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溝端淳平、門脇麦が手の内を語り合う 二兎社公演49『狩場の悲劇』で初共演

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(左から)溝端淳平、門脇麦

二兎社、永井愛、4年ぶりの新作はミステリー。それもチェーホフが24歳の時に書いたレアな長編ミステリー『狩場の悲劇』(1884)をベースに、永井独自の視点を盛り込んだ意欲作が11月、紀伊國屋サザンシアターほかで上演される。

モスクワのある新聞社に、元予審判事・カムイシェフ(溝端淳平)が自作の小説を持ち込む。彼が実際に遭遇した殺人事件が題材で、オーレンカ(門脇麦)という美しい娘とカムイシェフ、知人の伯爵、伯爵邸の管理人が四つ巴に絡んだ愛憎劇。ーー真夜中の編集室で「狩場の悲劇」が展開される。

かのアガサ・クリスティよりも40年以上も前に、チェーホフがミステリー作家としての才能を発揮していたことも興味深いが、ミステリーのみならず、帝政ロシアの時代に生きる人々と現代社会を重ねて見せるのは永井愛の真骨頂だろう。
カムイシェフを演じる溝端は、舞台『毛皮のヴィーナス』(22年)やドラマ『何曜日に生まれたの』(23年)などでクセ者作家役を演じてきた。今回は小説を書く元予審判事役。一方、愛憎劇の一員・オーレンカを演じる門脇麦はミステリー作で犯人役が多く、いるだけで何か秘めていそうなムードを醸し出すことに定評がある。はたして今回、ふたりはそのイメージ通りなのか、それをガラリと覆すのか。そこもまたミステリー。初共演のふたりが手の内を語り合う。

二兎社公演49『狩場の悲劇』

ーー今回、初共演の溝端さんと門脇さん。まずお互いの印象を教えてください。

門脇麦(以下門脇):私がデビューする前から溝端さんは学園ものをはじめとした、さまざまな作品に出ていて、それを拝見していました。ところが、私が仕事をはじめてから、現場ですれ違ったことが一度もないですよね。

溝端淳平(以下溝端):そうですよね。どこかの現場ですれ違いもしていないし、共通の知り合いがいることもないですよね。

門脇:この世界にいるとお仕事を通して何かしら接点ができたり、現場でたまたま会うことが多いですよね。あるいは1回共演すると、そのあと、共演が続くこともあります。ここまで接点がないことは珍しく、溝端さんとははじめましての共演なのでとても嬉しいです。

溝端:僕も今回、門脇さんと共演できることがすごく嬉しかったです。僕の門脇さんへの印象は、映画畑の俳優さんというものと、あと、いい意味で陰の雰囲気があって。どちらかというと陽の雰囲気の作品が多かった僕とはあまり交わることがなかったのかもしれないですよね。

溝端淳平

門脇:溝端さんは明るい印象がありました。

溝端:(笑)。はじめてお話しをして思ったのは、中身はそんな遠くないのではないかと。僕も全然中身はキラキラしていませんから。むしろ泥水をすするような俳優人生ですよ(笑)。そういう意味では、今回の共演はすごく楽しそうな気がしています。これまで全然、接点がないと思っていた門脇さんと共演できる、しかも演劇でがっつりご一緒できることは、いいチャンスだと思います。門脇さんのもつ雰囲気や世界観が僕は映画やドラマを見ていてすごく好きだったから、いい影響を受けながら頑張りたいです。

門脇:今日「初めまして」だったのですが、「お兄さん」という印象があります。こういう取材でも溝端さんがお話してくださるので信頼できますよね。

ーー今回、オファーを受けたときのお気持ちをお聞かせください。

溝端:二兎社さんに出演するのは13年ぶりです。『こんばんは、父さん』(12年)で平幹二朗さんと佐々木蔵之介さんとの三人芝居という、今思い出せばとんでもない凄いものに挑戦させていただいたのだなと。その当時よりも、年々、その経験の大切さを感じます。確実に人生においての糧になっています。あれから13年、30代半ばになってまた永井愛さんからお声をかけていただいたことがとても嬉しくて。しかもチェーホフの隠れた名作に呼んでいただけたことに感謝しつつ、一から鍛え直していただきたいと初心に帰るような気持ちです。

