Penthouse『Laundry』インタビュー――多種多様なルーツを持つ6人が生み出すPenthouseサウンド
──Penthouseは大学のサークルで出会って結成されたということですが、まずはお一人ずつ、ご自身に特に大きな影響を与えた音楽やアーティストなどルーツを教えてください。
浪岡真太郎(Vo、Gt)「僕は両親の影響で小さい頃からハードロックを聴いていました。特に70年代のロックが好きで。その後、大学のサークルでいろんな音楽に触れてからは、雑多に聴くようになりました」
大原拓真(Ba)「僕はJ-POPばかり聴いていました。今でもベースのフレーズ作りにはJ-POPの影響が出ていると思います。特に好きなのはaikoさん。それこそaikoさんの楽曲のベースフレーズにはかなり影響を受けています」
矢野慎太郎(Gt)「僕も雑食ではあるんですが、中学生の頃は、今よりも音楽番組が多かったので、そういうものを見てJ-POPを聴いていました。そんなとき、マキシマム ザ ホルモンにハマって、そこからメタルが好きになりました。アニメも好きになったので、アニソンも好きになって、高校ではメタルとアニソンばかり聴いていましたね。大学でみんなと同じサークルに入って、そこからいろいろと聴くようになりました」
平井辰典(Dr)「僕は高校までは流行りの音楽を聴くくらいだったんです。でも、大学でサークルに入ってから、サークルで流行っていたファンクやブラックミュージックを中心に聴くようになって本格的に音楽が好きになりました。ドラマーで言うと、タワー・オブ・パワー(Tower Of Power)というファンクのバンドのデイヴィッド・ガリバルディや、レタス(Lettuce)のアダム・ダイチが好きでプレーを真似していました」
──そもそもどうして大学でバンドサークルに?
平井「それまではバレーボールをやっていたんですが、足を痛めちゃって。漠然と“大学からは音楽をやりたいな”と思っていたんです。それと、たまたま人生の節目でドラムを叩く機会があって」
──人生の節目でドラムを叩く機会がある、というのは…?
平井「まず幼稚園のときに鼓笛隊に選ばれて叩いて。次は小学生の時の合唱コンクールのとき。うちの学校は音楽が盛んで、合唱コンクールで伴奏としてドラムを1人叩かなくちゃいけなくて。そこでもなぜか選ばれてしまって…」
大島真帆(Vo/Cho)「すごい! 天性のドラマーじゃないですか!」
平井「あと、高校3年生のときには、学園祭でバンドをやるという友達から“お前、ドラムできるらしいやん”って声をかけられて…こんな感じで、大学では“バンドをやろうかな?“と思ったんです。でも本当に素人に毛が生えたくらいの腕前だったので、ちゃんと始めたのは大学からです」
大島「私のルーツは2つあって、1つはDREAMS COME TRUE。幼少期に両親に聴かせてもらった吉田美和さんの歌声に衝撃を受けて。それからずっと、目標であり夢の存在です。もう1つはミュージカル音楽。小さい頃からミュージカル作品をたくさん見させてもらっていて、“私も舞台に立つ人間になりたい“と思って中学生のときにミュージカルクラブに入ったんです。そこで劇団四季さんの演目をはじめ、いろいろなミュージカル作品を演じていたんですけど、その中で、自分はお芝居ができないな…と思って。だったら芝居じゃなくて、歌とダンスだけをやろうと思いました。その時期にバンドに興味を持ったので高校生で軽音楽部に入りました。そのまま大学生でも音楽をもっと続けたいと思ったのと、あとは将来のことを考えて才能がある仲間に出会いたいという下心もあって(笑)、いろいろ見た中で一番レベルが高そうなサークルを選んでみんなと出会いました」
──皆さん、ファンクやR&BといったPenthouseの軸となっている音楽は、大学のサークルから始めたんですね。意外とルーツにはR&Bやファンクが出てこないなと。
矢野「確かに、このサークルじゃなかったらやらなかったかも」
大島「私はミュージカル音楽をやっていたので、もちろん知ってはいたんですけど、自分で歌うというのは想像がつかなかったです。サークルに入って“え?洋楽って演奏できるの?歌えるの?”と衝撃を受けました」
──今回リリースされる『Laundry』はそんな皆さんルーツが凝縮された作品だと感じました。アルバムとしての構想は何かあったのでしょうか?
浪岡「毎回構想はなくて。今の時代、曲単位で聴かれることが多くて、1曲1曲の強さが大事だと思っているので、そういった意味で“強い曲”を集めたのがこのアルバムです」
──しかも今作は既発曲も多いですしね。
浪岡「はい。だからアルバム曲は、シングルで出してきた曲ほどポップに寄せすぎなくてもいいかなという意識はあって。僕たちらしいことを自由にやってみました」
──新曲群の中で最初にできた曲や、そのアルバムの格になった曲を挙げるなら?
