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介護士はきついって本当?介護現場のカスタマーハラスメントとは?実際の現場について専門家が解説します!

ささえるラボ

介護士はきついって本当?介護現場のカスタマーハラスメントとは?実際の現場について専門家が解説します!

本日のお悩み

介護職の人材不足をよく耳にします。
私の母は介護職で働いていますが、毎日楽しそうです。なぜ、介護職は人気がないのでしょうか。教えてください。

執筆者/専門家

伊藤 浩一

https://mynavi-kaigo.jp/media/users/14

3Kから3Aへ「介護ニューノーマル」の普及が肝

お母様は楽しく働かれているんですね。
嬉しいです。私も楽しく働いていますよ!

では、なんで介護士は人気がないのでしょうか?
それは「介護の仕事内容をみんな知らないから」です。 そして、介護の仕事は3K、つまり「きつい」「きたない」「給料安い」というイメージが先走ってしまっているのです。この記事ではきついと言われる理由を解説し、近年の介護現場のリアルをお伝えしていきます。

介護の仕事はきつい?

3Kの中でも、特に「きつい」というイメージは強いかと思います。しかし、介護職だけがきついのでしょうか。

たとえば、銀行で働く人や不動産会社で働く人などは、誰一人として仕事が「きつい」と感じたことはないのでしょうか。
そのようなことはないと思います。むしろ、生活において重要なお金や家の仕事に就くことも、多くの責任を求められ、「きつい」と感じる瞬間にも出くわすと考えられます。

つまり、「責任感」が求められる仕事において「きつい」と感じることは必ずと言っていいほどあるのです。介護職は、その点において「介護を必要とする人の生活を支える」という重大な責任を求められるので、「きつい」と捉えられがちであると考えられます。

介護の仕事は汚い?

「汚い」を辞書で調べてみると「汚れていて、それに触れたくない気持ちを起こさせるさま」とあります。

たしかに排泄介助は介護職において、そのように感じる方もいらっしゃるのかもしれません。しかし、介護職の業務すべてが排泄介助ではありません。あくまで排泄介助は業務の一部であると捉えてください。また、排泄に関する業務は、看護師や保育士など他の職種でもあります。介護職のイメージだけが先走らないようになると良いですね。

介護の仕事は給料が安い?

介護職の給与が低いというイメージも非常に強いと思います。しかし、「需要が増えているのに、給与が変わらない」このままだと介護職に就く人は減少してしまいます。

そこで現在、介護職員等処遇改善加算をおこない、介護職に携わる人の給料は改善しています。
立派な一軒家を立てている介護士もたくさんいますし、平均給与も年々増加傾向にあります。

ここまで、介護職=3Kというイメージについて解説してきましたが、この構図が崩れ始めているということがわかりました。
このイメージを覆していくには、誤って認識されている介護業界について正しく社会に伝えていく必要があるのです。

介護のニューノーマル「3A」へ

それでは、社会のイメージとは逆で、お母様はなぜ介護の仕事を楽しいと感じているのでしょうか。
人の心の温かさ、高齢化が進む日本において介護の知識を得ている安心感、ニーズが高まりによる将来的な安定感などを感じているからこそ楽しく仕事ができているのではないでしょうか。

私はこれを介護のニューノーマル3A(温かい、安心、安定)と呼んでいます。高齢化が進む日本において、社会を支えていける職業が介護職なのです。
正しい介護のイメージを伝えることで、これからも介護業界は成長し続けられるでしょう。

誤解されがちな介護職のイメージについて分析してみましょう!

出典:https://mynavi-kaigo.jp/media

ここまで介護職の3K(きつい・汚い・給料が安い)について簡単に説明をしてきました。

介護職はきついというイメージを多く持たれがちですが、一方で介護職員の数は、令和4年で約215万人、10年前の平成24年で約163万人、さらに10年前の平成14年は約72万人と、この20年間で介護職に従事する人は約3倍になっています。※

もちろん、介護ニーズの高まりが要因でもあると思いますが、本当にきつい業界であった場合こんなに人は増えないでしょう。

そこで近年の介護業界について私は3Kから3A(温かい・安心・安定)に変わっていると提示させていただきました。
実際には、働きやすい環境・待遇となっている介護業界。そのイメージが伝わりづらい理由となっている3つの誤解について考えていきましょう。
出典:厚生労働省介護職員数の推移