門脇:私は永井愛さんとお仕事をするのははじめてですが、今回の企画のお話を伺って、面白そう、やりたい! と思って、すぐにやりますとお返事しました。

門脇麦

ーー『狩場の悲劇』を読んだ感想や、チェーホフに対する印象はいかがでしょうか。

溝端:『狩場の悲劇』を読んだ印象は、ミステリーはもちろんですが、ロシアの富裕層たちの人間模様が鋭い筆致でたくさん書かれているところが面白いです。僕が演じるカムイシェフが書いた実体験を元にした小説がメインで、このカムイシェフがとても興味深いんです。なかなか癖のある人物で、秀でている部分と欠落している部分がはっきり分かれている。人間的なモラルが欠落していると僕は思いましたが、その人間が書いた手記(小説)は読んでいて気持ち悪いです。気持ち悪いけれど、ドキドキして読み進むのが止まらないのがこの作品の魅力かなと思います。いわゆる人間的なぬくもりみたいなものはこの作品にはあまりないと思ったのですが、永井さんの作品といえば、日本人みんなが大事と思っているようなぬくもりがダイレクトに刺さる作品が多いと個人的には思っていて。その永井さんがこの作品を書いたときの化学反応が楽しみです。

門脇:すべて溝端さんのおっしゃった通りです。

溝端:しゃべり過ぎてますね、すみません(笑)。

門脇:ミステリーと言いつつ、そのカラクリはめちゃくちゃシンプルなんですよね。むしろ、ミステリーの枠組みを使って人間考察をしていくというか、その中に人間の欲望だったり業だったりを描いていると感じました。ミステリーというしっかりした枠組みさえあれば、そこにいくら要素を詰め込んでも壊れないと思うので。私もいろいろな要素を詰め込みたいです。私が演じるオーレンカは序盤、本当に美しい少女として登場しますが、中盤からものすごく印象が変わります。まだ稽古前なのでわかりませんが、変化を鮮やかに出せたらと思っています。

(左から)溝端淳平、門脇麦

ーーミステリーなのでネタバレ注意かとは思いますが、おふたりはネタバレを許さない派か気にしない派かどちらでしょうか。

門脇:私は大丈夫なほうです。小説を読むとき、半分くらいまで読んでまどろっこしくなって先に最後を読んじゃうタイプです。

溝端:僕はネタバレが結構いやなほうかもしれないですね。熱中しているものだったら特に。例えば、高校生の頃、『ONE PIECE』でエースが死ぬと明かされたとき、すごくショックを受けたし、腹が立ちました(笑)。

ーー『狩場の悲劇』はネタバレにならない程度でどんな感じになりそうでしょうか。

溝端:そうだなあ、印象としてはやっぱりスッキリはしないですね。

門脇:終わったあと何とも言えないような気持ちになります。ただ読み進めていくとだんだんと真相が分かっていく、その過程はとても楽しめます。

ーーそういう最後まで分からないものを演じるときの楽しみはありますか。ミスリード的なことを仕掛けるのか、フラグが立ったように演じるのか。演出にもよると思いますが。

門脇:この作品に限ったことではなく、普段演じるときですよね。……私、犯人の役が多いんですよ。

溝端:演じるの楽しいでしょ。僕は犯人役が少なかったのだけれど、最近たまにやることがあってすごく楽しいです。世間的にも犯人じゃなさそうだよねと見られるから、しめしめって(笑)。

溝端淳平

門脇:私は逆に犯人役をやりすぎていて。被害者のフリをしていて実は殺人鬼だったというような役がよくあって。そのため何をやっても犯人と思われる。すごく平和な世界のドラマなのに、この後、修羅場になるのではないかと深読みされることが多いですね。

