師が定期的に自宅を訪問します。訪問頻度は利用者の状態によって異なり、週1回程度から毎日、さらには24時間対応までさまざまです。
初回訪問時には、看護師が利用者の状態や生活環境を詳しく評価し、必要なケア内容を計画します。その後は定期的な訪問を通じて、健康状態の観察、医療処置、日常生活のケア、家族への指導などが行われます。
利用者の状態変化に応じて、訪問看護計画は見直されます。病状の改善や目標の達成に伴い、訪問頻度の調整や終了の検討が行われることもあります。また、緊急時には24時間対応が可能な訪問看護ステーションもあり、安心して在宅療養を続けられる体制が整っています。
訪問看護で「できること」
訪問看護で提供されるサービスは多岐にわたります。医療行為から日常生活のケア、専門的な支援まで、利用者の状態や必要性に応じたさまざまなサービスが受けられます。
医療処置:点滴管理から人工呼吸器まで可能な医療ケア
訪問看護では、医師の指示に基づいて、自宅でも病院と同様の医療処置を受けることができます。これにより、医療依存度の高い方でも在宅での生活が可能になります。
必要な医療機器や物品は、基本的に指示を出した医療機関が準備するか、訪問看護ステーションが手配します。
訪問看護師は、これらの医療処置を実施するだけでなく、利用者や家族に対して疾患についての説明や、医療処置をしながらでも日常生活を送れるようにアドバイスも行います。
また、定期的に健康状態を観察し、異常を早期に発見することで、病気の再発や重症化を防ぐ役割も果たしています。
高度な医療ケアが必要な方でも、訪問看護を利用することで、病院ではなく自宅での療養生活を送ることが可能になります。これは利用者の生活の質を大きく向上させる重要なポイントです。
日常生活ケア:清潔・排泄・栄養管理でQOLを向上
訪問看護では、医療処置だけでなく、利用者の健康維持と快適な生活を支えるケアも提供します。
口腔ケアでは、嚥下機能の評価や誤嚥性肺炎の予防を目的としたアドバイスを行います。特に、嚥下体操や口腔マッサージを通じて、食事の際の誤嚥リスクを軽減します。歯磨きや義歯の清掃といった日常的なケアは、訪問介護のサービスとなります。
また、清潔保持の観点から、入浴や清拭(体を拭くケア)を支援します。訪問看護では、皮膚の状態観察や褥瘡(床ずれ)の予防を目的とした入浴や清拭を行い、感染症リスクの軽減を図ります。なお、入浴時の移動介助や衣類の着脱は訪問介護の範囲となります。
排泄ケアとしては、膀胱留置カテーテルの管理や人工肛門(ストーマ)のケアを行います。排泄動作そのものの介助や、おむつ交換などの日常的な排泄支援は訪問介護の担当となりますが、訪問看護では、感染管理や皮膚トラブルの予防を目的とした医療的ケアを提供します。
さらに、栄養管理では、食事摂取状況の観察や栄養状態の評価を行い、適切な栄養摂取ができるようサポートします。経管栄養(胃ろう・鼻チューブ)の管理や点滴による栄養補給も訪問看護の役割です。一方で、食事の準備や食事動作の介助は訪問介護の支援が必要です。
訪問看護の役割は、単に日常生活を支えることだけではなく、医療的視点から利用者の健康状態をチェックし、疾患の悪化を防ぐことにあります。これにより、利用者が住み慣れた環境で安心して過ごせるようサポートします。
専門的支援:リハビリ・緩和ケア・療養相談などの専門サービス
訪問看護ステーションには、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などが在籍しているため、専門サービスの提供が可能です。
例えば、リハビリサービスの場合、利用者が安心できる自宅環境で実施できる点や、実際の生活環境に合わせた内容をサポートできる点がメリットです。
具体的には、歩行訓練で安全に歩けるよう適切な支援や助言を行ったり、関節のストレッチで関節の拘縮予防や痛みの軽減を図ったり、筋力トレーニングで日常生活に必要な筋力を維持・向上させたりと、日常生活動作の訓練で自宅環境での生活動作の自立を支援したりすることが可能です。
また、「住み慣れた自宅で最期まで暮らしたい」という希望を持つ方は少なくありません。そこで、訪問看護では、終末期の方に対する緩和ケアも提供しています。痛みなどの症状管理として苦痛を和らげるためのケアを行い、心理的サポートとして不安や恐怖に寄り添い、精神的な支えとなってくれるのです。
なお私の経験上、末期がんの方で在宅で生活を希望される方には訪問看護をご利用いただくことが多くあります。在宅で使用できる麻薬系の痛み止めは制限があるので痛みを完全に和らげることは困難ですが、ぎりぎりまで使用可能な麻薬での痛みのコントロールを行い、最終的には医療機関で疼痛緩和の対応をしていただいています。
