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フィクションというものは、常に現実の一歩先を行かなきゃいけない――『LAZARUS ラザロ』渡辺信一郎監督インタビュー|アクションと音楽、そして現実の“世界”から生まれた集大成

アニメイトタイムズ

写真:アニメイトタイムズ編集部

2025年4月6日(日)より放送開始となる、TVアニメ『LAZARUS ラザロ』。

西暦2052年。平和な時代が訪れ、脳神経学博士スキナーの開発した鎮痛剤「ハプナ」が大きく貢献していた。しかし、その開発者であるスキナーは突如姿を消し、その行方は誰も知らない。 3年後、彼は世界を破滅に導く悪魔として再び現れる。 ハプナは服用者を3年後に発症させ死に至らしめる、スキナーが仕掛けた罠だったのだ。

人類が助かる道は、スキナーが持つたったひとつのワクチンだけ。スキナーの陰謀に対抗すべく、世界中から集められた5人のエージェントチーム「ラザロ」は、人類を救うことができるのか?  そして、世界を破滅に導く悪魔となったスキナーの目的とは?

本作の監督を務めるのは、『カウボーイビバップ』『サムライチャンプルー』『残響のテロル』などを手掛けた渡辺信一郎監督。制作をMAPPAが担当し、アクション監修として『ジョン・ウィック』のチャド・スタエルスキ氏も参加。TVアニメの枠を超えた、豪華スタッフが名を連ねている。

アニメイトタイムズでは、渡辺監督にインタビューを実施し、キャリアの集大成と言える『LAZARUS ラザロ』に込めた想いやアクションシーン制作の裏側などを伺った。

 

 

【写真】『LAZARUS ラザロ』渡辺信一郎監督インタビュー

近未来と現実を結びつけた音楽

──まずは、『LAZARUS ラザロ』の企画が始動したきっかけをお聞かせください。

渡辺信一郎(以下、渡辺):2017年に『ブレードランナー ブラックアウト2022』という短編をやったんです。近未来が舞台のSFアクションもの、っていうのを久しぶりにやったけど、これがなかなか楽しくて。短編だしすぐ終わったこともあって、「もうちょっとこういう作品をやろうかな」という気分だったとこに、アメリカのカートゥーン・ネットワークからオファーが来て。SFアクションをやってほしいというオファーだったんで、ちょうどタイミングが良かった。ただその時点では、すでにTVシリーズ『キャロル&チューズデイ』をやることが決まってたんで、それが終わってから作業に入った感じです。

それで、どういう作品にしようか色々考えてる時に出会った曲が、本作のエンディングテーマ、ザ・ブー・ラドリーズの「Lazarus」。1992年に出た曲で、当時から好きで良く聴いてたけど、今やすっかり忘れてて(笑)。何十年ぶりかに偶然この曲を聴いた時、大きなインスピレーションを受けて、作品の土台ができた。その偶然がなかったら、まったく違う作品になってたかもですね。それでこの曲に敬意を表して、エンディング・テーマに使わせてもらいました。

 

 

──作中に登場する「ハプナ」は、現実のオピオイド問題にも通じるものがあると感じました。

渡辺:アメリカとかで社会問題になってるオピオイド危機は、日本ではあまり知られてないかもだけど、自分の大好きなミュージシャン達がそのせいで亡くなる、という事からだいぶ注目してました。「プリンスの命を奪うなんて、何なんだよその薬!」てな感じで。

でも、そういう現実の問題をそのまま取り上げている訳ではないんです。フィクションというものは、常に現実の一歩先を行かなきゃいけない。現実の後ろを追いかけているようじゃ負け、という考えなんです。

それと、そういう社会問題が根底にあっても、作品としてはあくまで娯楽アクション、エンタテインメントなんで、ご心配なく(笑)。

──先ほどエンディングテーマのお話がありましたが、Kamasi Washingtonさんのオープニングテーマはどういう経緯で決まったのでしょうか。

渡辺:Kamasi Washingtonさんは、今のジャズ界を牽引するような有名なミュージシャンなんですが、最初にリモートの打ち合わせで会ったら、「俺が、どれだけお前のアニメを好きか分かるか?」という感じで(笑)。最初は本編の劇伴をオファーしたら、もうノリノリでつくってくれて、さらに「オープニングもやらせてくれないか」と連絡があって。もう、イヤとは言えないでしょう(笑)。

 

 

──BonoboさんとFloating Pointsさんも、本作の音楽も担当されていますね。

渡辺:普段の彼らは、どちらかと言うとクラブミュージックやダンスミュージックを作っている人たちなんです。でも、そこに留まらない豊かな才能を持っている二人なんで、ぜひ映画音楽にチャレンジしてほしいなと思ってオファーしてみました。

……ちなみに、いい曲を書いてもらうには、ちょっとしたコツがあると思うんです。

──ぜひそのコツを伺いたいです。

渡辺:複数のアーティストに曲を発注して競わせることです。そうすると、みんな他のアーティストに負けたくないから、良い曲を作ってくれる…ような気がします。まあ、自分の思い込みかもだけど(笑)。

 

 

模倣しないからこそ生まれるリアリティ

──本作には『ジョン・ウィック』などで知られるチャド・スタエルスキさんが、アクション監修として参加されています。本作のアクションシーンはどのように作られているのでしょうか?

