8児を育てる小児科医ゆび先生が “パパの産後うつ”に助言 「パパはこうすべきと考えると子育ては苦しくなる」
8児パパで小児科医・インフルエンサーの「ゆび先生」インタビュー第2回。最近、増えているという“パパの産後うつ”に、ベテランパパ・ゆび先生のアドバイスとは。全3回。
【画像】子育ての新刊を書いたゆび先生4男4女、8人きょうだいの子育てに奮闘する小児科医「ゆび先生」こと田本直弘さん(44歳、鳥取県米子市在住)。クリニックの診療に加え、YouTubeやTikTokなどSNSで約25.5万人ものフォロワー(2025年7月現在)を持つインフルエンサーで、ベテランパパでもあります。そんなゆび先生が著書『誰かに教えてほしかった! ゆび先生のこんな時怒ったら子育てダメ?vsイイ?』(今井出版)で伝えているのは、“完璧な親じゃなくていい”というメッセージ。
いま注目しているのは、ちょっと元気をなくしているパパたちの存在だといいます。
子育て歴17年のゆび先生が感じるパパの変化
──最近はパパの育休取得率も増えています。ゆび先生は一番上のお子さんが17歳と、一番下が1歳(2025年7月現在)と16歳差ですが、世の中のパパの子育てへの関わり方に変化を感じますか。
ゆび先生:長女が生まれた17年前と比べると全然違いますね。パパの育児参加率は確実に高くなっています。小児科の外来も、パパが連れてくる患者さんが増えたなという印象です。
ただ、パパ自身が育児に参加したくて子どもと過ごしているのか、渋々やっているのか、奥さんのためなのか、または世間体なのか。ここが重要です。小児科医として診察室で見ていると、どういうスタンスで連れてきているパパなのか、見てすぐにわかります。
「いつからお熱出ていますか」と聞いても「わからないっす」と答えるパパもいます。きっと奥さんに連れていけと言われたから来ただけなのでしょう。それでは育児参加とはいえません。
育休もそうです。育児をしたいから取るのか、自分が休みたいから取るのか、周りが取るから取るのか、ママや会社から言われるから取るのか。目的で関わり方はだいぶ違いますよね。
もし育休が取れなくても、パパにできることはたくさんあります。僕は健診で小児科医として赤ちゃんを診る側ですが、健診の当番でないときは、妻と一緒にわが子の乳幼児健診に行きます。絵本や栄養について客観的に知る機会にもなるので新鮮ですね。
真面目なパパほど産後うつに!?
──最近は子どもが生まれた後、パパがメンタル不調になる「パパの産後うつ」が話題になっています。産後の父親のメンタル不調のリスクは、母親と同じくらいだそうですが、元気がないパパが気になることはありますか。
そうですね。僕の周りでもうつっぽくなっているパパがいて心配です。ママの産後うつももちろん一定数いますけど、最近増えているという印象はパパです。
やっぱりまじめな方が多いんですよね。かつての僕のような「べき論」を持っていて、「パパはこうあるべき」と思っているパパがまいってしまうケースが多い。よくいうとまじめですが、それは臨機応援にできないということの裏返し。
「べき論」で育児をしていると、ストレスを感じやすくなってしまうんです。僕たち夫婦だって、あのままの考えだったら危うかったかもしれません。
パパママが少しでもラクになれればと子育ての新刊を書いたゆび先生。 写真提供:今井出版
育児は細かいルールを決めてしまうと大変なことになります。「自分の仕事だ」と思うお世話については一生懸命やるのだけれど、「ママの仕事だ」と思い込んでいることには手を出さなくなるからです。
例えば「おむつ替えはママの仕事」と夫婦で決めていたとします。するとまじめなパパは「しなくていい仕事」だと認識してしまいます。だからパパがおむつを替えることになったとき、すごく抵抗を感じるんです。
でもそもそも目の前でわが子が泣いている。くさいと思っているのは自分。自分の目の前で愛するわが子が不快な思いをしている。そうなると、自分のためにもこの子のためにも自分が替えないと、って思うのが自然です。
その気持ちよりも「ママの仕事だから」とルールを優先すると、夫婦お互いのストレスになります。奥さんだって「近くにいるあなたがやってよ」という気持ちになります。
「でもこれがルールだったじゃん」となったとき、まじめな人ほどストレスを感じてしまうんです。
育児ってがっかりすることの連続じゃないですか。思いどおりにいかないことだらけです。だからガチガチにルールで固めていると自分たちが苦しくなります。育児中は視野が狭くなりがちなので、少しずつ広げていくことで気持ちが楽になると思います。
普段から会話して意思疎通を大事にする
──とくに産前産後は父親も母親もメンタルが不安定になることが多いと思います。8児のパパの立場から、ママが不安定なときにどうすればよいか、アドバイスをお願いします。
いま妻は9人目を妊娠中ですが、やはり不安定なんです。お腹に赤ちゃんがいて大変だろうから、ある程度気をつけてはあげますが、あれもこれもと気張って構えているわけではありません。そうするとパパもまいっちゃいますからね。
ゆび先生はママのダラダラはOK、でもイライラは一番嫌と語る。 『誰かに教えてほしかった! ゆび先生のこんな時怒ったら子育てダメ?vsイイ?』(今井出版)より
ママと長男・いちごくん、4女のたねちゃん。子どもの名前はフルーツと野菜なのがユニーク。 写真提供:今井出版
妻の気分が沈んでいるときは仕方ないですから、「今は不安定だからダメだな。明日しゃべろう」と割り切るようにしています。感情には波があって、時間が経てば気分は上がってきます。
イライラをぶつけてきたら、黙ってがまんすることはしないです。それこそこっちのストレスにもなってしまうので。「イライラするのはわかるけどさ、そう言われたらこっちだってイライラするぜ」と伝えるようにしています。
──著書にはパパの育児参加に関するお悩みがママたちから寄せられています。パパに上手に育児に参加してもらうためにはどうしたらよいでしょうか。
夫婦でよく話し合うことだと思います。得意不得意、興味があることないこと、それぞれあると思うんです。無理がないよう、2人でよく話し合って理解しておいたほうがいいです。
そのためには普段から面と向かって話す習慣があるといいですね。うちの場合、常にしゃべっています。普段は東京出張が多いですから、自宅に戻っているときはできるだけ妻としゃべっていたいんです。だから塾の送り迎えも妻と一緒に行きますよ。車内のおしゃべりは子どもにジャマされることが少なくゆっくり話せる貴重な時間です。
妻は僕に引っ張り回されるので、「夕飯作る時間がない」とか言っていますけどね(笑)。でも作れないときはUberでも宅配ピザでもコンビニでもいいと思っています。
好きで結婚したママと過ごす時間のほうが大事。こうやって子育てしながらも、自分が大切だと思うこと、自分が楽しいと思うことを守ることで、育児も楽しくなるのではないでしょうか。
取材・文/大楽眞衣子
〈参照〉
産後、同時期にメンタルヘルスの不調で苦しんでいる夫婦は年間約3万組!?~母子だけでなく、父親も含め世帯単位での支援やアセスメントが必要~/国立成育医療研究センター
親の悩みにゆび先生が回答した『誰かに教えてほしかった! ゆび先生のこんな時怒ったら子育てダメ?vsイイ?』(今井出版)。「視点を変えるだけでずいぶんラクになると気づかされた」「親自身の矛盾やエゴにもそっと寄り添ってくれる」など反響多数。