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退職は民法と就業規則どちらが優先?退職交渉を上手く切り抜けるための知識を解説

ささえるラボ

退職は民法と就業規則どちらが優先?退職交渉を上手く切り抜けるための知識を解説

【結論】退職の申し出は「民法」が優先!就業規則のルールは絶対ではない

執筆者/専門家

後藤 晴紀

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/9

退職を申し出る際、「会社の就業規則では1ヶ月前に申告って書いてあるけど、民法では2週間前でOKって聞いたことがある…」と迷う方は少なくありません。
実際、民法第627条では、期間の定めがない雇用契約の場合、退職の申し出から2週間で契約終了が可能とされています。※

一方で、就業規則は会社が独自に定めたルールであるため、退職の意思表示は民法が優先されるのが基本です。ただし、円満退職を目指すなら、会社との調整や引き継ぎも重要です。

この記事では、法律と社内ルールの違いを踏まえ、トラブルを避けながら退職交渉を進めるための方法を紹介します。
※参照:法令検索民法(明治二十九年法律第八十九号)

まずは退職についての関係法令を確認しましょう!

民法における退職

退職に関する法律の基本は、先述した通り、民法第627条です。

これは「期間の定めのない雇用契約(無期雇用)」に適用され、労働者は退職の申し入れから2週間後に契約終了できると定められています。この規定は、就業規則よりも優先されるため、会社が「1ヶ月前に申し出ること」と定めていても、法的には2週間で退職が可能です。

ここからは、雇用形態ごとに詳しく見ていきましょう。
※参照:法令検索民法(明治二十九年法律第八十九号)

■無期雇用(正職員など)の場合

契約期間に定めのない労働契約である無期雇用契約の退職については、民法第627条第1項が適用され、退職の申し入れから2週間で契約終了が可能です。また、契約解除の申し入れはいつでも可能となっています。

そのため、会社の就業規則に「1ヶ月前に申し出ること」とあっても、法的には拘束力が弱く、労働者の意思が尊重されます。

■有期雇用(パート・アルバイトなど)の場合

有期雇用契約では、として契約期間満了まで働く義務があります。ただし、民法第628条により「やむを得ない事由」がある場合は、契約期間中でも退職が可能です。やむを得ない事由とは、病気や家庭の事情、職場でのハラスメントなどです。

また、契約から1年が経過したあとは、やむを得ない事由がなくても退職が可能となることが民法第137条に定められています。

就業規則における退職

就業規則は、会社が定める社内ルールであり、退職に関する手続きや申出期限なども明記されています。多くの企業では「退職は30日前までに申し出ること」などの規定があり、これは退職者が出た際の業務への影響を最小限に抑えるための仕組みです。

誰かが退職するということは、職場にとってポジティブな話題ではないのが現実です。突然の退職は、残された職員に不安を与え、「次は自分かも…」という空気が広がることで、連鎖的な退職につながるリスクもあります。

そこで事業所は、就業規則によって退職の申出期限を定め、求人・採用活動の準備期間や、引き継ぎ・育成の猶予期間を確保しようとします。つまり、就業規則にある「退職は○日前までに申し出ること」というルールは、単なる形式ではなく、職場の安定を守るための重要な仕組みなのです。

就業規則で退職の申し出期間を2週間以上に定めるのは法的に問題ない?

企業が就業規則で退職の申し出期間を1ヶ月前や2ヶ月前など、民法よりも長く定めること自体は可能です。

しかし、労働者が民法第627条に基づいて2週間前に退職を申し出た場合、会社側がそれを拒否したり、就業規則に基づいて強制したりすることはできません。したがって、就業規則に退職の申出期限を記載する際は、「○日前までに申し出ることが望ましい」や「円滑な業務引き継ぎのために○日前までの申告をお願いしています」といった柔らかい表現に留めることが適切な対応といえます。

退職届は退職予定日の2週間前までに提出すれば有効!

退職の意思表示は、退職届の提出によって行われるのが一般的です。先述してきた通り、民法第627条では、「雇用は、解約の申入れの日から2週間を経過することによって終了する」と定められています。

そのため、就業規則で1ヶ月前と定められていても、退職予定日の2週間前までに退職届を提出すれば法的には有効とされ、会社の承諾がなくても退職は成立します。

日数計算の仕方

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

退職の意思表示に関する日数の数え方は、営業日ではなく暦日で計算します。つまり、土日や祝日を含めて連続した14日間をカウントするため、会社の営業日や休日は関係ありません。

退職届を提出した日が「意思表示日」となり、その翌日から起算して14日目に退職が成立します。例えば、3月1日に退職の意思を示した場合、その翌日から14日後の3月15日が退職可能日です。