浪岡「一番古いのは「Raise Your Hands Up」ですね。1枚目のアルバム(『Balcony』)に「Live in This Way」というゴスペル曲を収録しているんですが、その曲と一緒にできた曲で…だけど、アルバムに2曲もゴスペルの曲を入れるのは違うかな?と思って取っておいた曲です」
──「Live in This Way」に続くゴスペル曲ですが、前回と変えたところ、もしくはあえて変えなかったところはありますか?
浪岡「作り方は大きく変わっていないですが、「Live in This Way」と比べると今回は割とキャッチーな仕上がりになっています。あと、歌は難しくなっているかもしれないです」
矢野「そうなんだ!?」
浪岡「テンポも早いしね」
大島「一緒に歌うのは難しいよね。でもライブではシンガロングしてほしいです。完璧に歌える必要はないので、身を委ねてもらえたらいいなって」
浪岡「覚えているところだけでもね」
──ちなみに大島さんは、歌うのは難しかったですか?
大島「いや…“ありがとうございます”って感じです(笑)。学生時代にソウルはよく歌っていて、そのときに培ってきた太くてパワーのある声は自分の持ち味だと思うので、それを十分に発揮することができる楽曲なので…ありがとうございます(笑)」
矢野「レコーディングが終わったあと、ライブに向けてギターベースドラムの3人でスタジオに入ったんですけど、そのときに気づいたことがあって。リズムの取り方がブロックごとに切り替わるんですよ。聴いているだけだと聴きやすいからあまり気づかないと思うんですけど。だから演奏する側、特にリズム隊は意外と難しいと思いました」
平井「この曲のBPMは170くらいなんですけど、サビは半分の85なので、確かに切り替えは大変ではあって。ドラマーとしてあるまじき発言なんですけど、切り替えが多いとブレてしまう感じがあるので、今苦戦中です…。ただPenthouseにはテンポが速い曲ってそんなに多くはないので、ライブでは盛り上がる曲になると思います」
大原「 僕としては、ゴスペルの曲ではあるけどあまりゴスペルっぽく弾き過ぎないようにしています。「Live in This Way」もそうですけど、Penthouseのゴスペル曲は、浪岡の作る曲の匂いが乗っているので、やっぱりちょっとロックなんですよ。だからゴスペルっぽくテクニカルに弾くと、その熱量が失われてしまうので。そうじゃなくて、ちゃんとロックっぽさを残せるようには意識しています。でもそうすると、今、平井さんが言っていたように、半分のテンポで取ることになったときにゴリゴリになりすぎちゃうので、そこは注意しながら…」
──「Raise Your Hands Up」はまさに浪岡さんのルーツがハードロックにあるからこそできる曲ですよね。
浪岡「確かに、歌い方とか、途中に入っているギターリフとかにハードロックっぽさはあるかもしれないですね」
大島「あとはCateen(Pf)の規格外のピアノのフレーズや、そこにどうリズム隊が乗ってくるかも面白いです。Penthouseの美味しさが詰まっている曲だと思います」
──「Kitchen feat. 9m88」についても聞かせてください。Penthouseにとって初のフィーチャリング楽曲ですが、フィーチャリング曲を作ろうと思ったのはどうしてだったのでしょうか?
浪岡「この曲自体のアイデアはかなり前からあって。9m88さんの来日ライブを見させてもらったときに、この曲が9m88さんにすごく合いそうだなと思って、お願いしたら受けてくださることになりました」
──ということは、曲が先にあったんですね。
浪岡「はい。そうです」
──9m88さんとはどのようなやりとりを?
浪岡「“ここを歌っていただきたいです”と送って、歌ったものを送り返していただきました。届いた歌がすごく良くて。実はもともと自分がイメージしていたものとは違う方向だったんが、それが想像していたものよりも良かったので、これがフィーチャリングの面白さなんだなと思いました」
──どういうものを想像していて、どう違うものが返ってきたのでしょうか?
