発達障がいの子どもたちに金メダルを!『Brave SC』が目指す“できる”を増やすサッカー療育
東京都町田市を中心に活動する、発達障がいを持つ子どもたちに向けたサッカー療育スクール『Brave SC(ブレイブSC)』。ここでは一般的なサッカースクールとは一線を画し、単なる技術指導ではなく、子どもたちの 自己肯定感を育みコミュニケーション能力や社会性を伸ばすことを目的にしています。
「子どもたちが“できない”ことを指摘するのではなく、“できる”ことを見つける。そこから、サッカーを通じて成功体験を積み重ねていく。」と話すのは、『Brave SC』のスタッフたち。
発達障がいの子どもたちは、一般的なスポーツスクールでは環境に適応しにくかったり、集団活動に苦手意識を持ってしまうことが少なくありません。『Brave SC』はそんな彼らがのびのびと成長できる場をつくることを、最大のミッションとして活動しています。
今回は『Brave SC』の活動を現地取材し、参加する子どもたちや保護者、そして運営・指導するスタッフの皆さんにお話を伺いました。
現地レポート:“できた”を積み重ねる指導メソッド
『Brave SC』では、子どもたちへの中で“成功体験”を意識的に増やす ことを大切にしています。プレーが上手くできなくても「チャレンジしたこと」自体を評価し、子どもたちの自信につなげていくスタイルです。
そのために、目標を子どもたちが自分で掲げることをサポートしたり、子どもたちが自分なりのチャレンジをしたときにはグリーンカードで承認したりしています。
まず最初は今日の目標を考えることからスタートします
子どもたちが自分でホワイトボードに今日の目標を書いていきます
子どもたちの挑戦を讃えるグリーンカードは子どもたちにも大人気
また、 『ライフキネティック』(脳機能を向上させるトレーニング)を取り入れたウォーミングアップも実施しています。動きながら判断する能力を養うことで、日常生活の中での集中力や創造性向上にも効果を発揮しています。
もちろん、機械的に進める練習ではなく、どんなときでも1人ひとりの子どもたちに合わせてコミュニケーションを取りながら進めていきます。
ライフキネティックを取り入れたウォーミングアップは毎回盛り上がります
子どもたちに合わせた関わり方だから安心して進めていけます
さらに、 保護者の方とコーチの二人三脚 で子どもたちの成長をサポートする仕組みも特徴的です。コーチと保護者がノートや実際のコミュニケーションを通じて情報共有を行い、家庭とスクールの両面から子どもたちの成長を支えています。
練習の最後には子どもたちと目標に対する振り返りも実施し、今日のチャレンジを次に活かして成長につなげていく仕組みにも目を見張るものがありました。
活動を見ながら気づいたことをノートにメモする保護者のみなさん
活動の最後には、スタート前に立てた目標を子どもたちと一緒に振り返ります
ずっと続けたら、今の自分が過去の自分に勝ってたし、未来の自分にも勝てる気がする
練習後に、参加していた子どもたちや保護者にもお話しを伺いました。この『Brave SC』に参加するようになり、どのような変化があったのでしょうか?
1人目は、小学6年生のりひとくん(以下、りひと)です。
ーー『Brave SC』でサッカーを始めて4ヶ月って聞いたけど、りひとくんはどんなことが楽しくて通っているの?
りひと)なんか、ずっとやり続けたら、過去よりも今の方がうまくなってるって感じがしていて。
ーー最初は緊張とかはなかったの?
りひと)最初は緊張してた。でも「やるしかない」って思って。本気でやってみたら、ゲームで勝つことが増えてきて、やる気もどんどん上がった。
仲間と協力する方が楽しいって気づいたんだよね。
ーーそうなんだ!どんなときに仲間と協力できてるなって思うのかな?
りひと)パスが繋がったときかな。最初は繋がらなかったんだけど、練習しているうちにできるようになってきて。
最近は「この気持ちを持って練習を続けていたら、未来の自分にもきっと勝てるんじゃないか」って思えるようになった。
ーー成長を感じられているからそう感じられるんだね!
