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「居場所をみつける」ことは「自分を知る」こと。29年、向き合った孤独と自分|arca・辻愛沙子

求人ボックスジャーナル

「居場所をみつける」ことは「自分を知る」こと。29年、向き合った孤独と自分|arca・辻愛沙子【求人ボックスジャーナル】はたらき方やキャリアを考える機会を創出するメディア

「社会課題をクリエイティブで解決する」の信念で、広告や商品プロデュースなどを通してさまざまなプロジェクトを展開する株式会社arca(アルカ)。代表取締役である辻愛沙子さんは、自身もクリエイティブディレクターとして作り手を担うほか、2019年秋から2024年3月まで報道番組「news zero」にて水曜パートナーを務めるなど、発信者としても活躍しています。今回は、領域を越えてさまざまな場所で仕事を手がける辻さんに、「自分に合った居場所の見つけ方」についてお話を伺いました。

理想を1か所に求めない。複数の居場所がヘルシーな自分を保ってくれる

Q. 辻さんには今、「ここが自分の居場所だ」と思える場所はありますか?

ありがたいことに、たくさんあります。私は、自分の居場所としての理想をひとつの場所やひとりの人だけに求めないことを大切にしていて、居場所が複数あることが自分にとってヘルシーなあり方なんです。小説家・平野啓一郎さんが提唱されている「分人主義」に近いかもしれません。本当の自分がひとつだけ存在するのではなく、会社のメンバー、家族やパートナー、社会課題について語らえる友人、一緒に趣味に没頭できる友人……。それぞれに対し、無理なく自分がありのままでいられる。そこが私の大切にしている居場所です。

とはいえ、私はそこにいる人たちと必ずしもすべての考えが合致しなくてもいいと思うんです。相手に対し完璧を求めると、理想と違う部分が目立って、嫌になってしまう。すべてではなくても、何かひとつ共通項があれば、自然と気持ちをわかちあえると思うんです。

例えば趣味の集まりでは、政治についての考えが違う人とも楽しく盛り上がれる。そうやって仲が深まった後に政治の話題になって、「私たちまったく考え方が違うね!」と意見交換して発見を得られることもあります。複数の居場所があると、そういった自分と異なる視点も知れる瞬間があっていいなと思ったりします。

「居場所がない」と感じていた10代。ヒントは、自分の深部にあった

Q. なぜそんなに多くの居場所をみつけられたのでしょうか?

自分自身の好きなことや価値観、大切にしたいものを深く理解した時間が、居場所を探す道しるべになってくれた からだと思います。

実は、10代のころは「自分の居場所はどこなんだ」と不安に感じていた期間が長かったんです。友人はいたし、周囲に受け入れてもらっている感覚もあった。でもどこかいつも呼吸がしづらくて、水を得た魚のように自分が生き生きと過ごせる場所がきっとこの世界のどこかにあるんだと、“ここじゃないどこか”をずっと探している感じがありました。

生きやすい場所を求めて、自分と同じ属性を持つ人を探していたというか。趣味が同じ人、社会に対しての違和感が近い人、私と同じくADHDの特性を持つ人。でも今思い返してみると、そうやって自分以外の誰かを探すよりも、まずは自分が自分のことをよく理解してあげることが結果的に心地のいい居場所に出会えるヒントだったような気がします。

自分はどう感じていて、何に喜びを感じ、何に困っていて、何を求めているのか。自分の深部を理解することで、自分自身のことをより伝えられるようになって理解してもらえることも増えました。対話ができるようになってより親密な関係も築けるようにもなりました。人に受け入れてもらえた経験が増えていくうちに自分も周りを受け入れられるようになり、今経営しているarcaのように、自分で居場所を作れるようにもなりました。

自分を知るということは、 必ずしも「私はこんな人間!」って答えを確定させて主張することだけじゃない と思っていて。他者を知ることで、共感する部分や違いを感じる部分からまた自分を知っていくこと、そしてその都度自分に問い直して、変化を許容しながら自分への理解をアップデートしていく時間が、私を自分に合った居場所に連れていってくれる。ずっとその繰り返しです。変わりうることや、他者との違いを恐れない柔らかさをもつことが大事かなと思っています。

Q. 自分のアップデートという大きな変革。それを続ける辻さんのモチベーションはどこからきていますか?

「当たり前とされてきたものを問い直したい」という感覚が常にあって。自分がずっと「それはそういうものだ」と思ってやってきたことも、問われてみると「確かにおかしいかも」「答えはひとつじゃないかも」と納得して考え直す場面がよくあります。すると、まだみえていなかった別の生き方や価値観がみえてきて、新しい視点を獲得できる。それが楽しいんです。

