池松壮亮「2人に倒されたかった(笑)」髙石あかり&伊澤彩織との対決秘話『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』インタビュー
池松壮亮×髙石あかり×伊澤彩織『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』
2021年に産声を上げたアクション映画『ベイビーわるきゅーれ』。女子高生の殺し屋コンビが卒業後にルームシェアをはじめ、慣れない社会生活に苦労するという斬新な設定で人気に火が付き、2023年には続編『ベイビーわるきゅーれ 2ベイビー』が公開。そして今年、映画第3作・連続ドラマ・ドキュメンタリーの3本が一気にリリースされる。
しかも、映画第3弾『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』には池松壮亮が最強の敵、前田敦子が先輩殺し屋として出演。おなじみのメンバーはそのままにスケールアップを果たし、宮崎に出張した、ちさと(髙石あかり)&まひろ(伊澤彩織)が一大バトルを繰り広げる。
シリーズ最高傑作といっても過言ではない本作の裏話を、髙石あかり、伊澤彩織、池松壮亮の3人に語っていただいた。
ファンの二次創作に感じた、ベビわる熱の高さ
―池松さんは「ジャンル映画が好き」と以前仰っていましたが、『ベイビーわるきゅーれ』シリーズのどういった部分に魅力を感じていたのでしょう。
池松:『1』、『2』と拝見してきて、アクションは今この国で最高峰だと思いますし、シリーズを追うごとにさらにレベルアップしていると感じます。阪元さん(阪元裕吾監督)の専門性と才能あふれるスタッフ、映画の捉え方が広く、ジャンルを入り口に様々なボーダーを超えていく今作に魅了されました。主人公2人がとても魅力的で、脇役も魅力的で、喜びと驚きがあって、現代の手本のような映画だと思いました。愛情深く好奇心を持って危険を冒し、面白さを更新していくこのチームに非常に興味がわきました。
―髙石さんと伊澤さんはこの3~4年で人気の拡大をどんな時に実感されましたか?
髙石:「ベビ絵」に代表されるような絵や漫画、小説といった二次創作をお客さんが楽しんで想像して作って下さっていることです。ベビ絵に関しては本当にとてつもない量で、どんどん新しいものが更新されています。
伊澤:私は映画の二次創作で絵を描く、という動きをあまり知らなくて、アニメのような感覚で楽しんでくれているのかもしれないと感じました。多くの方が、私たち二人の絵を描きたいと思ってくれていることがとても嬉しいです。そうしたファンの方々の熱を受けて、『ベイビーわるきゅーれ2ベイビー』では公式でベビ絵を募集し、優秀作品がパンフレットに掲載されるキャンペーンを行いました。
髙石:ファンの方がTシャツを作って下さったり、コスプレの熱量もすごくて。『ナイスデイズ』なんて、写真を1枚解禁しただけで同じ衣装を探して、買いそろえて下さった方もいらっしゃると聞きました。
伊澤:「宮崎で撮っています」という情報が出たとき、「多分ここが撮影地になるだろう」と予想されている方もいました。
髙石:私たちが想像しえないところにまで『ベイビーわるきゅーれ』が行った感はあります。
いま「やれ」と言われても絶対に出来ないアクション
―9月4日からは連続ドラマ『ベイビーわるきゅーれ エブリデイ!』が放送され、10月4日からは『ドキュメンタリー オブ ベイビーわるきゅーれ』も上映されるなど、どんどん拡張していますよね。そして『ナイスデイズ』は前2作と比べてシリアス味がグッと増して、また新たな領域に向かったように感じます。
髙石:私も脚本をいただいて最初のシーンのちさととまひろを読んだとき、今までとちょっと違う気がしました。元々は『2』と『3』は一緒に撮る予定でしたが、時期がズレて別々になったという流れがあります。その後にいただいた脚本は、物語も登場人物もガラッと変わっていて驚きました。
伊澤:阪元監督が「前2作でちさまひが全然仕事をしていないから、次はちゃんと殺し屋のお仕事をする話にします」とおっしゃっていました。1も2も結局は私怨で、働きぶりを見せられていないんです。それを受けて、アクション監督の園村健介さんと「2作目はコメディ寄りだったから、次はシリアスな命の取り合いにしたい」と話していました。
髙石:『2ベイビー』で戦う殺し屋兄弟は憎めないキャラクターで、元々構想されていた第3作のキーキャラクターも、ものすごくいい人たちでした。新しく構築するにあたり、全く違う「何だこの人は!?」となるようなキャラクターを生み出したいと阪元監督は仰っていて、生まれたのが池松さん演じる<冬村かえで>でした。
池松:お話を頂き本を読ませてもらって、これまでの世界観を踏襲しつつ、一度シリーズの集大成的なるものを目指していると受け取りました。冬村かえでを生み出すことで、この世界をなんとしてもパワーアップさせたいと思いました。
―脚本というテキスト上だと、なかなかアクションの細部は想像しきれないかと思いますが、池松さんにとっては想定内でしたか?