浪岡「僕はもうちょっとあっさりした感じの歌い回しでデモを作っていたんです。だけど9m88さんはまず声がすごく深いですし、ジャズに寄っているので、身体を鳴らす深みのある歌い方で、リズムの取り方もどっしりと構えている感じがしました。でもそれが逆に、呼吸が変わるアクセントになってすごくよかったんです」
大島「話す言語が違うと、発生や身体の鳴る部分がこうも違うのかと、すごく勉強になりました。何よりも、フィーチャリングという形で3人の声が入った音源を聴いたときに、自分が想像していたよりも何倍も魅力的な音源になっていて。これは日本ではもちろん、台湾でも広がっていくんじゃないかな?という期待感がすごく湧きました」
大原「今までフィーチャリングゲストを迎えた曲はなかったし、アルバムの中に1曲違う声が入るだけですごくスパイスになるし、表情が変わりますよね」
平井「僕は最初、もうちょっと静かな曲をイメージしていたんですが、三声のおかげか後半に行くに従ってパーティー感が出てきて。自分が想定していたのとは違って面白い仕上がりになりました」
大原「逆に俺はベースを録るときに、ちょっとフレーズが動きすぎたかな?と思っていたんですが、仕上がりが結構パーティーだったから良かったです(笑)」
──今回初めてフィーチャリングゲストを迎えて楽曲制作をされましたが、今後もフィーチャリング曲はやっていきたいですか?
浪岡「やっていきたいですね。今回フィーチャリングならではの良さを感じたので、いろんな人と一緒に作っていけたら楽しそうだろうなって思いました」
矢野「今までもYouTubeの企画でゲストの方を呼んで、そのゲストの方を自分たちのライブに呼んじゃう、みたいなことはやったことがあります。でも今回改めてみんなが楽曲制作でゲストを呼ぶ面白さを感じたと思うので、今後もまたやりたいですね」
大島「学生時代にも3人以上ボーカルがいるバンドをやっていたので、浪岡はハーモニーを産むのがすごく上手だから、今後もいろんなゲストの方とのベストハーモニーを作れたらいいなと思います」
──シングルとして8月に配信リリースもされましたが、「一難」についても聞かせてください。この曲はラテンの要素を取り入れたスリリングな1曲。これはどのようにできた曲なのでしょうか?
浪岡「サビのアイデアは前からありました。Aメロも別の曲のサビとして取っていたものを持ってきたりして、自分の中のストックから形作っていった1曲です。一旦デモとして仕上げた上でディレクターに聴かせたら“サビをもうちょっと目立たせたい”と言われて、無理やり転調したり、いろいろ試行錯誤しました」
大原「そんな恨み節みたいに(笑)」
浪岡「「Stargazer」というラテンっぽい曲があるんですが、その曲にドラムソロがあって。平井さんに“ドラムソロをやりたくないから似たような曲を作ってくれ”って言われて作りました」
平井「そうだ、僕がお願いしたんでした。忘れていました(笑)」
──「Stargazer」をライブでやらないために(笑)。
大原「でも「Stargazer」は盛り上がる曲なので、ライブのセトリを考える担当としては、“今後も入ってくる可能性があるよ”ということだけ言っておきます(笑)」
大島「「一難」はツインリードボーカル感がすごく強くて。そういう意味では、Penthouseの代表曲の1つにもなったと思います」
──まさに浪岡さんと大島さんの掛け合いが印象的な楽曲ですが、ボーカルとしてレコーディングの際に意識したことはどのようなことでしたか?
大島「すべて浪岡がディレクションしてくれるので、私はそれに沿うだけではあるんですが、“浪岡の声のパワーに負けてはいけない”という気持ちは強かったですね。戦いつつハモっていくというバランスは意識しました」
──が、いろいろな楽器を試すことになったのはどういう経緯からだったのでしょうか?
大原「パーカッションの人に来てもらってレコーディングするのが初めてだったんです。だから進め方があまりわからなくて。“こういう感じにしたいんですが、いろいろやってみてもらってもいいですか?”と言ったら、いろいろ持ってきてくれました」
平井「例えば“サビで、もうちょっと高音域に華やかさがほしいな”と思ってもドラムだけだとなかなか表現がしきれないこともあって。だけどパーカスが入ってくるとそこを補えるので、聴いていてもすごく楽しい曲になりました」
大原「僕はこの曲でも、サビではラテンすぎず、キャッチーにするということは意識しました」
浪岡「やっぱりラテンに寄れば寄るほど、J-POPから離れるので、聴きづらくなってしまうんです。僕らはたくさんの人に聴いてもらいたいという思いがあるので、少なくともサビはキャッチーさに振りたいと思いました」
──キャッチーさという観点で言うと、既発曲ではありますが「夏に願いを」はキャッチーさに振り切った1曲ですよね。この振り幅が出せるのがPenthouseの魅力でもありますが、この曲はどのようにできた曲なのでしょうか?
浪岡「Penthouseの曲は今まで使っていないビートから選ぶことが多いのですが、この曲は“8ビートの速くて盛り上がるタイプの曲があってもいいかも?”というところから作り始めました」
──歌詞もJ-POP然としていますが、作詞を手がけた大原さんはどのように歌詞を作っていったのでしょうか?
