過酷!「子どもの入院付き添い」 小児病棟に保育士などを配置しやすくする仕組み ついにスタート!
子どもが入院したときに多くの病院で求められる「親の付き添い入院」。今までは過酷な状況下におかれてきましたが、2024年6月に大きな前進がありました。なぜなら、国が定める医療費の仕組みである診療報酬が変わったからです。認定NPO法人キープ・ママ・スマイリングの理事長・光原ゆきさんに詳しく聞きました。 全3回の3回目。
子どもの入院付き添い 親の過酷な実態とは子どもが入院したときに多くの病院で求められる「親の付き添い入院」。しかし、付き添い入院でママやパパたちは「食べられない」「眠れない」「休めない」という過酷な状況下におかれてきました。しかし、2024年6月に、潮目が大きく変わる出来事がありました。国が定める医療費の仕組みである診療報酬が変わったのです。
具体的には、小児科の病棟に保育士を複数配置したり、夜間に子どもをケアするための看護助手を配置したりした場合、病院にプラスアルファの手当が支払われる仕組みが作られました。
自身の入院付き添いの経験から、入院している子どもとその家族を支える活動を続けてきた認定NPO法人キープ・ママ・スマイリングの理事長・光原ゆきさんは、全国の付き添い経験者の声を集めて国に届けてきました。連載最終回は、光原さんにこれからの入院付き添いについて語っていただきました。
(全3回の3回目。1回目を読む。2回目を読む)
光原ゆき
認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング理事長。1996年一橋大学卒業後、株式会社リクルートへ入社。先天性疾患を持つ娘を出産後、育児休暇中に亡くした経験から、2014年11月に現団体の設立、理事長に就任。病児と家族の応援の輪を広げるため、企業や学校、イベントなどで講演も多数行っている。
大人の何倍も手間がかかる子どもの治療
子どもの治療は、大人の治療よりも何倍も手間がかかります。注射や採血ひとつするにしても、赤ん坊をじっとさせておくことは困難なので、何人もの医師や看護師で行う必要があります。また、赤ちゃんであれば治療に加えてミルクやオムツなどの世話も必要になります。
それに対して、現状の仕組みでは、そのような手間に対して報酬を支払う 仕組みがありませんでした。赤ちゃんの患者でも、大人の患者でも、診療報酬から支払われる看護師などの人件費は基本的に変わらないからです。つまり、患者さんの年齢によって看護師さん1人が担当する患者さんの数は変わらないのです。
そのため、病院の人手不足を補うために、やむを得ずママやパパの付き添いを求めていたという現状があります。
画像提供:認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング(イラスト協力:ひいらぎ舎)
しかし、2024年6月から、やっと少しずつ改善される兆しが見えました。診療報酬制度の中で、子どものケアをする保育士や看護助手の配置に対して加算がつく仕組みができたからです。
金額としては決して大きくはありませんが、これは非常に画期的なことです。子どもにとって、そして、付き添う親にとっても必要であると考えて、国が真剣に動いてくれた証だからです。
入院付き添いの半数が自分も体調不良に
背景には、ママやパパが付き添い入院で過酷な生活を強いられている実態があります。私たちが実施した付き添い入院の実態調査でも、十分に食事や睡眠、休息が取れず、体調を崩すママやパパが多くいることが明らかになっていました。
例えば、付き添い入院している人のうち、約70%の人は3食食べることができていましたが、約25%は2食しか食べておらず、なかには一日1食の人が4.3%もいました。
3食食べない理由は、「食べる時間がない」「病院内で食べ物が手に入りにくい」が多くなっていましたが、「病室が飲食禁止のうえ、子どものそばを離れることができない」などの理由もありました。
「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」p.23より。 資料提供:認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング
夜間も子どもの世話や看護で眠れない日々
さらに、夜間に子どもの世話や看護をすることがあった人は9割以上、熟睡できなかった人は8割を超えていました。
そしてこのような過酷な生活で、約半数が付き添い入院中に体調を崩していました。
「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」p.35より。 資料提供:認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング
このリアルなママやパパの声を聞いて、このまま放っておくことはできないと強く感じました。 また、問題の根底には、保護者が看護業務を代わりに行わなければならないほど、小児医療の現場が過酷であるという現状があります。ですから、この点も含めて付き添い家族の実態を把握し、要望書を取りまとめて厚生労働省やこども家庭庁などに改善を訴えていったのです。
要望書には、「付き添い入院の実態と課題について病院側の調査を行うこと」「付き添いがどうあるべきかを関わるステイクホルダーが集まり話し合う検討会を開いてほしいこと」「付き添い家族の食事・睡眠・見守りについて改善してほしいこと」の3点を盛り込みました。
すると、私たちが想像もしていなかったようなスピードで国は要望を真摯に受け止め、対応してくれました。3つ目の要望に対して、診療報酬の中に保育士や看護助手の配置が認められるようになり、希望して付き添う家族への食事と睡眠の配慮についても手当が盛り込まれました。
もちろん、これは私たちの力ではありません。子どもの付き添い入院でつらい立場に置かれてきた、全国のママやパパが膨大な数のアンケート項目にも関わらず、忙しい中で回答し、フリーコメントを克明に記してくれた。その思いの力以外のなにものでもないのです。
家族にしかできない心のケアもある
さらに、8月には日本小児科学会が公式に「子どもと家族が共にいること」を権利としたうえで、「治療的観点からも有益」であり、「付き添いの有無を選べることが望ましい」という見解を出しました。これも、非常によろこばしいことです。なぜなら、私たちは付き添い入院が大変だからといって、付き添いをなくして欲しいと訴えているわけではないからです。
病気で体調が悪い子どもにとって、ママやパパが側にいて背中をさすったり、手を握ったりしているだけで、どれだけ心強いかしれません。どれほどの名医や優秀な看護師だって代わることができない、家族にしかできない心のケアはあるはずです。私たちは、親が付き添うことは、子どもの回復や成長や発達にとってとても重要なことだと考えています。
写真:アフロ
しかし、だからといって一緒にいる親が眠れない、食べられない、ほんの少しの休息さえ取れない中で耐えているというのもおかしな話です。付き添いの親の健康だって同じくらい大事ですし、家で待っているきょうだいだって親と過ごす権利があるはずだからです。
だからこそ、付き添いをなくすというのではなく、子どもと家族の状況に合わせて付き添うか付き添わないかを選べること。付き添う時は、親が健康を損なわず、経済的な不安も少なく、安心して付き添えること。もし付き添えない場合も、安心して医療者に任せられ、親子がいつでも触れ合える、そんな環境をみんなで作っていきたいと思うのです。
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今、小児医療は本当に厳しい状況になっています。ただでさえ医療の中でも採算が合わない分野にもかかわらず、子どもの数は減っているため患者数も減少していきます。すでに、地域によっては小児科病棟を閉鎖して、外来診療だけにしようという動きも出始めています。
このままだと「子どもの患者は、重症になったら隣の県の病院へ行ってください」などと言われることにだってなりかねません。地域の小児医療の灯火を消さないためにも、キープ・ママ・スマイリングのような子どもを真ん中に置いた活動を応援していきたいと思います。
取材・文/横井かずえ
【参考資料】
・認定NPO法人キープ・ママ・スマイリング「入院中の子どもに付き添う家族の生活実態調査2022」
・厚生労働省保険局医療課「令和6年度診療報酬改定」p.93