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【第61回文藝賞贈呈式】 浜松市出身、松田いりのさんの「ハイパーたいくつ」が栄誉!

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1962年創設の「文藝賞」(河出書房新社主催)の贈呈式が11月13日、東京都港区の明治記念館で開かれ、2024年の同賞に選ばれた松田いりのさん(浜松市出身、受賞作「ハイパーたいくつ」)、待川匙さん(札幌市在住、同「光のそこで白くねむる」)の栄誉をたたえた。同賞応募総数は2111作。選考委員は小川哲さん、角田光代さん、町田康さん(熱海市)、村田沙耶香さん。受賞者会見の模様をお伝えする。(論説委員・橋爪充) 

松田いりのさん「『笑えるか』が、うまくいっているかどうかの判断軸」

-受賞の言葉に、この小説執筆を始めたのは「この先の人生、取り立てて面白いことは起こらない」という思いだったとあります。受賞にいたった今、「たいくつ」観に変化はありますか。

松田:今日この場のようなことを、1年前は全く想像できていませんでした。思ったことが現実のかたちを取る。このスピード感、すんなり感は生まれて初めてです。「たいくつ」ではないですね、今は。「ハイパーこんらん」といったところでしょうか。状況が飲み込めていないです。

-小説における笑い、ユーモアについて、どう考えているのでしょうか。

松田:笑えるものを書こうと思って書き始めたわけではないですね。書いているものがうまくいっているかどうか、自分で判断するしかないんですが、いろんな判断軸がある中で、自分はそれが「笑えるか」なんです。うまく行っているかどうかを判断するメーターのような役割を果たしている。それに従って書き進めて行って、結果的に読んだ方にユーモアがあると言っていただけるようになったのだと思います。

-強迫観念のようなものをデフォルメすることが笑いにつながるのでしょうか。

松田:日常生活だとじめじめした感じが生まれますが、それ(強迫観念のようなもの)を拡大してちょっと形を変えると読んでいる人をうまくいけば引きつけられる。ユーモラスなものになる。仕組みは分かりませんが、そういう作用があると思っています。

-小説は初ですが、演劇の脚本は手がけていたとお聞きしました。違いをどう感じますか。

松田:演劇の場合は、脚本を書いた後に役者の体、演出という要素が加わります。書いた後に「何か」がある。その「何か」をお客さんに見てもらうのが演劇だと思います。小説の場合は「奥」がなくて、書いたものがそのまま読む人に届きます。そうした意味では脚本のほうがリラックスして書けますね。小説は「これが本番」という感じがあって、パソコンに向かう時も背筋が伸びる感覚がありました。

-受賞作が掲載された(雑誌)「文藝」の写真は革ジャン姿ですね。現在の髪形も含め、ちょっとロック的な趣味や素養があるのですか。

松田:音楽はかなり聴く方だと思います。ラモーンズとかビートルズとか。全然スタイルが違うけれど、表面的にかっこよさに感化され、表面的にそれをまねするということはよくあります。今のこの姿も、その延長線上にあるのでしょう。ただ、それがどれだけ精神性に根ざしたものかは分からない。どこかで「やっぱり表面的だな」と思いながらやっています。

-思い入れのある本屋さんは。

松田:地元が静岡(浜松)なので、駅にあった谷島屋さんはよく行っていました。高校生のころは文庫本をよく買っていましたね。大学入学で上京した後はもっぱらジュンク堂池袋店。衝動買いが多いですね。

待川匙さん「2024年に書かれたものとして読んでいただければ」

-受賞の喜びを。

待川:小説の方が勝手に転がって賞をいただいたような気持ちでいるので、ありがたいのと同時に、浮いているような不思議な気持ちです。文藝賞は20年ぐらい読み続けてきた好きな賞だったので、「うれしい」「ありがたい」はあるのですが現実味がないですね。

-今回の作品執筆のきっかけは。

待川:去年、自分の旅行が台風でなくなってしまい、ぽっかり時間があいてしまったので数年ぶりに小説でも書いてみようと。(旅行に)行けなかった分、乗り物に乗っているシーンから始めました。

-小説はいつから書いているのですか。

待川:小学生の頃から友達の間で話を交換し合うようなことはやっていました。書く習慣はずっとあった気がしています。ただ、ちゃんと腰を据えて書いたのは今回が初めてですね。

-今回「腰を据えて小説を書こう」と思った理由は。

待川:2、3年前に北海道に移住して、仕事の方もちょっとずつ見えてきて、年齢的にも余裕が出てきた。そんな時に1週間ぐらいで予定していた旅行がなくなってしまったんですね。短歌もやっていましたが、小説の方が数を読んではいたので、読み続けているものに自然に入っていったのかもしれません。

-この作品はどういう小説だと言えるでしょうか。

待川:けむにまくようなことを言ってしまうと、どういう小説か分かりづらいように、自分の中で箱に収めてしまわないように、開いていくように意識して書いています。でも入口はたくさん用意しているつもりですので、探してみてください。一方で、社会がちょっとイヤな感じじゃないですか。一個人としてのもやもやも反映されている。2024年に書かれたものとして読んでいただければ面白いのではないでしょうか。

-ペンネームの由来は。

待川:フォークナーが一番好きな作家なので、フォーク→スプーン→さじという…しゃれです。

-思い入れのある本屋さんは。

待川:地元(徳島県)にいたときは、唯一の書店に足しげく通っていました。今は札幌に住んでいまして、大きな本屋さんも行くんですが、個人でやっておられるような本屋さんが増えてきているので、そうしたところに好きでよく行きますね。人(書店員)の顔が見える棚を見るとうれしくなります。

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