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最低でも年間3万5千羽を捕食? 御蔵島で野生化したネコによる<オオミズナギドリ>など鳥類捕食の実態が判明

サカナト

オオミズナギドリ(提供:PhotoAC)

オオミズナギドリは主に日本の島々を繁殖地とする海鳥です。

本種の世界最大の繁殖地として伊豆諸島の御蔵島が知られており、島におけるオオミズナギドリの繁殖個体数は1970年代後半で175万~350万羽と推定されています。

しかし、2016年には繁殖個体数が推定10万羽まで減少。原因は御蔵島で野生化しているネコによる捕食とされています。

過去の研究でネコ1頭が捕食するオオミズナギドリの数は年間313羽であると明らかになっているものの、その数値は過小評価の可能性がありました。

こうした中、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所などからなる研究グループは御蔵島において野生化したネコの冬季の食性を調査。ネコがオオミズナギドリを捕食し始める時期を明らかにしました。

この研究成果は『Mammal Study』に掲載されています(論文タイトル:Unexpectedly early and drastic dietary shift of feral cats to seabirds: evidence from fecal samples of cats captured during the transition to the breeding season of the streaked shearwater on Mikura-shima Island, Japan)。

島で繁殖するオオミズナギドリ

オオミズナギドリ Calonectris leucomelas は東アジアの主に日本の島々で繁殖する海鳥で、国際自然保護連合(IUCN)のレッドリストでは純絶滅危惧種に指定されています。

オオミズナギドリ(提供:PhotoAC)

本種は森林の地面に穴を掘り集団で繁殖するという生態を持ち、かつては日本の多くの島々で繁殖していました。

しかし、オオミズナギドリは警戒心が低いことからイタチやネコなどの外来哺乳類が生息する島を中心に繁殖地が次々と減少してしまったと言われています。

世界最大の繫殖地

そんなオオミズナギドリの世界最大の繁殖地となっているのが伊豆諸島の御蔵島です。

御蔵島は三宅島と八丈島の間に位置している海洋島で、島は照葉樹林で覆われており島のほぼ全域が富士箱根国立公園に指定されています。

渡り鳥であるオオミズナギドリは、冬に熱帯海域上で越冬。春~秋の約9か月間、繁殖のために島に滞在することが知られています。

激減したオオミズナギドリ

御蔵島におけるオオミズナギドリの繁殖個体数は、1970年代後半で本種全体の繁殖個体数の約7、8割に相当する175万~350万羽と推定されています。

しかし、2016年には10万羽程度と推定されており、オオミズナギドリの繁殖個体数が激減していることが明らかになりました。その大きな要因として考えられているのが御蔵島の森林で野生化したネコによる捕食です。

御蔵島(提供:PhotoAC)

実際、森林総合研究所や山階鳥類研究所などからなる研究グループは、これまでに御蔵島で野生化したネコによる食性分析により、年間でネコ1頭あたり313羽のオオミズナギドリを食べていることを明らかにしています。

ただし、この推定値も過小評価の可能性があったのです。

もっと食べられている可能性

オオミズナギドリは森林の地面に横穴を掘り集団繁殖を行います。

親鳥は日中に海上で餌を取り夜間になると森に帰るといった生活をしているため、人目につきにくく、実際にオオミズナギドリがいつ頃、繁殖のために島に戻ってくるのか分かっていませんでした。

ロガー調査により明らかになっていた3月10日が最も早い帰島記録となっていました。一方、島民や調査員からの聞き取りなどから、2月下旬には戻り始めているとの情報もあったようです。

オオミズナギドリの帰島時期

こうした中、国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、山階鳥類研究所、かながわ野生動物サポートネットワーク、東京大学、北海道大学の研究グループは御蔵島におけるネコの冬季の食性を調査。

今回の研究では、より正確にネコがオオミズナギドリを食べ始める時期を明らかにすべく、本種の越冬期から繁殖期へ移行する1月~3月初旬に御蔵島の森林域で捕獲された野生ネコの糞の分析が行われています。

オオミズナギドリの群れ(提供:PhotoAC)

分析の結果、なんと1月29日に捕獲されたネコの糞からオオミズナギドリが出現し始めます。その後、糞からオオミズナギドリの出現頻度は急増し、2月13日に50%、同月19日には75%の糞から出現する計算となり、2月中旬には既に主食の水準に達していることがわかったのです。

これらの結果は従来、人の調査によるオオミズナギドリの最も早い帰島を5週間更新するものとなりました。

また、人間がオオミズナギドリの帰島を感知するよりも早くネコが本種を主食としていることから、ネコがオオミズナギドリを検知し、捕食する能力に長けていることが示唆されたのです。

推定3万羽以上を捕食

これらの知見に基づき、御蔵島におけるネコ1頭が1年間に捕食するオオミズナギドリの推定値は、従来の313羽から330羽に更新。御蔵島のネコの生息数がわかれば、捕食されているオオミズナギドリの総数を明らかにできるものの、御蔵島のネコの生息数はわかっていません。

アカコッコ(提供:PhotoAC)

そこで、御蔵島で実施されている最近のネコの捕獲数である106頭(2022年度)を最低限の個体数と仮定し、最低でも年間で330羽×106頭=3万1980羽のオオミズナギドリがネコによって捕殺され続けていると推定されました。

また、オオミズナギドリ以外にも陸鳥であるオオノコハズク、カラスバト(国の天然記念物)、アカコッコ(国内希少野生動植物種)への捕食も確認されており、陸鳥全体で最低でも年間2120羽がネコに捕食されていると推定されています。

ネコ対策の限界

現在、御蔵島では本研究グループ、島民、有志グループによってネコの捕獲および島外運搬などが実施されているものの、体制が小規模であることに加え、持続性の担保がないことから、問題解決の見通しは立っていない状況だといいます。

一方、今回の研究により、御蔵島において野生化したネコが年間数万羽のオオミズナギドリを捕食し、さらに国内希少動植物種や国の天然記念物を食べていることが明らかになりました。

この研究成果は御蔵島におけるネコ対策の緊急性と必要性が高いことを示しています。そのため、国や都を含めた関係機関が一丸となってこの問題を解決するための対策を実施することが望まれています。

(サカナト編集部)

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