1.介護職は人間関係が大変そう

■人間関係と、働く業界は関係ない

これは逆に質問になってしまうのですが、人間関係の良し悪しを業界ごとに二分できるでしょうか?
航空業界の人間関係は良くて、建築業界は悪い、ブライダル業界も悪いなど…。
実際には、業界ごとではなく企業ごと、すなわち介護業界においては多くが事業所ごとに決まるのではないでしょうか。

ー人間関係の良さは事業所ごとに確かめて

私の所属する法人は、今年度80名の新人職員が入社しました。 80名になぜ当法人を選んだのか?の理由を調査したところ第1位が雰囲気、第2位が実習先、第3位が研修システムの充実という感じです。

人間関係が悪かったら雰囲気も悪く、それで選んで入職してくれる人は少ないと思います。
人の生活の場ですから、施設見学時に利用者さんの雰囲気や表情を見ていただければ事業所ごとの人間関係について判断ができると思います。

■利用者さんとの関わりは、介護職の醍醐味

介護の仕事において、人間関係の悩みといえば利用者さんとの関係も上位に入ってきます。しかし、介護職において利用者さんと接することは最大の醍醐味です。
人生の大先輩から奥行きのある言葉や姿勢を学ぶこともできます。

先日は「人生はどんとこいだよ。そのためにはいつもニコニコしてなきゃ」
と女性の入居者の方から教えていただきました。深いですね。

ーもちろん「大変」なこともある

一方で「大変」かという問いに対しては、もちろん大変なときもあります。

私が想像する「大変」なときとは、認知症の方が、不安に苛まれ、徘徊や昼夜逆転、異食、職員への抵抗などの行動をされたとき。または、ご家族のカスタマーハラスメントでしょうか。
(カスタマーハラスメントについては後半で詳しく説明します。)

しかし、その背景はシンプルで、コミュニケーション不足や相互の理解不足だったりします。
これって、どんな業界でも同じではないでしょうか。

介護業界においては「大変」というマイナス視点よりも「人生の学び」の方が圧倒的に大きいと私は実感しています。

2.介護職は夜勤やシフト制など労働時間の負担が大きそう

次に労働時間や、働き方についてです。介護職は人手不足と聞くし、夜勤もあるしで残業時間が多そう…シフト制で働くのって大変そう…など様々なイメージがあると思います。1つずつ見ていきましょう。

■介護職の残業時間は、全業種の半分以下

介護労働安定センターの調査によると、介護職員1週間あたりの平均残業時間数は1.6時間です。※1全産業の平均時間を見てみると、1ヶ月あたり13.8時間※2ですので、1週間あたりに計算しなおす(4週間で割る)と、3.45時間となります。

このことから、介護業界の平均残業時間は全産業平均の半分以下であるとわかり、残業時間が多いというイメージは払拭できるのです。
なぜ、介護業界の残業時間は少ないのでしょうか。それは、シフト制であるため長時間労働が発生しにくいからです。
※1出典:介護労働安定センター令和5年度介護労働実態調査「介護労働者の就業実態と就業意識調査 結果報告書」
※2出典:厚生労働省毎月勤労統計調査 令和4年分結果確報

■変化を遂げる夜勤

ー労働時間は短くなっている

今の夜勤のスタンダードは8時間(22時から翌朝7時)です。
私が現場のとき(約20年前)は、16時間が普通でした。さらに、私が現場のときは2時間おきの巡視もスタンダードだったので、夜勤はきついのイメージはここからきているのかもしれません。

ー見守りセンサーの活用で、利用者さんも職員さんも快適に

一方で、利用者さんの立場になってみると、睡眠中2時間おきに人が来たら都度「びくっ」てなりますよね。良質な睡眠をとることは難しいです。

また、例えば20名の利用者さんがいらっしゃったら、1人5分の移動時間を含めた巡視時間がかかると考えると、合計100分かかります。
つまり、夜勤帯でずっと巡視しているような感覚がありました。

今、夜間の巡回はセンサーが対応してくれています。寝返りも自動体位変換してくれるベッドがあり、センサーは呼吸まで見てくれます。この変化は、ご利用者にとっても職員にとっても良い変化ですね。
夜勤は、夜に起きていなくてはならないというキツさはあるかもしれませんが、仕事量は、ロボットのおかげで随分スマートになっていると思います。

■働く時間にこだわらないのであれば、むしろシフト制は融通が利く働き方かも

シフト制に対してマイナスなイメージを持っている方は、おそらく、シフト制と固定性(9時から18時勤務、土日固定休みのような)の働き方と比較しているのでしょうか?