渡辺:本作のアクションは、大まかに言って2種類あるんです。“チャドさんあり“と“チャドさんなし”。ただ、“チャドさんなし”のアクションはクオリティが落ちるかというと、そんな事はない。

──映像を拝見しましたが、全てのアクションシーンが凄まじいクオリティでした。

 

 
渡辺:まず、久々にアクションものをやるにあたって昔と同じことはしたくなかった。では新しいアクションをやるにはどうするか? アクションにこだわりのあって、実力もあるアニメーターって、実は結構いるんですよ。動きから考えて作りたいという、実写映画でいうスタント・コーディネーターみたいな人にコンテからやってもらって、作画も自分でやる、という風にできないかなとまず考えました。

そのうえで、いま最先端の現代的なアクションをやってるのは『ジョン・ウィック』のチャドさんのチームだろう、彼らのアドバイスなり、アクションに対する考え方を聞きたい。そう思ってコンタクトしてみました。

──音楽と同じく一歩踏み込むため、チャドさんにオファーしたという訳ですね。

渡辺:彼らはハリウッドのトップチームだし、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影で忙しいはずだからアドバイスだけでも貰いたい、という気持ちでコンタクトしたんです。そしたらなんと、チャドさんは『カウボーイビバップ』や『サムライチャンプルー』が大好きでインスピレーションも受けた、だからお返しに参加するよ、と言ってくれて。アドバイスだけのつもりが、実際にアクションをつくってくれる事になり、マジでナイスガイでしたね(笑)。

すでに進んでた話数とか、『ジョン・ウィック:コンセクエンス』の撮影が佳境で参加できなかった話数もあるんだけど、それでも多くの話数でアクションシーンを作ってくれました。実写でスタントマンたちがアクションシーンを丸ごと演じて、編集までされたムービーを送ってくれて。「これでよろしく」みたいな(笑)。

 

 
渡辺:ただ、それを単に模写するということじゃなくて、アニメならではのデフォルメとかタイミングを加えています。アニメ的にブラッシュアップした、という言い方が近いかな。

チャドさんたちが参加してない話数は、アニメーターが動きからカット割りまで考えたり、絵コンテでアクションを考えたうえで、チャドさんに見てもらったりもしてます。アニメ側のスタッフも、チャドさんが送ってくれたムービーを見たりして影響を受けてる。だから、チャドさんが直接参加していないシーンにもチャドさんのスピリットは流れているんじゃないか、とは思ってます。

──ちなみに、チャドさんたちが作った実写映像は今後見れたりしないでしょうか…?

渡辺:オフィシャルページとかXとかで、徐々に公開していく予定なんで、お楽しみに。チャドさんのアクションチームは若者も多かったけど、アニメ好きな人が多いみたいで。アクションとアニメは共通項が多いのかもですね。

 

世界を見渡して、世界に作品を届ける

──渡辺監督は海外の制作会社とのお仕事も多いですよね。そこでの経験が本作に活かされることもあったのではないでしょうか?

渡辺:そうですね。作品を作るうえでは、常に「視野を広く持ちたい」と思っています。ずっと日本にだけいると視点が偏ってしまうんで、仕事が片付いた後はなるべく海外に行くとかしたいなと。まあ、元々旅好きでもあるんですけど、単に遊びたいとか、そういう事じゃない……ということにして(笑)。

──渡辺監督がそういった考え方を持つようになったのはいつ頃ですか?

渡辺:『マクロスプラス』の時に初めてロケハンでアメリカに行ったんですけど、その時にだいぶ刺激を受けたんです。サンフランシスコとかロサンゼルスに2週間ほど滞在して、向こうの色々な人と話す機会もあって。日本にいるだけだと分からない空気感だったり、物事の考え方だったりに触れて、視野が広がった感じがしました。

それから、機会があるごとに海外に行くようにしています。コンベンションとかに呼ばれると期間中は忙しいから、何日か延泊してひとりで街を歩きまわったりして、その土地に触れるようにしてます。だいたい25カ国ぐらいは行ったかな。新しい国に行くと、いまだに刺激を受けますね。

 

 

──『カウボーイビバップ』以降は、海外からの反響も徐々に大きくなっていたのでは?

渡辺:90年代には、まだ日本のアニメを海外の人が観るのも一般的じゃなかったし、アメリカでも数本ぐらいしか見られてなかったらしい。そんな中で、フランスとかイタリア、ドイツとか多くの国では、「はじめて放送された子供向きじゃないアニメ」がビバップだったそうです。

──本作に参加されているKamasiさんとチャドさん然り、海外には熱量の高いファンも多いですよね。

渡辺:そうですね。日本のファンはシャイな人が多いけど、海外のファン中には物凄く語る人もいますね。Kamasiさんもそうですけど、「自分がどれだけこの作品が好きか」「自分のの人生がどれだけ変わったか」とかを熱く語りかけてきたり(笑)。

──そういう意味では、日本のみならず、世界中に『LAZARUS ラザロ』を楽しみにしているファンの方がいらっしゃると思います。

渡辺:TVアニメとしては、類を見ないほど力が入った作品だと思うし、個人的にも相当気合が入っています。自分の中でも集大成と言える作品になったと思うので、是非観てほしいです!

 
[インタビュー/失野 編集/小川いなり]

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