介護福祉士国家試験の「パート合格」導入|仕組みやメリット・デメリットについて専門家が解説します!
介護福祉士国家試験「パート合格」とは?
執筆者/専門家
脇 健仁
https://mynavi-kaigo.jp/media/users/22
※本記事は令和6年9月24日に厚生労働省の検討会より提出された「介護福祉士国家試験パート合格の導入の在り方について」を基に作成しております。今後変更等が生じる可能性もございますので、新しい情報は随時ご確認いただけますと幸いです。
介護福祉士国家試験「パート合格」の仕組みを確認しましょう!
令和6年9月24日に、厚生労働省の介護福祉士国家試験パート合格の導入に関する検討会より報告書が提出されました。これによりますと、令和8年(2026年)1月実施予定の第38回介護福祉士国家試験から「パート合格」を本格導入する見込みです。
まず、現状の介護福祉士国家試験について確認をしたあと、「パート合格」が導入されるとどこが変わるのか見ていきましょう。
ー現状の介護福祉士国家試験「合格基準」
・全11科目群においてすべて1回で合格すること
・11科目群すべてで得点があること(0点の科目群があってはならない)
・問題の総得点60%程度を基準に、問題の難易度で補正した点数以上の得点があること
ー現状の介護福祉士国家試験「試験科目」
【13科目(11科目群)】
1.人間の尊厳と自立(2問)、介護の基本(10問)
2. 人間関係とコミュニケーション(4問)、コミュニケーション技術(6問)
3.社会の理解(12問)
4.生活支援技術(26問)
5.介護過程(8問)
6.こころとからだのしくみ(12問)
7.発達と老化の理解(8問)
8.認知症の理解(10問)
9.障害の理解(10問)
10.医療的ケア(5問)
11.総合問題(12問)
「パート合格」導入による主な変更点
ーパート合格導入後の介護福祉士国家試験「合格基準」
・11科目群すべてで得点があること(0点の科目群があってはならない)
・問題の総得点60%程度を基準に、問題の難易度で補正した点数以上の得点があること
・11科目群を3つのパートに分け、パートごとの合格を可とする
・パートごとの合格基準はパート内の全科目で得点があるかつ、パート間の難易度差に対応するため平均得点の比率で按分した点数
・まず全パートの総得点で判断し、結果不合格だった際には、パートごとに判断する
・パート合格の有効期限は「受験年の翌々年まで」
ーパート合格導入後の介護福祉士国家試験「試験科目」
先述している通り、「パート合格」を導入する場合は3つのパートに分けることが有力となっています。現状挙がっている3分割の考え方は、以下の通りです。
【Aパート】
・人間の尊厳と自立(2問)
・介護の基本(10問)
・社会の理解(12問)
・人間関係とコミュニケーション(4問)
・コミュニケーション技術(6問)
・生活支援技術(26問)
【Bパート】
・こころとからだのしくみ(12問)
・発達と老化の理解(8問)
・認知症の理解(10問)
・障害の理解(10問)
・医療的ケア(5問)
【Cパート】
・介護過程(8問)
・総合問題(12問)
ー試験時間
試験は午前中にAパート、午後にB・Cパートもしくは、Bパートのみ、Cパートのみという流れで行われる予定です。
今まで、同じ科目群でも午前と午後に試験が分かれていた「人間関係とコミュニケーション」と「コミュニケーション技術」などが同じパートに入ったことで連続性をもって受験できるスケジュールとなっています。
介護福祉士国家試験「パート合格」はなぜ導入されるの?
介護福祉士試験の受験人数の減少が大きな要因
参考:厚生労働省介護福祉士国家試験の受験者・合格者の推移をもとに作成
パート合格の導入背景には、介護福祉士試験の受験人数の減少があります。
上記図からもわかるように、近年、介護福祉士国家試験の受験者数は減少傾向にあります。
また、就労しながら介護福祉士を目指す受験者が8割以上という状況から、仕事と勉強の両立が求められています。その中で、パート合格を導入することは、国家試験を受けやすくするという効果があり、介護福祉士の人材確保に寄与するものとされています。
また、外国人介護人材は日本語学習をしながら、試験対策をしなくてはならず、合格率も日本人と比較して、低い状況があります。試験に合格できず、在留資格を喪失し、介護人材となりえる人々が国外へ流出している現状もあり、パート合格により介護人材確保が促進され、日本の社会課題である介護人材不足を解決する一つと考えられています。
ほかの国家試験ではすでに「パート合格」が導入されている!