楽しそうに目標を書いて説明してくれるりひとくん
続けることで「楽しさ」や「成長」を感じる。これはどんな習い事やスポーツでも共通することかもしれません。でも、「過去の自分より今の自分の方が強い」 と自信を持って言えることは、りひとくんにとって大きな変化だったようです。
親も一緒に学べる環境
2人目は、りひとくんのお母さん(以下、お母さん)にお話しを伺いました。
ーーお母さんから見て、サッカーを始めてりひとくんに変化はありましたか?
お母さん)すごくありますね。もともと1人でいるのが好きで、クラスでもあまり自分から話すことはなかったんです。でも、最近は挨拶をしたり、人と話そうとする姿が増えてきました。
ーーそれはすごい変化ですね!
お母さん)そうなんです。「おはよう」や「すみません」など、自分から声をかけるようになったんですよ。クラスの先生やほかの保護者の方からも、「最近りひとくんが話しかけてくれるようになった」って言われて。
サッカーって、仲間と関わらないとできないスポーツですよね。コーチの指導も「できないこと」を指摘するんじゃなくて、「できたこと」を認めるスタイルなので、本人もすごく自信を持てるようになったんだと思います。
ーーお母さん自身も、何か学ぶことがありましたか?
お母さん)すごくあります!ここに来ると、「こういう接し方があるんだ」とか、「こういう風に認めてあげればいいんだ」など、親としての気づきが本当に多いんです。
例えば、うちの子は集中力が続かないこともあるんですが、コーチたちはそれを否定せずに「じゃあ次はこうしよう」と対応してくれます。その姿勢を見て、私も「もっと試行錯誤していいんだ」と思えるようになりました。
ーーお母さんから見て、このスクールの魅力は何でしょうか?
お母さん)発達障がいのある子どもを育てている親にとって、“子どもが自信を持てる場所”があることは本当に大きいです。
発達障がいのある子って、どうしても“できないこと”に目が向けられがちです。でも、ここでは“できたこと”を積み重ねてくれるから、息子はもちろん、私自身も「この子にはできることがたくさんあるんだ」と気づけるようになりました。
このスクールが教えてくれたこと──集中力、我慢、そして成長
3人目は、小学3年生のこうたくんのお父さん(以下、お父さん)です。
ーー通い始めたころと比べて、こうたくんが変わったのはどんなところですか?
お父さん)最初は集中が続かなくて、途中で気持ちが切れてしまうことが多かったです。でも、サッカーの練習って流れが決まっているじゃないですか。ウォーミングアップをして、シュート練習をして、試合をして・・・。その流れの中で、少しずつ集中できる時間が伸びてきました。
ーー今日は途中で帰りたくなってしまったみたいですね。
お父さん)はい。でも、最後までやり切りました。前だったら途中でやめてたかもしれませんが、今は切り替えができるようになった。少しずつですが、成長しているのを感じます。
ーー家や学校での生活にも変化はありましたか?
お父さん)以前は「やりたくない」と言ったら、もう動かなかったんです。でも、最近は「あと5分だけ頑張ろう」とか、「ここまでやったら好きなことしていいよ」というと納得するようになってきました。
Brave SCでは、コーチが「今日はシュートを決めよう」というように、その子に合った目標を立ててくれるんです。それが本人の中でも、「ここまでやる」という意識につながっている のかもしれません。
ーー通い始める前、お父さんはどう思っていましたか?