池松:完全に想定外でした。実際にやると予想を遥かに超えて大変でした。よく2人はこれまでこんな戦いを続けてきたなと思い、早く倒してと思ってました(笑)。
―伊澤さんも「意味がわからないくらい戦った」とSNSでつぶやかれていましたね。
伊澤:いま「やれ」と言われても、絶対に出来ないと思います(笑)。
池松:できません(笑)。
伊澤:それくらいの極限状態にみんながいて、エネルギーを全部注いでなんとか身体がもってくれた、という感覚です。
髙石:本当にもっていたんですか? と言いたくなるくらいでした。
伊澤:ギリギリ、壊れる寸前でした(笑)。
髙石:序盤に県庁でのバトルシーンがありますが、池松さんをアクション部の方がマッサージしていたのが最終的に1人では足りず、5人がかりになっていました(笑)。本当に激しいアクションが続くので、痛みで寝られないというウワサも聞いていました。
伊澤彩織の記憶が飛ぶほど壮絶だったアクション撮影
―御三方のシーンとしては、県庁パートから撮影されたのでしょうか。
髙石:ちさまひに関してはバナナボートで、3人のシーンは県庁で初対面するところからでした。
伊澤:オープニングだけで、映画1本撮り終えたくらいの達成感がありました。あまりに激闘の時間すぎて、ところどころ記憶がありません(笑)。
―圧倒されるほどのスピード感と密度でした。階段から廊下に飛び移ったりと立体的な動きにも驚かされましたが、どうやって組み立てていかれたのでしょう。
伊澤:前2作に関してはアクション作りから参加させていただきましたが、今回は私は参加できず、園村さんが作って下さったものを練習していきました。園村さんが考案するアクションは一手一手に本当に意味があって、無駄が全くありません。無駄だと感じたものはどんどんそぎ落としていくため、アクションが言葉のようにコミュニケーションとして成り立つんです。逆に言うと、一手でも間違うと「もう一回」となるくらい緻密なので、実際にやるのは相当難しかったです。
髙石:試写を観たとき、すごすぎて笑っちゃいました(笑)。途中、伊澤さんが銃弾を避ける際に部屋に飛び込むシーンがありますが、人間の動きじゃない! と思ってしまって。
池松:あれ凄かったですね。
髙石:2人で最後に戦う際に、池松さんが途中で三角座りをしますが、あれもアクションの“手”ですか?