大原「J-POPやJ-ROCKっぽい温度感は意識しつつ、Penthouseらしさ、浪岡と真帆の歌らしさを考えて韻を踏むということもすごく大切にしました。そのおかげでメロディが入ってきやすくなったと思います。でもPenthouseでこれほどポップスに振っている曲はなかなかないので苦労しましたね」
──その甲斐あって、歌詞もサウンドもすごく素敵な曲になりましたよね。
大原「本当ですか!? やった!」
平井「この曲、速いんだよな〜…。この曲はBPMが180なんです。だから“本当にここまでやるのか?”って言ったんですよ。でもやることになっちゃったんで、必死に速さについていっています(笑)」
大島「でも、ドポップだからこそPenthouseの入り口になっている曲で。すごく貴重な存在です」
浪岡「こういう曲を書いたことがなかったのですが、自分でもよくできたなと思います」
矢野「メンバー目線でも“こういうのもいけるんだ”って思ったもん」
──そんな多彩な楽曲が集まったアルバムに『Laundry』と付けた理由を教えてください。
平井「Penthouseは一応、家っぽいバンド名を持っているということで、これまでも作品を出すときは一応間取りの名称からタイトルをつけています。「Living Room」「Balcony」…とだんだん選択肢が減っていく中で、次どうしようかと考えていたんですが、今回「Kitchen」という曲が入ってしまって、じゃあ『Laundry』かなと(笑)。他にも寝室とかも案としてはあったのですが、アルバムの雰囲気的に寝室よりはランドリーかなって」
──“色とりどり”みたいな意味なのかな?と勝手に推測していました。
平井「そうそう、インタビューを受けている中で、あとからそういう理由づけができまして(笑)。さっきの別のインタビューで浪岡が“我々の個性が洗濯機の中でかき混ぜられて、そこから出てきたようなアルバムになったらいいなと思っている”と言っていたので、そういうことなんだと思います(笑)」
──お話を伺うと、挑戦も多かったアルバムだと思うのですが、本作はPenthouseにとってどのような存在になりそうですか?
大島「前作の『Balcony』が名刺がわりの一枚だったので…」
浪岡「何がわり?(笑)」
大島「やばい、どうしよう!(笑) でもまたPenthouseの新しい姿を見せられたし、『Balcony』よりもパワーアップした姿を見せられた1枚になったかなと思っているので…新しい名刺がわりになったと思います」
──12月には神奈川・パシフィコ横浜 国立大ホールでのワンマンライブ『Penthouse ONE MAN LIVE 2024 “Laundry”』が開催されます。どのようなライブにしたいですか?
大原「これまでライブはいろいろと試行錯誤してきたんですが、前回のワンマンツアー(『Penthouse ONE MAN LIVE TOUR 2024“Tapestry”』)くらいからすごく良くなってきた感触がバンドの中でもあって。サポートメンバーも含めて、みんなで音楽をやっている感じがすごく楽しいんです。その姿だったり、音楽が楽しいということだったりを、来てくれた方にも伝えられるようなライブにしたいです。演出など進化させているところもたくさんあるので、いつもPenthouseのライブに来てくれている人にはそういうところにも注目してほしいし、初めてPenthouseのライブに来る方には“こんなに楽しいライブなんだ”ということを感じてもらえたら嬉しいです」
──先ほども、たくさんの人に聴いてもらうためにもキャッチーさは残したいということをおっしゃっていましたが、バンドの今後の展望としてはどのようなことを考えていますか?
浪岡「これからも曲をリリースしていきたいですね。デカいタイアップとかがついたやつを(笑)。本当にヒット曲が欲しいと思っています。頑張ります」
──、YouTubeでマニアックなPenthouseの楽曲をわかりやすく解説したりしている姿も印象的ですが、リスナーの音楽への興味を引き出していきたいということも考えているのでしょうか?
矢野「結果的にそうなっていたら嬉しいです。僕たちはサークル時代から、音楽をネタにいろいろ楽しんできたという共通体験がみんなにあって。今もその延長線上で、そういうことを楽しんでいるだけなのかな?と思います。その楽しさをリスナーとも共有できたら嬉しいですね」
(おわり)
取材・文/小林千絵
写真/野﨑 慧嗣
RELEASE INFORMATION
2024年11月6日(水)発売
VIZL-2371/5,940円(税込)
Penthouse『Laundry』
2024年11月6日(水)発売
VICL-66015/3,300円(税込)
Penthouse『Laundry』
LIVE INFORMATION
日時:2024年12月19日(木)
会場:神奈川県・パシフィコ横浜 国立大ホール
時間:18:00 open / 19:00 start
チケット:SOLD OUT !!
Penthouse ONE MAN LIVE 2024 “Laundry”