日本橋の頼もしき酒場『みを木』と『旬蕾』へ。お酒は「おまかせ」が天国への近道!
小さな入り口。外から見えない店内。一見なら「入りにくい」は否めない。でもそこは、吟味した素材を生かした料理と、それに寄り添うお酒を最適な塩梅(あんばい)で出してくれる頼もしき酒場。知り尽しているからゆだねられるユートピアだった。
万人受けはしなくても、自由でユニークでありたい『みを木(ぎ)』【小伝馬町】
渡辺愛さんは20代で日本酒に目覚め、当時斜陽だった日本酒の魅力を伝えたいと飲食業界へ入った。燗酒の名店『神田新八』で経験を積み、同店とゆかりの深い蔵元『神亀酒造』の薫陶を受け、2010年に独立。銀座「佳肴みを木」を開いた。
小伝馬町へやって来たのは、2019年。それまでの着物スタイルからTシャツへ。お酒は日本酒を軸に据えながらも、希少なビールやワイン、本格焼酎やひねりのきいたサワーなど、より愉快なラインアップとなった。料理はコースで、軽めなら5800円、スタンダードで7500円。素材をいじりすぎず、かつ予想の斜め上を行く料理が続く。
「大半のお客さまがお酒は『おまかせ』。私が飲食業界に入った頃よりずっと、日本酒は自由で人気になりました。だから飲み方も自由でいい。うちは楽しくユニークな店でありたいです」
料理と気分を読みながら、冷酒、燗、ビールをスイッチング。身をまかせ、ただその口福に酔えばいい。
コースのトップバッターを飾る旬野菜のポタージュは、出汁や乳製品を使わないのに滋味深い味わい。茶わん蒸しはハマグリの旨味が存分に。新生女性杜氏が醸す酒は、柔らかくもキレがよく軽やかな苦味。スカッと飲める冷酒で。
軽いコースでも多彩な小皿が次々登場し、澄んだおいしさにうっとり。初夏らしい風味が香る揚げ物には、ハンブルグ直輸入の樽生ビールを。小規模ブルワリーによるもので、通年多彩なビアスタイルを展開。グラス1150円~。
お造りはあえて醤油を添えず、煎り酒を振りかけ、土佐酢のジュレを添えるなど、お酒との幅広い相性を楽しめる工夫をほどこす。青森の酒造好適米「華吹雪」で醸した「神亀」は、マイルドで甘辛酸のバランスがよく、燗をつけることでさらに旨味が膨らむ。
『みを木』店舗詳細
みを木(みおぎ)
住所:東京都中央区日本橋大伝馬町9-7 B1/営業時間:18:00~23:30(23:00LO、前日までに電話で要予約)/定休日:不定/アクセス:地下鉄日比谷線小伝馬町駅から徒歩2分
お酒は必ず試飲。その日のベストコンディションを『旬蕾(しゅんらい)』【人形町】
2020年に開店した『旬蕾』。店名は、都々逸(どどいつ)の「酒を飲む人花なら蕾」から着想を得たという。花街・人形町らしい粋さではないか。その「粋」は、隠れ家のような店の随所にも漂う。電話は置かず、メールのみで予約対応するのも「落ち着いて楽しんでいただきたい」という気遣いからだ。
料理は、吟味して各地から取り寄せた食材を使い、お酒は中村さんと松岡さんが目利きしたものを揃える。
「造りの姿勢に感銘を受けた酒蔵や、日本酒酒場で経験を積んだ私たちの好みで選んでいます。最近は燗映えするしっかりした造りのお酒が多くなってきました。開栓からの日数やその日の気温や湿度でコンディションが変わるので、必ず試飲して、今が飲みどきのものをお出しします」
銘柄ごとに適切な温度でおいしく提供するのも、日々お酒と向き合っているからこその技。ここで燗酒デビューする冷酒派も少なくない。粋な隠れ家は、日本酒の新しい一歩を踏み出せるきっかけの酒場でもある。
有明海苔のペースト、醤油のもろみなどを種に加えたしゅうまい1000円。「小籠包みたい」と言われるほどジューシーなので、ひと口で頬張ろう。コクとミルキー感のある「武蔵神亀」の燗は、肉汁の旨味と絶好の相性。
酒のアテになる細巻き1000円~は、種にミョウガや大葉、芽ネギなどの薬味、筋子、ナチュラルチーズなどを用意。熟成を経た「悦凱陣」は、米の旨味と厚みに加え、カカオを思わせるスモーキーさ。チーズや酢飯と引き立て合う。
水郷赤鶏の唐揚げ800円は、再仕込み醤油を振りかけたものと、塩水締めの塩味。レモンサワー800円は、酒米ともち米で造られた華やかな吟醸香の福島の米焼酎に、愛媛・宇和島産の完熟レモンの果汁を加えて爽快に!
『旬蕾』店舗詳細
旬蕾(しゅんらい)
住所:東京都中央区日本橋人形町2-24-5 日本橋澤井ビル1F/営業時間:16:00~22:00/定休日:土・日/アクセス:地下鉄日比谷線・浅草線人形町駅から徒歩3分
取材・文=沼 由美子 撮影=丸毛透
『散歩の達人』2025年6月号より