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その場の“昔”を撮る レンズのない「思い出カメラ」に感じる未来の風

おたくま経済新聞

その場の“昔”を撮る レンズのない「思い出カメラ」に感じる未来の風

 レンズがないのに写真が撮影できる、そんな不思議なカメラ「思い出カメラ」がXで話題です。
 
 発明家の堀洋祐さんが開発したそのカメラは目の前の風景を撮影することができません。しかしその代わりにその場所の“過去”を撮影することができるというのです。

 アノ……エト……ドウイウコト……?

【モニターに現れた過去の画像】

■ Googleストリートビューを活用し、その場所の“過去の風景”を映し出す「思い出カメラ」

 “ちょっと不思議な未来の道具を作る”をコンセプトに活動している堀さんは、行き先を地面に表示してくれる「みちびきライト」や、実家をデータとして保存する「実家デジタル保存プロジェクト」などを手掛ける発明家です。

 そんな堀さんがこのほどXに投稿したのは、下記のエピソードです。

『思い出カメラ』で撮影しながら歩いていたら、海外からのお客さんに「なんでレンズ入ってないカメラで撮れるんだ!?」とびっくりされた。
位置情報と姿勢情報で過去の風景を撮るオリジナルのカメラと説明した。なんとなく伝わったかな。

 投稿に添えられた写真に写っているのは、パッと見ではカメラの形をした玩具や小道具にしか見えない、不思議な物体。直方体と円筒形を組み合わせたシンプルなデザインのそれこそが、堀さんの投稿に登場する「思い出カメラ」です。

 レンズはないけどカメラ。カメラだけどレンズがないので目の前の風景は撮影できない。いったいどういうこと?

 このカメラは堀さんの投稿にもある通り、その場所の“過去の風景”を撮ることができるカメラ。普通のカメラで言うところのレンズに相当する円筒形の部分を対象に向けることで、位置情報や姿勢情報を使って、Googleストリートビューからその場所の過去の画像を取得し、カメラの裏にある画面に表示させることができるというのです。

 実際に堀さんがYouTubeに投稿した動画を見てみると、秋葉原の“肉ビル”こと「肉の万世」の本店ビルや、新宿アルタのビルの跡地に「思い出カメラ」を向ける場面が。

 解体工事が始まっているためにかつての姿を失ってしまった東京の名所たちですが、思い出カメラを通すと、記憶の中の姿がカメラのモニター画面に現れます。

 Googleストリートビューから引っ張ってきているとはいえ、カメラの角度と位置情報を踏まえているため、現れる画像は実際にその場で過去を撮影しているかのよう。

 ロマンあふれる「思い出カメラ」についての投稿は10万件を超すいいねを集め「見た目があまりにドラえもんやキテレツの世界観」「こんなカメラ欲しいです」「こういう発想力、憧れる」といった驚きの声が寄せられています。

 まるで藤子・F・不二雄作品に登場するかのようなユニークなこの発明品。どんなきっかけで制作に至ったのか、堀さんに詳しくお話をうかがってみました。

■ 「思い出カメラ」誕生のきっかけは、取り壊された実家との“再会”

――どのようなきっかけでこの「思い出カメラ」を制作しようとしたのでしょうか?

<堀さん>
 昨年、生まれ育った実家を取り壊しました。もう実家は存在していないのですが、Googleマップで実家を見ていたところ、ストリートビューというサービスを使うとそこには取り壊される前の実家が保存されていることに気づきました。

 そこで、ストリートビューを使って、再び実家の前に立ち、シャッターを切った時にだけ過去の風景が浮かび上がるカメラを作ることができないかと考えて製作しました。

――理屈は凄くシンプルに思えますが、おそらく実現までにはとても困難だったのではないかと思います。制作に当たってこだわった点や苦労した点はどういったところでしょうか?

<堀さん>
 こだわったのは、カメラで撮影しているという体験に違和感がないように設計している点です。

 例えば、カメラを上下左右に動かしてもきちんとカメラが向いている風景を撮影できるようにしていたり、シャッターボタンを押すと「カッシャ」と音がするのですが、音声ファイルを再生していたり、撮影した画像はSDカードに保存できたりしています。

 難しかった点は、ストリートビューから画像をきちんと取得して、液晶に表示して、保存する処理の部分です。

――Googleストリートビュー内の「過去の写真」といっても時代がまちまちだと思うのですが、いつの写真を持ってくるというのは決まっているのでしょうか?

<堀さん>
 ストリートビューに保存されている、一番新しい画像をとってきています。

 現時点で時代を指定することはできません。

――実際にGoogleストリートビューに登録されている場所でさえあれば、このカメラは世界中どこでも使うことができるという理解であっていますか?

<堀さん>
 はい、Googleストリートビューに登録されていれば世界中どこのデータでも撮ることができます。

 (実験で位置情報を化かして、海外にいる状態にして撮影すると、海外の画像が撮影できました)

――海外旅行もこのカメラが一台あるだけで楽しみ方が変わってきそうですね……!ちなみにカメラのデザインはどことなく「ドラえもん」のひみつ道具を感じさせますが、そのあたりはやはり意識されているのでしょうか?

<堀さん>
 名前に関してはドラえもんのひみつ道具のようにキャッチーな名前にしたかったので、意識しました。(以前開発した「みちびきライト」も意識しています。)

 最初は別の名前を考えていたのですが、一番最初に体験してくれた友人が言った「思い出カメラ」という名前が気に入ってこの名前にしました。

――確かに名前も、秘密道具っぽいですね……!

<堀さん>
 デザインに関しては、特に意識しておらず、レンズのついたカメラをデフォルメしていった結果、今のデザインになりました。

 ドラえもんが大好きなので、デザインにもドラえもんのひみつ道具らしさを感じていただけたなら、とても嬉しいです。

* * *

 Googleストリートビューの画像データを活用して、擬似的なタイムトラベルを実現する「思い出カメラ」。

 これを手に地元や、馴染みのある場所をぶらり旅したら懐かしさで泣けてしまいそう……。

 もしも商品化されることがあれば、ぜひとも手に入れて体験してみたいアイテムです。

<記事化協力>
堀洋祐 Yosuke Hori / カサネタリウム kasanetarium さん(@kasanetarium)

(ヨシクラミク)

Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By YoshikuraMiku | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025101701.html

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