お父さん)正直、発達障がいのある子どもたちがサッカークラブに集まったら、どんな雰囲気になるんだろう?と少し心配な気持ちもありました。でも、ここでは 子どもが楽しめる環境をしっかり作ってくれている んです。
コーチたちは、子ども1人ひとりに合わせた関わり方をしてくれます。うちの子も途中で「帰りたい」ってなることがあるんですけど、無理に押し付けるのではなく、タイミングを見ながら声をかけてくれるんです。
ーーそれが、こうたくんが続けられる理由なんですね。
お父さん)もし普通のクラブだったら、もうとっくにやめてたと思います(笑)。ここは 子どもが安心してチャレンジできる場所なんですよね。
活動が終わったあとに振り返りをして改善点を考えるスタッフみなさん
「やりたいけど、できない」をなくしたい
すべての活動終了後に当日に参加していたスタッフのみなさんに集まっていただき、『Brave SC』を立ち上げたきっかけなどについて、堂雅美さん(以下、堂)、岡田竜一さん(以下、岡田)にお話しを伺いました。
ーー本日はありがとうございました!子どもたちだけでなく、保護者の方たちもとても楽しみに参加されていたことに驚きました。この Brave SCを立ち上げたきっかけを教えていただけますか?
岡田)僕はもともとサッカーをやっていたのですが、指導する中で、発達障がいのある子どもたちが 「やりたいのにできない」 という状況をたくさん見てきました。チームに入ったものの馴染めなかったり、特性が理解されずに伸ばしてもらえなかったり。それなら、僕ら自身が発達障がいの特性を学び、子どもたちが安心してプレーできる場を作ろうと思ったのが始まりです。
堂)『Brave SC』の母体団体であるAuniversity(エイユニバーシティー)の理念は、「人生の金メダルを取る」 こと。競技の世界では1位しか金メダルを取れないけど、人生においては 誰もが自分の個性を生かして金メダルを取ることができる。そんな環境を作るために、このスクールを立ち上げました。
ーーそのような理念を持ちながら、指導する上で大切にしていることは何でしょうか?
岡田)子どもたちの個性を無理に変えようとしないことですね。「この子にはこの関わり方がいい」という正解はなく、子どもたちと向き合いながら、どうすればその子が 自信を持ってプレーできるか を考え続けています。
堂)たとえば、私たちは 子どもたちの特性をラベリングしない ことを徹底しています。「発達障がいだからこのやり方がいい」と決めつけるのではなく、その子自身の個性を見て、何が必要かを探る。それが、私たちが目指す指導のあり方です。
ーー保護者の方からも、スクールの環境が素晴らしいと聞きました。
堂)保護者の方々との関わりも、スクールの大事な一部だと思っています。以前、保護者の方との懇親会を開いた際、「確固たるビジョンがあるからこそブレない指導ができて、親も子も惹きつけられるんだなとあらためて納得しました」というお声をいただいて、本当に嬉しかったです。
岡田)子育ての中で、発達障がいのある子どもへの接し方に悩むことは多いですよね。でも、ここでは 指導者も試行錯誤しながら学んでいる。その姿を見て、「親も完璧でなくていいんだ」「一緒に学んでいけばいいんだ」と思ってもらえたら嬉しいです。
ーーその姿が、きっと子どもたちにも保護者にも伝わっているのですね。最後に、『Brave SC』の今後について教えてください。
岡田)今は小学生向けのスクールですが、中学生の受け皿も作っていきたいですね。成長とともに、通える場所がなくなってしまうのは大きな課題です。「サッカーを続けたい」と思った時に、それを叶えられる環境を用意したいです。
堂)それと同時に、私たちがやっていることをもっと社会に発信していきたい。このスクールだけでなく、どこにいても子どもたちが自分の個性を生かして生きやすい社会にするために、発達障がいの理解を広げる活動もしていきたいと思っています。
ーー本日は取材へのご協力ありがとうございました!『Brave SC』のこれからの活動を応援しています!
今回取材させていただいたスタッフの(左から)植木さん、岡田さん、大野さん、堂さん、水野さん
<取材後記>
今回の取材を通じて、Brave SCが単なるサッカースクールではなく、子どもたちの”できる”を増やし、自信を育む場であることを強く感じました。指導者たちの温かく柔軟な関わり、保護者の方々の学びと成長、そして子どもたちの前向きな変化が、ここには確かにあります。
「やりたいけど、できない」をなくし、誰もが自分らしく輝ける環境を作る。Brave SCの取り組みが、スポーツを通じた社会の在り方を変えていく可能性を秘めていると感じました。
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写真提供:特定非営利活動法人Auniversity