非公式かつ非紳士的!実在した「対ナチス部隊」とは?戦争映画にマカロニ音楽がハマる『アンジェントルメン』
ガイ・リッチー監督最新作ついに日本上陸
長編デビュー作『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998年)から近作『オペレーション・フォーチュン』(2023年)に至るまで、ガイ・リッチー監督作品と言えば、タフでヤンチャな男たちが入り組んだ物語の中でジョークを交わしながら騒動を繰り広げるのが特徴だった。
しかし、近年はフランス映画のリメイク『キャッシュトラック』(2021年)と、米軍兵士とアフガン人通訳の絆を描いた『コヴェナント/約束の救出』(2023年)の2本のシリアス作品で高い評価を受け、映像作家としての円熟期を迎えた感がある。
そんなリッチー監督の待望の新作『アンジェントルメン』が4月4日(金)から日本公開となる。ちなみにこれは邦題であり、彼が以前撮ったクライムコメディ『ジェントルメン』(2019年)とは全く関係がないので念のため。
1980年代アクション映画の精神を受け継ぐ痛快作
第二次世界大戦中の1942年。ナチス・ドイツ軍の猛攻により英国は窮地に追い込まれていた。事態を打開するため、チャーチル首相は「英国軍にもドイツ軍にも見つかることなく、北大西洋上のUボートを無力化する」という非公式の作戦<オペレーション・ポストマスター>を発動。反抗的だが優れた軍人でもあるガス・マーチ=フィリップス少佐が特殊部隊のリーダーに抜擢される。ガスは気心の知れたタフな仲間たちを部隊に引き入れ、彼らと別行動をとる特殊作戦執行部のチームと連携し、Uボート艦隊の補給を担うイタリア船<ドゥケッサ・ダオスタ号>の破壊に向かう。
映画の冒頭で示されるように、本作は2016年に開示されたチャーチル首相の機密ファイルを情報源とする実話に基づいた物語である。「実話ベースの戦争映画」と聞くと、困難な任務に挑んだ軍人たちの悲壮な戦いが描かれているのかと思ってしまうが、架空の人物の創作など史実に大胆な脚色が加えられており、シリアス一辺倒な内容ではない。
そして本作の原題である“非紳士的な戦争省(The Ministry of Ungentlemanly Warfare)”の面々は、「ナチスを狩りまくれと言われたらタダでも喜んでやるぜ」と言わんばかりに嬉々として敵地に乗り込んでいく。彼らが強すぎて敵のナチス兵士がただのカカシと化すので、特殊部隊がピンチに陥る気がしない。だがそれがいい。
本作には『エクスペンダブルズ』シリーズや1980年代の筋肉アクション映画のような「強靱な肉体と不屈の精神で難関突破!」というストレートな爽快感がある。そこにリッチーのテンポのよい演出と、製作を手掛けたジェリー・ブラッカイマー印の派手な爆発シーンが加わって、スタイリッシュで痛快なミリタリーアクション作品に仕上がっているからだ。
アラン・リッチソンに注目! クセ者揃いの“非紳士的な戦争省”の仲間たち
リッチー作品らしく、“非紳士的な戦争省”のメンバーはなかなかのクセ者揃い。不遜な態度で軍上層部には不人気だが、仲間思いで腕が立つという格好よすぎるチームリーダーのガス(ヘンリー・カヴィル)を筆頭に、クールな船乗りヘイズ(ヒーロー・ファインズ・ティフィン)、潜水工作員で爆破のプロでもあるフレディ(ヘンリー・ゴールディング)、電気ショック拷問などものともしない武闘派計略家アップルヤード(アレックス・ペティファー)、ナチス指揮官を誘惑するためジャズ・スタンダードの「マック・ザ・ナイフ」を大熱唱するマージョリー(エイザ・ゴンザレス)、裏ビジネスを通してナチス高官に顔が利くRH(バブス・オルサンモクン)、英国名門私立校卒の武器商人KB(ダニー・サパーニ)など個性的なキャラが続々登場。
その中でも特に強烈な存在感を放っているのが、ドラマシリーズ『ジャック・リーチャー ~正義のアウトロー~』(2022年~)でおなじみ筋肉モリモリ・マッチョマンの巨漢俳優、アラン・リッチソンが演じる“デンマーク人の怪力男”ラッセンである。
スーパーマン俳優のカヴィルすらも凌駕する規格外の巨体が画面に登場しただけで笑ってしまうのだが、劇中では弓矢、ボウイナイフ、斧を使いこなしてナチス兵士を狩りまくり、ほかのメンバーの活躍が霞んでしまうほどの大立ち回りを見せてくれる。『ジャック・リーチャー』の視聴者はもちろん、『コマンドー』(1985年)をこよなく愛する方は、“リッチソン無双”のためだけでも本作を見る価値があるかもしれない。
戦争映画にマカロニ・ウエスタン音楽!? これが意外と合うんです
映画が始まって早々、マカロニ・ウエスタン調の劇伴が流れて意外に思われる方も多いかもしれない。あるいは『イングロリアス・バスターズ』(2009年)のように「リッチーもエンニオ・モリコーネの既製曲を使ったのか?」と思われる方もいるかもしれない。しかし、この劇伴は英国出身の作曲家クリストファー・ベンステッドが書き下ろしたオリジナルの楽曲であり、これこそが本作を型破りな戦争映画たらしめている要素のひとつでもある。
ベンステッドは『ジェントルメン』以降の全てのリッチー監督作で劇伴の作曲を手掛けている気鋭の音楽家(両者の初コラボは2019年の『アラジン』)。『ゼロ・グラビティ』(2013年)ではミュージック・エディターとしてアカデミー録音賞を受賞している。またチェロなど様々な楽器を弾きこなすマルチミュージシャンでもあり、本作ではギターと口笛の演奏を担当している。重厚なコーラスやパーカッション、オルガンなどを用いたマカロニ・ウエスタン調の劇伴はインパクト十分。映画を見終わったあと、しばらく頭から離れないメインテーマの哀愁の旋律が素晴らしい。
一方、本作の劇伴ではジャズの要素も取り入れられている。なぜジャズなのか? それはガスがジェームズ・ボンドのモデルとなった人物とされていることや、特殊作戦執行部がMI6の前身となる組織とも言われていること、そして劇中でのイアン・フレミングの登場など、本作の内容が『007』と繋がっていることに関係がありそうだ。もしかしたら本作のジャズ楽曲は、『007』シリーズや『国際諜報局』(1964年)などの音楽を担当したジョン・バリーへのオマージュなのかもしれない。
また、ベンステッドが本作で「マカロニ・ウエスタンとジャズ」という異なるタイプの劇伴を組み合わせたのは、「特殊部隊のミリタリーアクション」と「潜入工作員のスパイスリラー」が同時進行する構成を音楽的に表現したものとも考えられる。趣向を凝らした劇伴にもぜひ注目して頂きたい。
『アンジェントルメン』は4月4日(金) より全国公開