「どうせ働くなら成長したい」20代へ。過剰ホワイト時代のセルフマネジメントのすすめ【27歳からのキャリア戦略】
時間外労働の上限規制などが強化され、職場の「ホワイト化」が進むなかで、「確かに働きやすいけれど成長実感がない」「このまま年齢を重ねていっていいのだろうか」というようなキャリア不安を抱えている方も増え始めています。
そこで今回、転職サイト「リクナビNEXT」の元編集長で、現在は転職支援・キャリア相談サービスを運営するキャリアのプロ・黒田真行さんにインタビューを実施。ホワイト化が進む時代に、 若手ビジネスパーソンが成長するために意識しておきたいこと をテーマに詳しくお話を伺いました。
若手の成長には「打席数」が鍵
Q. 黒田さんご自身が新人だった頃は、どんな経験を積まれたんですか?
私は学生だった1980年代にアルバイトとしてリクルートで働き始めたんですが、当然最初は何もわからない素人の状態なので、「早く一人前になって、周りに迷惑をかけずに仕事ができるようになりたい」と考えていました。
何度も同じことを聞かないように、1回教えてもらったことは反復してできるようにしたり、あるいは他の先輩が面倒くさがるようなことを進んでやっていくとか、力量が追いついてない素人なりにがんばっていました。半年か1年くらい経つと、一番下っ端なのになんとなくみんなから頼りにされたり、先輩や部署のリーダーより先に相談を受けることも増えていきましたね。
Q. 組織に貢献することを考えて、自ら率先して仕事に取り組むことが大事なんですね。
若いうちに必要なのは、そういうふうに自ら矢面に立っていく「打席」の数 だと思います。当時の私の仕事は、求人広告を作る制作の仕事だったので、企業に訪問して取材をして、その情報をもとに広告を1本でも多く作ることが「打席」でした。それを意識して、できるだけたくさんの広告制作をしていました。
そうするとできることが増えて、周囲からの期待値も上がっていくので、より多くの打席に立てるようになる。さまざまな仕事を任されて、携われる業務の量も増えていきました。
成長に必要な時間と「1万時間の法則」
Q. 日々の「打席」の数を積み重ねて、一人前に到達するにはどのくらいの時間が必要なのでしょうか?
ビジネスの世界には「1万時間の法則」というものがあります。ある分野でスキルを磨いて一人前になるためには1万時間働くことが必要だという話です。これまで多くの転職経験者や、各分野のプロの方にお会いしてきましたが、その物差しはある程度正しいものだと思っています。
法定労働時間にあてはめると、年間2000時間働くなら5年くらいかかる計算です。よく「若いうちに仕事で無理をするべき」といいますが、無理をするのではなく「ある程度時間をかけてスキルを磨く必要がある」ということだと思います。
Q. 相応の時間が必要なんですね。より短期間で成長するためには、どうしたらよいのでしょうか?
5年かかるところに、例えば3年で到達しようと思えば、実務を行う1日あたりの時間を長くする必要があるということになります。ただ、労働時間には制約があるので、勤務中以外にもできることに取り組む方法もあります。
例えばお風呂やトイレに入っていても、仕事のことを考えることはできますし、副業でスキルを伸ばす人もいるでしょう。 より短い期間で成長したいのであれば、「自分の時間を使って、自分の成長のためにできることをやる」 ということです。
1万時間に到達するまでに要する期間
量を意味あるものにするための「質」の重要性
Q. 成長するためには、時間の使い方が鍵になりそうですが、注意すべき点はありますか?
「ただ時間を使って作業しているだけ」にならないようにすることです。 せっかく努力して量をこなしても、そのプロセスで質にこだわっていないと無意味になってしまいかねません。 そうならないために、自分なりの意義や目的を意識しながら仕事をすることが大切です。
日々の仕事でも、1つ1つの仕事に対して、クオリティにこだわる。ルーティン作業をこなすだけではなく、改善策を考える。たとえば営業の仕事であれば、いつものルート営業でも「違うアプローチはないのか」考えること。担当エリアが売れにくいエリアを任されたのなら、「打開策はないか」など。企画の仕事であれば、「今までにない切り口はないか?」という視点。
雑用だと思っている仕事にも、 自分なりの創意工夫を積み重ねることで、今までになかったようなクオリティを出せる ことだってあります。雑用にもイノベーションできる余地があるというわけです。これはどの職種にも言えることです。もしあなたが「若手だから、小さな仕事しか任せてもらえなくてつまらない」「課せられているミッションが軽い」のように感じているのなら、視点を変えてみると良いでしょう。
1件1件のお客さんに対峙するときや、1つ1つの企画を考えるとき、魂を込められているか?いちど自問自答してみてください。そういった粘り強い仕事の積み重ねの先には、大きな成長が待っているはずです。
Q. 20代のビジネスパーソンは、タイパ(タイムパフォーマンス)を強く意識する人も多いですが、そのためにも「質」にこだわることは大事ですね。
そうですね。タイパを意識するということは、別に「時間をかけない」ということではないと思います。つまり、時間当たりの取り分、実入りを増やして、生産性を上げるということ。ダラダラと仕事に取り組むよりは、「どうせ時間をかけるなら、ここまでは手に入れよう」と考えながら働くとよいでしょう。
例えばジムで走るとき、伸ばしたいのは瞬発力なのか、持久力なのかをわかった上で、歩幅やスピードを意識して鍛える必要がありますよね。そうしないとダラダラ取り組むことになって、せっかくのトレーニングも意味がなくなってしまいます。 仕事も単に量をこなせばいいということではなく、「何のために取り組んでいるのか」を意識することで、質を高めることができます。
Q. 最後に、読者に向けてメッセージをお願いいたします。
今回、「1万時間の法則」の話をしましたが、1万時間を3年で達成する人もいれば、10年かけようという人もいると思います。いま20代の方だと、仕事をするのはあと40年くらいですが、その時間をどう使うかは個人の考え方次第。成長を目指したいという人もいれば、マイペースで自分なりにやっていければ幸せだという方もいるでしょう。自分に合わせた、後悔しないタイムマネジメントが非常に大事なポイントになります。
もしあなたが「成長したい」と考えているなら、今回お話した内容を参考に、仕事の量と質のセルフマネジメントを意識していただければと思います。
プロフィール
黒田 真行
ルーセントドアーズ株式会社 代表取締役
1988年、株式会社リクルート入社。「リクナビNEXT」編集長、 リクルートエージェント HRプラットフォーム事業部部長、株式会社リクルートメディカルキャリア取締役を歴任した後、2014年にルーセントドアーズを設立。35歳以上向け転職支援サービス「Career Release40」を運営している。 2019年、ミドル・シニア世代のためのキャリア相談特化型サービス「CanWill」を開始。
代表著書 『35歳からの後悔しない転職ノート』『転職に向いている人 転職してはいけない人』