晩秋の鎌倉エリアで紅葉散歩。地理や防災に注目して、いつもと違った視点で歩いてみよう
近年は紅葉の見ごろが遅くなってきていますが、ようやく首都圏など都市部でも葉の色づきが進みました。今回紹介するのは首都圏の人気紅葉スポット・鎌倉。数多くの神社やお寺が残る見どころ満載の鎌倉エリアですが、その独特な地形ゆえに地理や防災に関連した話も多くあります。気象予報士ならではの視点を交えて、晩秋の鎌倉を巡ります。
山も海も近い鎌倉。外敵の侵入を防ぐには好条件だった!?
海沿いにあるため首都圏でも冷え込みが弱い鎌倉は、紅葉の見ごろを迎えるのが遅めです。12月に入っても見ごろが続くところも多く、「円覚寺」や「明月院」など人気の紅葉スポットでは多くの人でにぎわいます。鎌倉の魅力といえば、都心部からすぐに出かけられて小旅行気分を味わえること、歴史的な名所が多いこと、そして何より山も海も間近にあるため四季折々の自然の風景を楽しめることです。
山と海が近い地形は、源頼朝がこの地に鎌倉幕府を開く決め手の一つになったと伝えられています。政権を置く地として重要なのは敵に攻められにくいことなので、北、東、西の三方を山に囲まれ、南には相模湾が広がる鎌倉の地形は敵の侵入を防ぐのに適していたのです。
鎌倉には「切通し」と呼ばれる通り道が残りますが、これは山を削って人や物の通り道を確保するために造られた道です。鎌倉と外の道をつなぐ主な切通しは「鎌倉七切通(かまくらななきりどおし)」または「鎌倉七口(かまくらななくち)」と呼ばれています。険しい崖や急な斜面が迫るなど山道は歴史の奥深さを物語っています。切通しを歩きながら古の武士たちのロマンを感じてみるのも良さそうです。
「鶴岡八幡宮」に通じる「段葛」は水や土砂の流入防止のために造設
さて、鎌倉駅を降り立ち小町通りで食べ歩きを楽しみつつ進んでいくと、「鶴岡八幡宮」にたどり着きます。境内では今の時期、カエデやハゼなどの色とりどりの紅葉が楽しめます。この「鶴岡八幡宮」へ向かう際、小町通りの一本奥を通る道が、参道・若宮大路です。滑川橋のたもとから一ノ鳥居、二ノ鳥居を抜け、三ノ鳥居まで約2kmの一本道が続きます。
ところで、参道を歩いていると、車道よりも一段高くなっていることに気付くかと思います。葛石を置いた一段高い道は「段葛(だんかずら)」と呼ばれ、造られた理由の一つに源頼朝が妻・政子の安産を祈願したことが挙げられます。実は、古代の鎌倉はこのあたりまで海水が入り込んでいるほど沼地や湿地が多くありました。また、頼朝が都市改造を進めた結果、山の保水力が低下し、雨が降ると土砂や水が流入し、さらに若宮大路はぬかるむようになりました。そこで盛土をして、ぬかるみ対策を行うようになり、段葛が造られたのです。
若宮大路・段葛(わかみやおおじ・だんかずら)
住所:神奈川県鎌倉市雪ノ下2-1-31/営業時間:見学自由
鎌倉大仏はなぜ野ざらしなのか? 実は鎌倉は災害リスクが高い街
鎌倉駅方面から江の島駅方面へ海沿いを歩いていくと、紅葉のほか紫陽花や梅の名所の「長谷寺」などがある長谷駅へたどり着きます。長谷エリアといえば、「高徳院」の鎌倉大仏も見どころですが、この大仏様、なぜ野ざらしになっているのかご存じでしょうか? 実は、過去には奈良県にある東大寺の大仏のように、大仏殿の中に鎮座していたのですが、数百年前の大風(台風)や地震による津波で倒壊してしまったのです。
鎌倉大仏が初めて造られたのは寛元元年(1243)のこと。初代の大仏は木造で大風によって破損しました。のちに銅製の大仏が造られ、大仏殿も建てられました。しかし、建武元年(1334)、応安元年(1369)の大風、さらに弘治9年(1498)の明応地震の大津波により大仏殿は倒壊します。その後、大仏殿は再建されず、今日まで雨の日も風の日も露座の姿のままなのです。
海も山も間近に迫る鎌倉では現代においても災害のリスクと無縁ではありません。近年も2017年に台風21号が接近した時は高潮や高波によって地元名物のシラス漁が大きな被害を受けました。また、巨大地震が発生すると津波の被害は甚大になると予想されています。地震発生後、鎌倉エリアには数分から数十分で津波が到達するおそれがあり、一部では10m以上の津波になる危険もあります。山が近く崖や急傾斜地も多いため、土砂崩れや崖崩れが起きるリスクも高くなっています。
地震の発生時、海沿いにいる場合はすぐに高台に避難する、崖など危ない場所からは離れるなど、念のためいざという時の心構えもしておきたいですね。
歴史と自然の魅力を同時に楽しめる鎌倉、この季節はあちらこちらで色とりどりの葉が街中を彩ってくれています。本格的な冬の足音も聞こえてくる頃ですが、晩秋の名残がある紅葉を愛でつつ、いつもと違った視点で鎌倉を歩いてみるのはいかがでしょうか?
文・撮影=片山美紀
参考:
弓木春奈「気象災害から身を守る大切なことわざ」2017.河出書房新社
「びっくり探県! まるごとわかる神奈川の図鑑」監修:梅澤真一.2024.KADOKAWA
「鎌倉観光公式ガイド」
https://www.trip-kamakura.com/
片山美紀
気象予報士
大阪府出身。大学卒業後、地方放送局を経て気象予報士となりNHK総合やTBSなどで解説。街歩きをしながらお天気ネタを探すのが趣味。著書に『気象予報士のしごと‐未来の空を予想して‐』(成山堂書店)、『地球環境を守るレシピ』(日本橋出版)などがある。