ーー永井さんの演出を経験されているのは溝端さんだけですよね。

溝端:そうですね。永井さんの演出は細かいですね。もう愛のある千本ノックだと感じていました。『こんばんは、父さん』の当時、僕は20代でまだ新人だったから当然で。ただ、大先輩である平さん、蔵之介さんに対しても平等に細かく演出されていました。本番が始まっても地方公演のときまで毎回、3人の楽屋を回ってチェック(稽古・本番を見た演出家からの修正点やアドバイス)を行っていました。いま、なかなかそこまでやってくださる演出家さんはいないので、僕は恵まれていたと思います。永井さんは本当に演劇少女のようで、いつも目をキラキラ輝かせていたのをよく覚えています。

門脇:私はこれまでの二兎社さんの作品を拝見しましたが、人間に強い興味が湧いてくる作品が多い気がしていて。どんなに暗い作品でも、そこに向かう興味の矢印が陽な感じがしていて。見ていて気持ちがいい。おそらく役者のほうがそう感じるのではないでしょうか。

溝端:確かに。

門脇:だから絶対、いつかご一緒したいと思っていました。

ーー玉置玲央さん、亀田佳明さん、大西礼芳さん、加治将樹さん、岡田地平さん、ホリユウキさん、水野あやさん、石井愃一さん、佐藤誓さんとベテランから中堅まで芸達者な俳優さんたちが集まりました。気になる共演者の方を教えてください。

溝端:演劇でしっかり共演したことがあるのは佐藤誓さん。今回、伯爵邸の管理人・ウルベーニンというキーパーソンの役です。誓さんがやると決まってから原作を読んだらもうピッタリだなと思いました。ちょっと狡猾なところもあれば、真面目さから抜けきれない愛くるしさみたいなものが素敵なんです。他の皆さんも、演劇の猛者というか化け物ばかりだなと思っているので、その中に自分が飛び込むことは怖くもあり、楽しみでもあります。

門脇:私は溝端さんのみならず、本当に皆さんとほぼはじめてです。もしかしたらどこかの現場ですれ違っているかもしれないですが。ほとんどの共演者の方々と初顔合わせということは長いことこの仕事をしてきてなかなかないので、新鮮な気持ちで取り組みたいと思います。

門脇麦

ーー東京以外で行うツアー公演が16箇所あります。全国の皆さんにメッセージをお願いします。

溝端:旅公演は経験ありますが、ここまで小刻みにいろいろな場所に行かせていただくという経験はなくて。多分半分以上は初めて立つ劇場だと思います。劇場との出会い、街との出会い、観客との出会いによって演劇は変化していくものと僕は思うので、一期一会を楽しみにしていただきたいです。若い方もたくさん見に来てくれたらなと思っております。ちょっとチケットが高いかもしれないけど……。

門脇:高校生は1000円で、25歳以下の方はU25割引があるんですよね。

溝端:それは絶対に観に来てほしいですね。

門脇:私たちがこんなに行っていない劇場がたくさんあるということは、一般の方々はなかなか演劇を見る機会も少ないのかなと思います。これをきっかけに気軽に演劇を見ていただければ嬉しいです。

溝端:先ほど、原作は見たあとスッキリしない内容かもしれないと話しましたが、永井さんは分からないことを分からないまま持ち帰ってくださいという作家ではないと僕は思っていて。絶対にちゃんといいギフトを持ち帰らせてくれるので、チェーホフと永井さんの組み合わせはぜひ見ていただきたいです!

(左から)溝端淳平、門脇麦



衣装クレジット(税込価格)
■溝端淳平
スーツ ¥203,500/タリアトーレ(エストネーション 0120-503-971)、その他スタイリスト私物

■門脇麦
ドレス ¥75,900/トーガ トゥ(TOGA 原宿店 03-6419-8136) イヤリング ¥4,290/ラルク(ロードス 03-6416-1995)

取材・文=木俣 冬   撮影=iwa

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