お隣さんの薬剤師が、焼き鳥店を継いだ!?
毎週月曜日は東京新聞との紙面連動企画をお送りしていますが、今日は七夕。織姫と彦星が年に一回出会える日、ということで、今日は素敵な出会いを取材した記事に注目しました。
もともとお客だったお隣さんが後継者に!?
誰と誰が出会って何がどうなったのか?
舞台は、江東区大島にある「やきとり日和」というお持ち帰り専門の焼き鳥店。店主の蛯原崇晶さんにお話を伺いました。
持ち帰り焼き鳥店「やきとり日和」店主 蛯原崇晶さん
「僕ももともと客で、隣で薬剤師の仕事をしていたんですけども、帰りによく買って、晩酌のっていうので焼き鳥を買わせてもらってたんですけども、その中で、お店をたたむっていう話を聞いて、僕に継がせて欲しいっていうお願いをした二代目になってます。串を刺すところからスタートというか、ホント刺し方ひとつで焼きやすさ、仕上がりが全然違うので、大変、もうホントに・・・で、もともと僕、料理とか全然できないので、それもあって、それこそ指刺したりとか、何度も何度も繰り返して、でも未だに綺麗には出来ないなって言うのは思ってます。
焼きも大変です。焦げちゃうとか、逆に生とか。それこそ僕薬剤師なので、衛生面はかなり気をつけてやってるんですけど、それ(生)を警戒すると、焼き過ぎて焦げちゃって、お客さんからも実際「固い、前の方がフワっとしてた、とかって声を頂いて、なるほどと思いながら。でも隣に経験値の塊というか、教科書のような方がいらっしゃるので、目線一つから盗みながらやってるっていう形で、日々、日々、格闘中です。」
隣の薬局の薬剤師さんが、焼き鳥店の店主になったんです。
まさにお隣さん。この薬局に勤めていた蛯原さんが、隣の焼き鳥店の店主に!
後継者となった蛯原さん。【薬剤師】Tシャツ着てますね~!
元は42年続いた「徳光」という焼き鳥店。亡くなった旦那さんと息子さんの手伝いもありましたが、基本的にはお母さんが一人で続けていたお店。
しかし、85歳になって、行きはスタスタ早足で来られるのに、帰りは足が重くて・・・年にはかなわないんだな~と実感。元気なうちに辞めるのがいいか!と、去年10月、思い切って店をたたむことに決めました。
ビックリしたわよ!でも嬉しかった~!
そこへお隣さんから思わぬ話がきたのです。先代の徳田千恵子さんのお話です。
先代 徳田千恵子さん
「お店ね、辞めるんだったらね、もったいないから自分でやってみたいって言われたの。でも私ビックリした、全然違う仕事じゃないですか~。薬局!で、薬剤師でしょ?あなたさ、全然違うじゃないですか、焼き鳥よ!焼き鳥とお薬扱うのとじゃ全然違いますよね。考えらんないよね、普通さ~。だから、ホントにやるのかな?とか思ってビックリしましたよ。
でもね、色々話聞いてると、ホントにやる気なんだなと思ってね。そんなんだったらね、やっぱりさ、誰かやって下さる方いればね、嬉しいじゃないですか。12月の7日に開店なさったのよ、だからそれまで、もうずっと教えてあげて。若いだけあってね、やっぱりね、覚えが早い!腕がいい!もう焼くのだってバッチリだよ、ちゃっちゃとやって。もう跡取ってもらって良かったなぁ~感謝しかないね。」
お客さんからも、辞めないでと連日言われていたこともあり、この全く畑違いの若者のに挑戦に乗ることにしたのです。
徳田千恵子さんと蛯原崇晶さんを紹介する東京新聞紙面
10月でいったんお店を閉めて、そこからリニューアルオープンの12月7日まで猛特訓!ご本人はまだまだ、と言っていましたが、師匠は器用でスジがいい!と。
徳田さんは、今、週に3回、最低でも2時間。仕込みから接客までスタッフとして働いていますが、薬局の人繰りで蛯原さんが薬剤師に戻るときには遅くまで焼いています。
後継者がいなくて、お店をたたむと決めた時には本当に寂しかったから、とても嬉しい!と、ハツラツと店で300本近い焼き鳥を串打ちして焼いていました。
後継者不足で消えるお店を残すために、選択肢を増やせれば!
実は蛯原さんは、過去に自分で薬局を作った時に、働き手を集めるのに非常に苦労したその経験から、現在は、人手不足の薬局に薬剤師を紹介する会社も営んでおり、働き手や後継者などの、担い手不足、という問題に関心がある、と話していました。再び蛯原さんのお話です。
持ち帰り焼き鳥店「やきとり日和」店主 蛯原崇晶さん
「こういう個人店に関しては、後継者不足というのはホントにリアルな、この近所でも、そうなっていくんだろうなみたいなお店とか、すでに閉じましたってお店がホントたくさんあって、若い人たちが新しくチャレンジできるフィールド、仕事がたくさんあって、でもそれを知る機会が無いので、知ってもらう場を作っていくのが、まずは第一歩なのかなって。
この瞬間も、今も、たぶんどっかでそういうお店って絶対あると思うんで、なんとか止められ・・止められるっていうか、まあ、こういう体験とかを広めたりして、ちょっと俺もやってみようかな、私もやってみようかなみたいな人が増えてきたらいいなとは思います。
そうですね、誰だお前って感じだとは思うけど、なんていうんすかね、やっぱり職人技っていうか、ずっとやられてる方ってなかなかやっぱり、逆にそういう受け入れが難しい部分ってあるのかなと思うので、生かす道はそれだけでは無いのかな、とは思うんですけども、(店が)消えてきた現状がやっぱりあるので、ちょっと選択肢を増やしていった方がいいのかな、って思います。」
もちろん、美味しくて大好きなお店を残したい、と思った。でも、こうした職人技のようなものは、文化でもあるので、やはり少しでも今後に残せるための何かしらのヒントになれば、とも考えているようでした。
蛯原さんは、焼き鳥店主として初めての夏を迎え、もんのすごく暑いんですよ!でも僕、薬剤師なのでその知識を活かして、スタッフの熱中症対策はバッチリです、と。
薬剤師の時とは全く違う新しい楽しみもありつつ、しかし、薬剤師の知識も活かしたお店作りができているんです。
従来とは違うかたちの後継者を受け入れるのは簡単じゃないかもしれませんが、せっかくの技術や文化を消さないためにも、選択肢が増えるのはいいことですよね。
持ち帰り焼き肉店「やきとり日和」
江東区大島5-5-8 営業時間は午後2時~7時 定休日は水曜日と第1、3日曜日です。
取材のあとで焼き鳥いただきました。すごく美味しかったです!
(TBSラジオ『森本毅郎スタンバイ』取材・レポート:近堂かおり)