実は、パート合格という考え方は、条件は違いますが、その方法を取り入れている資格試験はすでに存在しています。
具体的な例をあげると、税理士試験、保育士試験、ファイナンシャルプランニング技能士(いわゆるFP)試験などはすでにパート合格を導入しています。そのため、パート合格を導入することは、そこまで珍しいことではないのです。
介護福祉士国家試験に「パート合格」を導入するメリット・デメリット
「パート合格」導入のデメリット(懸念点)
では、まずデメリット(懸念点)から考えていきましょう。考えられる懸念点としては以下の通りです。
1.介護福祉士の質の低下
2.特定技能介護における5年の在留期間を延長するためではないかという疑念
ー1.介護福祉士の質の低下
たしかに、今まで不合格だった人材が合格を手にしやすくなるという点で、絶対にないとは言い切れません。また、現在の合格率も7割前後と比較的簡単な資格であるのに…という声も挙がっています。
一方で、先述した内容と重複しますが、パートの構成が今までよりも改善されています。
以前は人間関係とコミュニケーションは、「人間と社会」という領域で午前中の試験問題であり、「コミュニケーション技術」は「介護」という領域で午後の試験問題でした。同じコミュニケーションであっても領域が違っていましたが、パート合格になると、これらはAパートにまとめられています。このように、A・B・Cパートのそれぞれが、一部変更されたことで再受験の際に学習しやすくなっています。
これにより、再試験の勉強をするときも、その領域全体を学び直すことになるため、合格者の質を担保しやすい工夫がされています。
さらに、パート合格には先述した通り有効期限があるため、あるパートが合格し、最終的にすべてのパートを合格するまでに、最初に合格したパートを忘れてしまい、合格時の介護福祉士としての質を下げることを防いでいます。これらの工夫から、パート合格を導入することによる質の低下は防げるものだと考えます。
ー2.特定技能介護における5年の在留期間を延長するためではないかという疑念
これについては様々な領域で検討や調整が必要であると考えます。
しかし、パート合格を導入することで、再チャレンジできる人材は増えると考えられるため、結果として在留資格介護となった外国人の増加により、日本での介護人材確保の一助となることは、捨てがたいメリットであると考えます。
「パート合格」導入のメリット(期待できる効果)
一方で、期待できる効果として、厚生労働省は以下のことを挙げています。
1.介護福祉士を目指す受験者を多く確保できる
2.学習が行いやすくなり、専門性の高い介護福祉士が確保される
ー1.介護福祉士を目指す受験者を多く確保できる
働きながら資格をとる人、家庭内での子育てや介護と両立しながら資格をとる人など様々な状況の受験者がいます。従来の方式では、学習時間を確保しきれない人が、受験を諦めてしまったり、なかなか合格ができず意欲の低下に繋がってしまったりと、せっかく介護に興味を持ってくださった方のモチベーション低下になることも懸念されていました。
一方で、パート合格を取り入れると、それぞれの状況に応じて学習を進めることができ、今までは諦めかけていた人も受験に挑戦することが期待されます。
ー2.学習が行いやすくなり、専門性の高い介護福祉士が確保される
先述してきた通り、3つのパートが領域や学習のしやすさを考慮したものとなっているため、今までより繋がりのある学びを行うことができます。
また、実務者研修においてもこれらのパートを意識した教育がおこなわれることで、効率的かつ深い学びが可能となり、より専門性の高い介護福祉士の確保が可能となります。そして、質の高い介護サービスが安定的に提供されることで、介護業界全体の質をあげていくこと、介護福祉士の専門性を継承していくことも期待されます。
最後に:介護福祉士を諦めかけた方は、もう一度チャレンジしてみませんか
令和5年9月時点で、介護福祉士登録者数は約194万人です。※
介護福祉士を要請する養成施設は、減少の一途をたどっており、介護福祉士を目指そうとする学生は減少しています。業界以外からの介護人材を確保していくためには、働きながら、実践の中で学んでいくリカレント教育(社会人になってからの学び直し)が重要です。自分が現場で感じたことを理論に合わせて考察し、新たな介護方法やアセスメントの気付きなどを得て、さらに改善された実践をしていく。そしてまた新たな疑問に対し、学びながら介護の質を高めていく…。
省察的実践を繰り返していくことがとても重要であり、仕事と勉強の両立をしやすくすることで、介護業界全体のサービスの質の向上につながっていき、介護人材不足を軽減してしていくことができるのではないかと考えます。
チャレンジしやすい試験とすることで、リスキリング(今までと異なる新しい仕事をするために技術を身につけること)の促進にも繋がります。今後の介護事業所運営は、リカレント教育を推進していくことが成功のカギとなると感じています。この記事をお読みの方で、もし介護福祉士になることを諦めた方は、ぜひもう一度チャレンジしてみませんか。
出典:厚生労働省介護福祉士の登録者数の推移