また、訪問看護師は、利用者の療養生活全般に関する相談にも対応します。疾患管理の相談として病気の経過や注意点について説明し、介護方法の指導として家族が行うケアの具体的な方法を指導します。社会資源の活用支援として他のサービスや制度の情報提供や利用支援を行い、多職種との連携として医師、ケアマネジャー、他のサービス提供者と情報共有し、チームでのケアを調整します。
これらの専門的支援により、訪問看護は利用者と家族の生活の質を総合的に高め、その人らしい生活を支える役割を果たしています。
訪問看護で「できないこと」
訪問看護はさまざまなサービスを提供できますが、すべての要望に応えられるわけではありません。サービスの範囲には制約があり、「できないこと」も存在します。効果的に訪問看護を利用するためには、これらの限界についても理解しておくことが重要です。
場所の制約
訪問看護は、その名の通り「訪問」して行う看護サービスですが、基本的に利用者の自宅以外の場所(外出先、レストラン、旅行先など)での利用はNGです。
これは、訪問看護が「在宅」での療養生活を支援するサービスとして制度設計されているためです。利用者が自宅で療養生活を送ることを前提としており、外出先でのケア提供は原則として対象外となります。
例外的なケースとして、一部の訪問看護ステーションでは、保険適用外の自費サービスとして通院の付き添い支援、外出時の看護ケア、旅行同行サービス、一時的な宿泊先でのケアなどを提供している場合があります。
ただし、これらは保険適用外のサービスであるため、全額自己負担となることに注意が必要です。また、提供の可否や料金は訪問看護ステーションによって異なります。
自宅以外での看護ケアが必要な場合は、通院同行のためのヘルパーサービス(介護保険の訪問介護)、移動支援サービス(障害福祉サービス)、通院等乗降介助(介護タクシー)、短期入所サービス(ショートステイ)などの代替手段も検討できます。
訪問看護を利用する際は、場所の制約を理解した上で、必要に応じて他のサービスと組み合わせることが大切です。また、特別な状況がある場合は、事前に訪問看護ステーションに相談することをおすすめします。
家事代行や身の回りの世話
訪問看護と訪問介護はよく混同されがちですが、その役割には明確な違いがあります。
訪問看護は医療的ケアを中心としたサービスであり、日常生活の支援や家事代行は基本的に対象外となります。
例えば、買い物、掃除、洗濯、調理などの家事全般への対応はNGです。訪問看護師の職務はあくまでも「療養上の世話」であり、身体的・精神的な管理がメインとなります。
例えば、食事に関しては、訪問看護師は栄養指導や嚥下機能の評価、食事摂取状況の観察などを行うことはできますが、買い物に行って食材を購入したり、調理をしたりすることはできません。同様に、部屋の環境整備として療養に直接関わる範囲の整頓は行えますが、掃除機をかけるなどの一般的な掃除は行えません。
また、通院の付き添いも訪問看護の対象外です。医療機関への通院が必要な場合は、家族やヘルパー、介護タクシーなどの利用が必要となります。
訪問看護と訪問介護の違いを理解し、適切に組み合わせることで、医療と生活の両面から在宅療養をサポートすることができます。例えば、訪問看護師が医療処置や健康管理を担当し、ヘルパーが食事の準備や掃除などの日常生活支援を担当するといった役割分担が一般的です。
ただし、訪問看護師が行うケアと訪問介護が行うケアの境界があいまいな場合もあります。例えば、入浴介助や排泄介助は両方のサービスで提供可能ですが、訪問看護では医療的な観察や評価を伴う場合に実施されることが多いです。
家事援助や身の回りの世話が必要な場合は、ケアマネジャーに相談し、適切なサービスの組み合わせを検討するとよいでしょう。また、生活支援サービスとしては、配食サービスや家事代行サービスなど、介護保険外のサービスも選択肢となります。
医療の限界
訪問看護でできない医療的な内容としては、まず処方薬の変更や新たな治療方針の決定が挙げられます。これらは医師の専門的判断が必要な行為であり、訪問看護師が独自に判断することはできません。例えば、薬の種類や量の変更、新たな薬の処方、検査の指示などは医師の役割です。
また、高度な外科的処置や緊急性の高い医療行為も訪問看護では対応できないことがあります。当然ではありますが、外科手術や緊急時の蘇生処置など、医療機関での対応が必要な場合は、適切に医療機関への受診をすすめることになります。
まとめ
訪問看護は、医療と介護の両面から在宅療養を支える重要なサービスです。本記事では、訪問看護の基本的な仕組みから、できることとできないこと、そして効果的な活用法までを詳しく解説しました。
本記事もご参考いただきつつ、一人ひとりの状況に合わせた最適な訪問看護サービスの活用が、より充実した在宅療養生活につながることを願っています。