退職交渉を上手に切り抜けるためのコツ

就業規則に基づいた期間の前に申し出るのがベスト

退職交渉を上手に切り抜けるためには、就業規則に定められた申し出期間よりも余裕を持って退職の意思を伝えることが理想的です。民法上は2週間前の申し出で退職は可能ですが、現場の実情を考えると、それでは会社に大きな負担をかけてしまうこともあります。

特に事業所や施設にとって一番困るのは、職員に急に辞められることです。もし、すべての職員が民法通り2週間で退職してしまったら、事業所の運営はどうなるでしょうか。私たち介護職のように「人」にサービスを提供する仕事では、利用者さんや入居者さんが安定したサービスを受けられなくなる可能性があり、これは大きな問題です。残された職員にとっても、業務負担が増え、不安や不満の原因になりかねません。

こうした事態を防ぐためにも、余裕を持った退職の申し出が重要です。転職先が決まっている場合は、先方の事業所にもその旨を伝えたうえで、新たな入職日を調整しましょう。そのためにも、まずは自分の職場の就業規則に定められた退職の申し出期間を確認しておくことが大切です。

事業所のことも考慮して退職を伝えましょう

退職の申し出は、個人の権利である一方で、職場全体に影響を与える行動でもあります。申し出のタイミングや伝え方によっては、事業所との関係が悪化してしまうこともありますが、その多くは、すでに日頃の関係性が崩れてしまっていることが原因であるように感じます。そうでなければ、やむを得ない事情がない限り、退職という選択肢にはなかなか至らないものです。

このような場面は、労使関係にある者同士の信頼やコミュニケーションが、いかに重要かを改めて浮き彫りにする瞬間でもあります。

だからこそ、退職を伝える際には、ご自身の都合だけでなく、事業所の状況にも配慮することが大切です。事業所にも準備の時間が必要ですし、円滑な引き継ぎや業務調整のためにも、就業規則に定められた期間に沿って申し出ることで、退職交渉がスムーズに進む可能性が高まります。

上司の引き留めにあってやめられない…どうすればいい?

毅然とした態度で丁寧に断るのが鉄則

上司側も、「もしかしたら退職を撤回してくれるかも」と淡い期待を抱いて引き留めていることがあります。しかし、その期待を持たせてしまったのは、もしかすると退職予定者自身かもしれません。

「仲間に迷惑をかけたくない」という優しさに甘えて、事業所側が引き留めを強めているケースもあります。だからこそ、毅然とした態度で、しかし丁寧にお断りすることが大切です。曖昧な返答は、かえって交渉を長引かせてしまいます。

退職は労働者の権利。周囲に配慮した退職を!

退職は、労働者に認められた正当な権利です。事業所側が退職を撤回させようとしたり、強制的に働かせようとするような働きかけは、違法となる可能性もあります。退職は「お願い」ではなく、「意思表示」であることをしっかり理解しておきましょう。

とはいえ、現場の人材不足は深刻です。採用担当者としても、1人の職員さんに出会うまでに多くの時間と労力がかかることを実感しています。だからこそ、義務・権利・責任のバランスを意識しながら、双方が納得できる形で退職を進めることが理想です。

退職届が受理されなかった場合の対処法

弁護士に相談する

会社との直接交渉が難しい場合は、弁護士に相談をして、退職の意思表示や手続きのサポートをしてもらう手段もあります。一人で抱え込まずに退職交渉が行えるため、精神的な負担を軽減できます。

また、弁護士が加わることで法的なトラブルへの対応も可能です。

慰謝料を請求する

退職妨害によって精神的苦痛を受けた場合、慰謝料請求が認められるケースもあります。

ただし、これは状況や証拠によって異なるため、弁護士に相談して判断する必要があります。会社側の対応が悪質であれば、損害賠償請求も視野に入れることができます。

労働基準監督署に通報する

会社が退職届を受理してくれない、退職を認めないなどの行為は、労働者の権利を侵害している可能性があります。その場合は、労働基準監督署に相談・通報することで、行政指導が入ることもあります。

特に、離職票の未発行や有給休暇の拒否などがある場合は、早めの相談が重要です。

最後に:退職は「権利」と「配慮」のバランスが大切

退職は、民法によって定められている正当な権利です。しかし、職場の仲間や利用者さん、そして事業所の運営に影響を与える行動でもあります。だからこそ、法律に基づいた知識を持ちつつ、周囲への配慮を忘れずに行動することが、円満退職への近道です。

この記事で紹介したように、民法と就業規則の違いを理解し、適切なタイミングで退職の意思を伝えることで、トラブルを避けながらスムーズに退職交渉を進めることができます。もし退職交渉において不安や悩みがある場合は、信頼できる専門家や専門機関に相談することも選択肢のひとつです。

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