地元企業が運営する足立区役所『食堂ソラノシタ』。鮮魚に野菜に給食も!地域のつながりで区を盛り上げる
安くておいしいランチが食べたい。そんなときは近くの役所へ足を運んでみるのをおすすめしたい。役所内の食堂って、そこで働いている人のための、いわゆる“社食”のイメージがあるけど、実は一般の人も利用できるところがほとんど。リーズナブルなだけでなく、栄養バランスも考えられているし、地元ならではのオリジナリティに富んだメニューが楽しめたりする。そんな役所の食堂のランチを食べ歩きます。東京23区の北東側に位置する足立区。足立区役所は北館、中央館、南館、別館の4棟からなり、一番高い南館の最上階(14階)に地元企業が運営する展望レストランがある。地元をよく知る料理人が手掛ける地の利を生かしたメニューは、どれも魅力的だ。
ここでしか食べられない! 地元の名店とのコラボメニュー
活気があって人情味あふれる東京の下町・足立区。昔ながらの商店街が多く残るが、近年いくつもの大学のキャンパスが進出したことで、若者も多く集まる街となってきた。
足立区役所は東武スカイツリーライン梅島駅から徒歩12分ほど、北千住駅からだとバスで10~15分ほどの場所にある。
展望レストラン『食堂ソラノシタ』があるのは足立区役所南館の14階。エレベーターで一気に上がる。
店内に入った途端、地上約67mからのすばらしい景色が目を楽しませてくれる。天井が高く、西側の壁が全面ガラス張りになっているので、窓から離れた席からでも眺望が楽しめる。
『食堂ソラノシタ』を運営するのは『炉ばた焼き 一歩一歩 本店』『にぎりの一歩』など、北千住を中心に多くの飲食店を展開する地元企業「一歩一歩(いっぽいっぽ)」。地域を知り尽くした企業の出店とあって、地元のつながりを生かしたメニューや足立区ならではの料理が楽しめる。
地元ならではのメニューのひとつが、『炉ばた焼き 一歩一歩 本店』のはす向かいにある北千住の人気ラーメン店『麺屋 音』とのコラボでできたオリジナルラーメンだ。メニューは懐かしの中華そば858円、チャーシュー麺1078円、あら出汁ラーメン968円の3種類。魚好きの筆者はさっそくあら出汁ラーメンを注文した。
スープは『ソラノシタ』で使う魚の頭や骨からとった出汁と、『麺屋 音』の鶏白湯を合わせたWスープ。ひと口すすると、口の中にふわーっと広がる磯の香りとほんのりユズの香り。濃厚な旨味に、ほどよくコクを感じる。あら出汁と鶏白湯のいいとこ取りだ。
「アラをとる魚の種類によって出汁の風味がぜんぜん違ってくるんです」と教えてくれたのは、料理長の松澤世将(ときまさ)さん。「時季によって旬の魚が変わるので、魚が変わるとあら出汁ラーメンの味も変わってきます」。
ほほう、それは定期的に足を運んで味を確かめたくなりますな。
人気の魚料理をメインに魅力的なおかずがいっぱいの豆皿定食
「千住にある足立市場から届く新鮮な魚を使ったメニューは特に人気があります」と話す松澤さん。週に1度は自ら豊洲市場にも足を運んでいるそう。
「魚料理にはめちゃくちゃ自信があります。大間のマグロだったり、ノドグロだったり、クエだったり、ほかの定食屋では絶対にこの値段では出せないような魚を日替わりで出してるんです。魚料理は人気が高くて、毎日たくさん注文をいただいてます。ここに来ればおいしい魚が食べられるっていうのを広く知ってもらえてるんだと思います」
なるほど。おいしいあら汁ラーメンが食べられるのもその恩恵を受けているというわけですね。
日替わりメニューはその日に届いた素材を見て考えるそう。一歩一歩では青果店も経営していて、新鮮野菜はそこから仕入れている。素材を自社で一括して調達できるのが高コスパの秘訣。グループ店の強みと言えよう。
自慢の魚料理がそろう日替わりメニューを見せてもらった。
こ、これは……! 豆皿定食のラインアップに心を奪われる筆者。選べるメインの魚料理が2種に豆皿料理が5種。お品書きがどれも魅力的だ。ラーメンを食べておなかいっぱいなのだがどうしても食べたい。追加で注文お願いします。
「家庭でこれだけの品数を並べるのって難しいじゃないですか。栄養バランスがとれて、旬の食材もいろいろ食べられてっていうのを、日替わりで楽しんでもらいたい」と松澤さんが思いを語ってくれた。
メインはホッケ焼きと本日のお刺身3種盛りをチョイス。この日のお刺身はブリ、スズキ、イワシ。すべて国産で天然、冷凍していないものを使うというこだわりよう。
ブリはほどよい脂の乗り具合でとろけるようなおいしさ。スズキは独特なプリプリ食感であっさりした味わい。イワシもこれまたとろっとろでとろけるぅ!
