姿・形は超有名なのに生態は謎だらけ!<チョウチンアンコウ>についてわかっていること【私の好きなサカナたち】
Webメディア『サカナト』には様々な水生生物好きのライター(執筆者)が所属しています。そんなライターの皆さんが特に好きなサカナ・水生生物について自由闊達に語らう企画「私の好きなサカナたち」。今回はサカナトライター・ととげさんによる「私の好きなサカナたち」をお届けします。
深海界の中でも圧倒的知名度を誇るアイドルといえばチョウチンアンコウです。
しかし、人の手が届きづらい深海に生息しているため、詳しい生態を調べるのが困難という状態が続いており、チョウチンアンコウについて分かっていることは未だにとても少ないのです。
この魚は、「提灯(ちょうちん)」という単語が名前に付いている通り、頭上から伸びた竿の先にエサに見せかけたおとり(疑似餌)を光らせているのが特徴です。この疑似餌を使い、他のアンコウの仲間と同じように釣りの要領で獲物を捕えていると考えられています。
身体はかなり球体に近く、英語ではボールに似ていることから「フットボールフィッシュ」と呼ばれています。
身体の表面に30から50ほどの棘を備えた骨板を持っているため、とげとげしていて滑らかな球体というわけではありません。成長すれば体長60センチほどになり、実際のボールよりかなり大きくなります。
模様などは特になく、全身が黒紫色、口の中は真っ黒です。チョウチンアンコウはこのように奇妙さと愛嬌を併せ持つ不思議な海の生き物と言えます。
おとりとして使う「提灯」って一体なに?
チョウチンアンコウの持っているお洒落なアクセサリーと言えば提灯です。チョウチンアンコウの提灯は、背びれの棘が変化したものです。
その器官全体はイリシウム(誘因突起)と呼ばれ、先端の提灯はエスカ(疑似状体)と呼ばれます。
エスカは青白く発光するビブリオ属のバクテリアによって光っています。見た目は種類によって様々で、チョウチンアンコウの場合はエスカに二本の短い突起と10本の長い糸状の皮弁を持っています。
エスカの内部には培養室があり、発光腺から酸素と栄養を与え発光するバクテリアを培養しています。
培養室の周囲は色素層と反射層で取り囲まれており、突起や皮弁の半透明な部分から光を発射します。皮弁の内部の光道も色素層と反射層に囲まれていて光ファイバーのように内部を光が通過して先端から発光する仕組みです。
エスカには外に開く孔があり、粘液と共に発光物を噴出することができます。これを使って他の生物を驚かせたり身を隠したりすると考えられています。
一部のチョウチンアンコウの仲間では、背びれの後ろにある肉質突起に発光バクテリアを持っており、そこからも発光物を噴出することができます。
チョウチンアンコウと共生する発光バクテリア
チョウチンアンコウの発光バクテリアは他の発光バクテリアに比べてゲノム退縮しており、これは絶対共生細菌に見られる現象です。
簡単に説明すると、この発光バクテリアは培養室外では生きられない特徴をもっていることになります。しかし、最低限の鞭毛や化学受容器を作る遺伝子を持っていることが、最近のゲノム解析で明らかになりました。
そして、チョウチンアンコウ複数種とそこから見つかったバクテリアを比較すると、系統樹が一致しないことから共に進化していないという結論に達しました。
そのため、培養室から放出されたバクテリアたちはその後、海の中を自由遊泳して他の若いチョウチンアンコウに定着すると現在は考えられています。
発光することは他の生物に発見され食べられる危険性も含みます。本来、生物にとって食べられることは死ぬことですが、チョウチンアンコウにとっては寧ろ自分が食べるチャンスを掴む機会となり、バクテリアの場合は食べられても死なずに生きて腸まで届きます。
相手に食べられるという矛盾を各々の形で利用しているというのが面白いですね。
チョウチンアンコウの生活
チョウチンアンコウの稚魚はぷるぷるしたゼリーに覆われていてお菓子のような見た目です。
チョウチンアンコウは稚魚の頃は成魚の時よりも浅い場所で生活します。稚魚の時はオスもメスも同サイズで身体はゼリー質に覆われていて、口が発達するまではこれを栄養源にしていると考えられています。
成長するごとに、メスはイリシウムが伸びて体も大きくなり、チョウチンアンコウらしい姿に変わっていきます。オスはほとんど大きさを変えずに成長します。
チョウチンアンコウはオスがメスより小さい矮雄(わいゆう)です。そして、小さなオスがメスの身体に寄生するという、特殊な生殖方法をします。
オスがメスを探すのには視覚と嗅覚を使うと考えられており、表面積を広げるために何層にも発達した大きな嗅器官でメスを探します。チョウチンアンコウの仲間のオスには目が望遠鏡のように大きく発達している種もいます。
相手に寄生するという極端な矮雄は、有柄フジツボや寄生性二枚貝、ボネリムシやホネクイハナムシの仲間といった無脊椎動物では時々見られますが、魚類ではとても珍しいです。
オスはメスに融合するとしばしば誤解されがちですが、チョウチンアンコウの場合は一時付着型であり、繁殖期のみ噛みついて付着すると考えられています。
実際に融合する真性寄生型のアンコウは、オニアンコウやビワアンコウの仲間。ヒレナガチョウチンアンコウの仲間は、任意寄生型で寄生するかは本人の自由です。
このように人には真似できない不思議な生態を持っており、深海で生き残るにはこうした戦略も重要です。
チョウチンアンコウの秘密はこれからも明らかになる?
冒頭に紹介した通り、チョウチンアンコウについてはまだまだ謎が多いです。
未だ知られていない生態や種類が、今後の研究で明らかになるかもしれません。
そのロマン含め、とても面白い生きものであると感じています。
(サカナトライター:ととげ)