介護の仕事は24時間365日ご利用者をサポートする観点から、働く時間を調整し、切れ目ないサービスを提供する勤務体制を築く必要があります。そのため、シフト制が採用されているんですね。
他の業界では、病院、コンビニ、レストラン、ドラッグストア、食品工場、製造工場など多くの業界で定番となっています。

また、コロナウイルスの流行以降、満員電車を避けるために時差出勤が行われるなど、従来の9時~18時で働かない企業も増えてきています。

ーシフト制で働くことのメリットとは

たしかに、シフト制は、勤務する曜日や時間帯が日によって変わるので一定のリズムで働きたいという方には「きつい」かもしれません。
一方でメリットは、平日に休める、勤務が午後からなら午前中ゆっくりできるなどが挙げられます。

私はシフト制が最高でした。なぜなら、遊園地など土日祝日に混む場所は空いている平日に行けたからです。 また、旅行するにも平日の方が安い!病院や役所に行くにも平日が良いですよね。

世の中は働き方改革でフレックスタイム制や自宅で働くこともOKになってきました。つまり、いつどこで働くかが重要でなく、仕事の成果をあげることができるなら、いつどこで働いてもいいよという風潮に変化しているのです。

3.きついというイメージから、離職率も高そう

介護職はきついというイメージを持たれがちのため、辞めてしまう人も多いのではないかと誤解されやすい業界です。介護職の離職について見ていきましょう。

■介護職の離職率は低下している

介護職は先述したように3Kから3Aへと変化を遂げています。その効果もあり、介護職の離職率は2012年度の17.0%以降減少傾向にあり、2023年度には過去最低の13.1%となりました。※

この数字は全産業平均と比較しても少なくなっているため、介護業界の離職率は決して高くないと言えるでしょう。

ちなみに私の勤務する特養は、令和3年度150名の社員に対し、退職者は2名(結婚と私事都合)でした。1.3%ですね。
このように事業所によっても差があるので、転職活動時の事業所選びはしっかり行いましょう。
出典:介護労働安定センター令和5年度「介護労働実態調査」結果の概要について

介護の仕事の「大変」なところ ~カスタマーハラスメント~

カスタマーハラスメントとは?

まず、カスタマーハラスメントについて定義を明確にしましょう。

カスタマーとハラスメントに分解し、それぞれを辞書で調べると、カスタマー=お客様、ハラスメント=嫌がらせ、迷惑行為となります。
厚生労働省では、カスタマーハラスメントを「お客様からのクレーム・言動のうち、その要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、労働者の就業環境が害されるもの※」と定義しています。 ここで注意しなければならないのは、「クレーム」と「ハラスメント」は違うということです。
出典:厚生労働省カスタマーハラスメント対策マニュアル

■ハラスメントは過剰な要求や不当な言いがかり

お客様からのクレームは、サービスや接客態度に対して不平・不満を訴えるもので、それ自体が問題ではありません。むしろ「クレームは宝」という考え方のほうが最近は一般的となっています。なぜなら「クレーム」は言い換えれば、「お客様の本音」と捉えることができ、本音に応えることが業務改善やお客様との信頼関係構築に繋がるからです。

一方で、クレームの中には、過剰な要求を行ったり、商品やサービスに不当な言いがかりをつけるものもあります。それが社会通念上不相当なものであって、労働者の就業環境が害されるものに該当するとなれば「カスタマーハラスメント」となるということです。
さて、ここからは私が体験した事例を紹介します。

実際にあったカスタマーハラスメントの事例と解決方法

事例1:遺品のトラブル

特養でお看取りをした方がいらっしゃいました。
キーパーソンであった娘さんとも関係性は良好で「良い最期を迎えられた」とお話しいただいていた事例でした。

しかし、退所の遺品引き継ぎの際に関係が悪化します。遺品の中に大事にされていた写真がないと言われ、あちこち探したのですがどうしても見つからず、そもそもそのお写真があったのか?という議論にもなりました。もちろん、不信感を与えてしまったことに対し謝罪をし、再発防止策などもお伝えしましたが、ここで内縁の夫という方が突然現れました。威圧的な態度で賠償金を要求してきたのです。

職員を罵倒する、大声で施設に詰め寄るなどがあったため、警察や担当の弁護士にも相談し、毅然とした態度で賠償金には法的根拠がないことを伝え解決しました。

事例2:利用者さんの物を破損してしまった際のトラブル

ショートステイの利用者Aさん(70代男性/認知症なし)は若くして脳梗塞を患い、右片麻痺が後遺症として残りました。もともとプライドが高く、態度も横暴だったので特に若い女性職員には苦手意識が多い存在でした。

