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酒場詩人・吉田類との充実の「誌上登山」 ついに100座達成!

NHK出版デジタルマガジン

酒場詩人・吉田類との充実の「誌上登山」 ついに100座達成!

酒場詩人・吉田類さんが全国の低山をめぐる、NHKの人気番組「にっぽん百低山」。
第1弾、第2弾の好評に応え、「三合目」をお届け。
今回、類さん自らセレクトした山は40座。
「一合目」「二合目」合わせて100座達成!
40座それぞれの、山と人々が紡ぐ物語を豊富なビジュアルで楽しめます。
※『NHK にっぽん百低山 吉田類の愛する低山30 三合目』より、転載

もういちど初心に…

 低山の魅力に憑りつかれて登頂すること130座を超え、今も低山への旅の途上にあります。本書もシリーズ三合目、今回は40座を紹介します。
 各地の低山を巡るうち、その大半が修験者の足跡を辿っていることに気づく。山を聖域とする山岳信仰と仏教思想の習合した修験道。自然を敬う彼らの精神に共感するところが多々ある。けれど世俗に生活基盤を置き、酒やグルメ旅も続けている我が身。爺さんにも拘(かかわ)らず出張ばかり。それでも移動手段に足腰を使うチャンスがめっきり減った。ついに旅に病んで三途の川を渡りかけたこともある。生活習慣が老化に拍車をかけたのだろう。
そこで生涯登山を可能にする鍛錬法を考えた。
 朝食前の約30分間、ベッドに仰向けになったまま小刻みな腹筋・最低1000回を日々のルーティンに組み込んだ。しかし自信を取り戻しかけた2年ほど後、登山ショップで夏用パンツを試着しようとした途端。

「なんじゃコリャー!」右脚鼠径部(そけいぶ)に化繊の生地ごとコンニャクみたいな塊を摑んだ。小刻み腹筋のやり過ぎで“脱腸”に見舞われたのだ。しかし、そんな中でも酒場番組のテレビロケは続けた。モーターパラグライダーで上空から松島の絶景を遠目に、芭蕉(ばしょう)の弟子・曽良(そら)の俳句を解説。右手で鼠径部を押さえていたのは言うまでもない。
 ふと低山登山でご一緒した女性ゲストの言葉を思い出した。
「山はお尻で登るのよ」。ネット検索すると〝骨盤を立てる姿勢が肝心〟と判明。なるほど骨盤を包むのが腰とお尻だ。アンチエイジングとして女優さんたちも実践しているらしい。
 折しも入浴で湯船に入りかけた時、侵入した一匹のアリを発見。構わず肩まで浸かると、アリは湯水に流され尻を見せて排水口に消えた。そこで自戒を込めての一句が浮かんだ。
「骨盤を立てて世を去る夏の虫」
 僕も骨盤を敬いつつ生涯登山を続けよう。

吉田 類
(『NHKにっぽん百低山 吉田類の愛する低山40 三合目』まえがきより)

ダケカンバやミズナラの森にツツジが彩りを加える(岩手県・五葉山)
抜けるような青空の最高峰・女体山山頂に立つ(茨城県・筑波山)
薬王院境内の参道には樹齢700年を超えるスギが立ち並ぶ(東京都・高尾山)
大池平から少し下った場所にある落差20mの三蛇ヶ滝(石川県・医王山)
美しい夕景の名所でもある屋島。空気が澄めば瀬戸大橋も見える(香川県・屋島)
下山の後のお楽しみもたっぷり!
下山の後のお楽しみもたっぷり!
民俗学者・小松和彦さんと「低山の“もののけ”は楽しい」と語り合う

吉田 類

酒場詩人。俳人、イラストレーター。1949年高知県生まれ。著書に『酒場歳時記』(NHK出版)、『酒場詩人の流儀』(中公新書)など。テレビ出演に「吉田類の酒場放浪記」(2003年~、BSTBS)、「にっぽん百低山」(2020年~、NHK)。

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