すべての場で問い直しに頭をフル回転させ続けると疲れてしまうし、対話する相手がいる場合は相手の考えるペースやプロセスもあるので、ブレーキをかけることはあります。昔はアクセルばかり踏んでしまっていましたが、最近は自分も相手もしんどくないように、ブレーキとアクセルを切り替えられるようになってきました。

人って対話しやすいフォーマットが異なるので、相手によってテキストでのやりとりに変えてみたり、その場でのラリーではなく一度ボールを渡して時間を置いてみる文通的なコミュニケーションを試してみたりと工夫をすることもあります。自分自身のアップデートだけでなく、 居場所となってくれている相手のこともどんどん理解を深めて一緒にアップデートしていくことが一つの喜びですね 。

「探しに行く」のではなく、「作る」選択肢だってある

Q. 自分とも他者とも理解を深め合っている辻さんですが、日々のなかで孤独を感じるときはありますか?

え、超感じますよ!特に「わかってもらえないさみしさ」「自分と近しい人がいないさみしさ」が、私にとっての孤独感かなと思います。

「当事者にしかわからない痛み」が私はあると思っていて。特性や病気に限らず、例えば介護や子育てなどからくる心の大変さ、生理痛や気圧変化による体調のつらさ、みんなそれぞれ何か痛みを抱えて生きている。その痛みがありのまま伝わらないのって本当につらいことで、孤独を感じる瞬間じゃないかなと思うんです。まわりが理解を示してくれているのに、それでも孤独を感じてしまう自分を責めてしまうことすらあります。

私の場合はADHDという特性もそのひとつですし、自分のアイデンティティについても孤独を感じることがあります。

例えば私の生まれは日本ですが、中学生のときに海外に教育を受けに行って、大学で日本に戻ってきました。日本のトラディショナルな価値観に対して、この点は自分と合わないなと感じたり息苦しくなったりすることが時々あるんです。一方で、自分の中の日本的な部分を感じることも少なからずあるし、ずっと海外だけで過ごしてきた子たちとも完全に分かち合うことはできない。

挙げればキリがないのですが…(笑)ほかにも、実は幼少期からの右耳難聴を患っていて、全く聴力がない方のような不自由さを感じている訳ではないけれど、両耳が聴こえていることが前提である社会の中では多少苦労することもあったりします。

そういったさまざまな側面で自分はどっちにも属せず分かち合えず、常にグラデーションの間(あわい・空間的・時間的・関係的な隔たりや結びつきがある状態)にいる感覚がありました。そういったものを全部統合して「ずっとどこにも属せない自分」を感じていて、どれだけ他者に受け入れてもらっていても孤独感があったのかなと。

でも、独立して自分で会社を経営するようになって、居場所は自分で作っていくことができるものなんだと思えるようになったんです。最近も、会社のメンバーが集まっている様子をみて思いました。こんなにも素敵で多様な人たちが集まっていて、私は本当に人に恵まれているなと。その感謝と同時に、「そんな素敵な人たちが、ここを居場所にしようと思える場所を、私は作ってきたんだな」という自信にも繋がったんです。

今でもまだ不安や孤独を感じることはゼロではないし、揺らぎながら迷いながら手探りで進んでいる感覚もあります。それでも、自分の孤独をなくそうと焦らずに、むしろそれすらも自分らしさの一部なのだと捉えて孤独と共に生きていく。そうしているうちに、気づけばそんな自分が誰かの居場所になれている瞬間が訪れたり、それにまた自分が励まされたりする、その循環なんだなと日々感じてます。

すでに存在する場所や人を居場所とするべく、外を探しに行くのも確かにひとつの選択肢だと思います。でも、 自分を大切にして自分の内側を深く知る時間を長くとったほうが、結果的に自分に合った居場所に出会えるかもしれない 。見つからなければ自分の手で新しく作ることだってできる。今はそう思っています。

プロフィール

辻 愛沙子(つじ あさこ)

株式会社arca CEO / Creative Director
社会派クリエイティブを掲げ、「思想と社会性のある事業作り」と「世界観に拘る作品作り」の二つを軸として広告から商品プロデュースまで領域を問わず手がける越境クリエイター。リアルイベント、商品企画、ブランドプロデュースまで、幅広いジャンルでクリエイティブディレクションを手がける。2019年春、女性のエンパワメントやヘルスケアをテーマとした「Ladyknows」プロジェクトを発足。2019年秋より2024年3月まで、報道番組「news zero」にて水曜パートナーをレギュラーで務める。多方面にわたって、作り手と発信者の両軸で社会課題へのアプローチに挑戦している。

取材・文:山口真央
撮影:fort 岩田慶
編集:求人ボックスジャーナル編集部

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