あるとき、職員Bさん(20代女性)が腕時計をつける介助の際、誤って落としてしまい破損させてしまいました。Bさんの上司であった私は事情を聞き謝罪と修理をさせていただく旨ご説明に伺いましたが、Aさんの怒りは収まりませんでした。なぜならAさんにとって腕時計は働いていたときからの愛着があり、習慣化しているものだったからです。そしてなんと私に土下座を要求してきたのです。

私は、それはできないと毅然とした態度で対応し、奥様とケアマネジャーにも相談する旨をお伝えしました。
すると我に返られた様子で解決しました。普段介護してくだっている奥様には頭が上がらなかったからです。その後、居心地が悪くなったのか他の施設に移っていかれました。

事例3:利用者さんとの関係がエスカレートしてしまった

訪問介護の職員から辞めたいと涙の相談がありました。話を聞くとある特定の利用者が嫌で辞めたいとのこと。
もう少し話を聞くと、個人携帯にその利用者さんからの執拗な電話履歴が。なぜこんなことになったのか尋ねると当初良好な関係だったので気を許し「何かあったら相談にのる」と個人携帯番号を教えてしまった。そして、あるときから宗教勧誘の話となり、断ったときから関係が崩れ執拗な電話がかかってくるようになってしまったとのことでした。会社の携帯の利用を義務づけていましたが、ふと気を許してしまった自分の責任と誰にも相談できず状況がエスカレートしてしまった事例です。

私は責任者としてご本人とご家族を交えてお話しをし、個人携帯を教えてしまったことに対する謝罪と特定の宗教活動は契約書の中で禁止されていることをお伝えし、解決に至りました。その訪問介護職員は、他の部署に人事異動し携帯番号も自分で変更、今も頑張ってくれています。どうでしょうか?
こんな事例に遭遇したら嫌だ、怖いと思われた方もいるかもしれません。
しかし、私の22年の介護人生で逆に言えばこの3事例程度しか経験したことがありません。

事業所に義務づけられたハラスメント対策

令和3年度介護報酬改定において、介護職員が安心して働くことを目的として全ての介護サービス事業者にハラスメント対策として必要な措置を講ずることを義務づけました。

また、カスタマーハラスメントについても、その防止のために必要な措置を講じることを推奨しています。

カスタマーハラスメントが起こる原因と対処法まとめ

このような状況になったのはなぜか?と考えると、情報社会において、偏った情報をインターネットから得てそれを鵜呑みに行動してしまう人の増加や病気や配偶者の死、独居など日常のストレスの反動として行動してしまうということも考えられます。

ただし、そのきっかけは介護事業所側にあることがそのほとんどです。
火のないところに煙は立たないと言いますが、なんにもないところからカスタマーハラスメントは起きません。クレームや気の緩むきっかけがあり、それが度を越した先にカスタマーハラスメントがあります。

ではどうやって対処するか?
それは1人で対応するのでなく組織で毅然と対応することが重要です。

そしてどうやって防ぐか?
社会通念不相当な行動をしそうなご利用者、ご家族は組織で情報を共有しながらチームで対応を図っていくことです。

カスタマーハラスメントは、職員に過度な精神的ストレスを感じさせ、場合によっては大事な人材の離職につながりかねません。情報社会、ストレス社会であることを念頭に「職員を守る体制の構築ができているかどうか」が人材の集まる事業所とそうない事業所の命運を分けるポイントなのかもしれませんね。

最後に:ネガティブバイアスに陥らず、事実を確認しよう

ここまで、3Kの事実について解説をしてきました。
もちろんカスタマーハラスメントについては大変であると感じたかもしれませんが、労働時間や環境、待遇の面、やりがいなどにおいて介護業界=3Kではないということが伝わりましたでしょうか。

3Kなどのイメージや疑問を持つ方に共通して言えることは、介護に対する視点がネガティブバイアス(マイナス思考への偏り)に陥っているということです。

人はそもそも、敵から身を守るため、ネガティブな視点でまわりをみて自分自身に不安を与えることでリスク管理するという仕組みが脳に植え込まれています。
今回取り上げたテーマは、現実をみたのでなく、ネットなどの不確かな情報から植え込まれたものだと思います。情報を疑い、事実を見る習慣を身につけたいものですね。
確実に介護業界はニューノーマル「3A(あたたかい・安心・安定)」にシフトチェンジしていっています。安心して入職してきてください。

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