池松:そうです。
髙石:すごい……。すみません、熱くなっちゃいました(笑)。
伊澤:まひろが脳震盪を起こすとき、カメラも一緒に揺れて倒れるPOV演出も好きです。あれも“手”の一つとして園村さんが考えてくれました。『1』の時からそういったギミックを駆使していて、頭突きのシーンは逆再生で撮っています。細かい演出やお芝居の感情の流れを含めて、園村さんが作って下さいます。
池松壮亮が現場で感じた、ベビわる旋風の必然性
―池松さんは『宮本から君へ』のドラマ版でも園村さんとお仕事をされていますね。
池松:園村さんは真利子哲也監督作によく参加されていて、映画の方はスケジュールが合わなかったそうですが、ドラマではご一緒しました。『宮本から君へ』のドラマに関してはアクションはさほどなく、自転車でこけるくらいだったので、ちゃんとコラボレーションできたのは今回が初でした。2人がおっしゃるように、本当にちょっとすごかったです。園村さん以下、チームとしても素晴らしく、これだけ才能を持った人たちがいることに驚かされ、感動しました。
先ほど伊澤さんは「今回はアクション作りに参加していない」とおっしゃっていましたが、常に的確な対話があって変更していくことは多々あり、相当レベルの高いやり取りをされていました。きっと当の本人たちは、『ベイビーわるきゅーれ』というシリーズがいつの間にか大きくなっていったという感覚があると思いますが、今回中に入れさせてもらって「こんな人たちが団結して、愛情をこれでもかと注いでいて、そりゃこうなるよな」と深く納得させられました。
―本番と本番の合間にも、手を考え直して覚え直す必要があるわけですよね。ずっと動き続けた現場だったのではないでしょうか。
伊澤:カメラテストの時などはアクション部の方が動いて下さるので、合間は休憩しながらその動きを目で追うことで思い出していました。ただ、ラストシーンは休憩時間も短くて、死ぬかと思いました(笑)。撮影は去年の9月でしたが、宮崎はまだまだ暑い時期で汗だくで戦っていました。無事に撮り終えられたときには、本当に安心しました。
最強の敵・かえでは、ちさとに出会えなかったまひろ
―自分もそうですが、『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』のアクションが凄すぎて、そしてファン心理的にも何回も観たくなる人は多いのではないでしょうか。リピーター向けにコアな注目ポイントを教えていただけますか?
髙石:私は、喋っていないキャラクターが何をしているかを観てほしいです。実はめっちゃふざけていたり、話を聞いていなかったりしますから(笑)。『ベイビーわるきゅーれ』にはそういう持ち味があって、キャラクターたちの会話をあえて引きで映しているところがあります。一度観て内容を把握された方は、そういった部分にも注目していただけたら嬉しいです。また違った楽しみ方ができるはずです。
池松:アクションは変わらず見どころが多いかとは思いますが、やはりちさととまひろの月日を重ねたコンビネーションに尽きるかなと思います。これだけ魅力的なバディはそうそう生まれませんし、2人を見ていて奇跡的だと感じます。この2人が帰ってきて、宮崎でだらだらして暴れまくるというだけで5回はいけるのではないでしょうか。
髙石:その5回を10回にするためのコメントを、伊澤さんぜひ!
伊澤:(笑)。池松さんが言って下さったことを踏まえてですが、私たちは『2ベイビー』の兄弟も主人公だと思っていますし、『ナイスデイズ』は池松さん扮するかえでが主人公です。2人で1つの私たちと、絶対的に孤高の存在の対比――あり得ないくらい強いけれど、ものすごくピュアで心を強くあろうとしているかえでの人物像を池松さんが様々な表情で演じて下さって、そこに自分が加われたことが本当に嬉しかったです。
阪元監督に台本を渡されたとき、「かえでは、ちさとと出会わなかった世界線のまひろです」と言われました。核の部分は本当に似た者同士で、まひろはちさとに引っ張っていってもらって生きているところがあります。2人が重なるシーンとしてサンドバッグが登場しますが、共鳴できてうれしい気持ちがありました。衣装部さんがそうした裏設定を汲んで下さって、色違いの靴下を履かせてくれました。まひろとかえではファミリーマートの靴下を履いています。
髙石:「靴下を見てください!」であと2回はいけますね(笑)。
―髙石さんはドラマ『エブリデイ!』に際して「“もしも話”がずっと叶い続けている」とコメントされていましたね。
髙石:池松さんの出演は、もしも話を超えていました(笑)。まさか出演して下さるとは思いもしませんでしたし、前田敦子さんに関してもそうです。
『ベビわる』がこうやって続いていることが当たり前のような感じになっていますが、本当は決してそうじゃないと思っています。どんどん自分のものだけでなく、皆さんのものになっている感覚があります。
取材・文:SYO
撮影:町田千秋
『ベイビーわるきゅーれ ナイスデイズ』は2024年9月27日(金)より全国公開