豆皿料理はひじき煮、白菜の炊いたん、肉みそピーマン、もつ煮こみ、八ツ頭の揚げだしの5種。箸休めのしば漬けと千寿ねぎ味噌も付いてきた。
煮物や揚げだしには、京都の老舗『福島鰹』に作ってもらったという一歩一歩オリジナルの出汁を使っている。うるめ節とさば節のやさしい甘みが特徴だ。白菜の炊いたんをひと口いただくと、「ふわ~♪」と声が出てしまうような、なんだかほっとする味わいが口の中に広がった。
八ツ頭の揚げだしは、出汁にかえしを加えた甘じょっぱいタレがたまらなくおいしい! 皿に残ったタレもすすってしまいたい!
ひじき煮もほどよいしょっぱさに出汁のやさしい旨味が利いている。肉みそピーマンはそのままでもおいしいパリパリ食感のピーマンに甘い肉みそがのっかって、いくつでも食べられそう。そして、もつ煮。ゴロリと大きめにカットされたぷりっぷりのもつ。これは白いご飯にワンバンさせて食べたいやつ。
すべてのおかずがメシ泥棒!! これにしば漬けとねぎ味噌まで付いてくるなんて。お米は粘りとキレのバランスがよく、ほんのりとした甘みで粒立ちのいい青森産の“青天の霹靂(へきれき)”だ。
米も食材も高騰するなか、ひとつひとつのお料理に手間ひまをかけた定食が1000円台で食べられるのは本当にありがたい。
ラーメン完食後に豆皿定食もぺろりと平らげた筆者を見て「だ、大丈夫ですか?」と松澤さんが目を丸くした。いやいや、なんならご飯おかわりしたいぐらいです。
「ご飯と味噌汁はおかわり自由ですよ」。えーっ!! なんて太っ腹。これだけおかずがあれば、ご飯ガンガン行けちゃいますよ! ……でも今日は遠慮しておこう。ごちそうさまでした!
まだまだある! 足立区ならではの注目メニュー
「足立区は食育に力を入れていて、全国でも有数のおいしい給食を提供していることで有名なんですよ」と松澤さんが教えてくれた。子供たちから支持されている人気の給食メニューはレシピ本として発行され、全国の書店で売られているほど。
区立の小・中学校には各校内に給食室があり、全校に栄養士を配置。各校の栄養士が毎日の献立を作成しているという。化学調味料を使わず、天然だしをとり、素材の味を生かした味付けに。「子どものうちから味覚を鍛えて、『絶対音感』ならぬ『絶対味覚』を身につけ、健康に育ってほしい」(足立区ホームページより)。
『ソラノシタ』では、その全国から注目されている給食メニューが食べられるのだ。提供メニューは “足立のソウルフード”とも言われるエビクリームライス780円と、本日の給食(日替わり)780円の2種。日替わりは当日のお楽しみだ。
また、もうひとつ筆者が気になっていたメニューがあだち菜うどん748円だ。あだち菜とは、足立区内の農家で栽培された小松菜のことで、松澤さんいわく、「ふつうの小松菜と比べてかなりみずみずしい」とのこと。
ピューレにした新鮮なあだち菜が20%も小麦粉に練り込まれ、着色料は使わずに、鮮やかな緑色の麺に仕上がっている。足立区内の製麺所で製造され、テイクアウト用の乾麺も販売されている。
さすがにこの日はおなかも限界に近かったのであきらめたが、給食メニューもあだち菜うどんもぜひ食べてみたい。次もたくさん食べられるように、またおなかをすかせて来なくっちゃ!
食堂ソラノシタ(しょくどうそらのした)
住所:東京都足立区中央本町1-17-1 足立区役所 南館14F/営業時間:11:00~20:00LO/定休日:偶数月(4月を除く)の第2土・日/アクセス:東武スカイツリーライン梅島駅から徒歩12分
取材・文・撮影=マルヤマミキ