「私、これをやりたい!」大好きな山で行商…お菓子売り“てくてくさん”誕生のひらめき【山々インタビュー#1】
北海道生まれ北海道育ち。生粋の道産子であるHBCアナウンサー・堀内美里(ほりうち・みさと)が、趣味である「登山」と「山ごはん」を紹介する連載「堀内美里の言いたいことは山々ですが」。
自分の足で歩いた先にある絶景と、おいしいごはんは、もう最高!
文化部出身・運動神経ゼロの私でも楽しめる「コスパはなまる山」が盛りだくさんです!
今回は番外編。「山でしか買えないお菓子屋さん」ってみなさんご存知でしょうか?
北海道のどこかの山に現れる「てくてくさん」にお話を伺いました。
【連載】こう生きたっていい
いろいろな生き方・働き方をしている北海道の女性へのインタビューを通して、自分らしく生きるヒントを見つけるための連載。
今回は「山々」とのダブル連載です。
お菓子売りの「てくてくさん」って一体何者?
かわいらしい木箱を背負って、北海道の山を歩く一人の女性。
背負子に入っているのは、クッキーやグラノーラなどなんともおいしそうな焼き菓子です!
笑顔がすてきなこの女性が「てくてくさん」こと、山口あいみさん。
「山でしか買えないお菓子屋さん」というコンセプトのもと北海道の山で行商をしています。
背中の焼き菓子は、下山時にはいつも空っぽ。
私もSNSで何度も見かけるうちにファンになり、「いつかお会いしたい...!」とずっと機会を伺っていました。
いまや「てくてくさんがいるからこの山に行こう!」と道内各地から人が集まるほど根強いファンも多いてくてくさん。
でも、「山で行商をしてお菓子を売る」って…考えてみたらとてもめずらしいこと。
むしろ、前例がないことだったのです。
どうして山でお菓子を売り始めたのか、どうやって実現したのか…。
そして、てくてくさんの山での出会いや登山への思いも。
お話を「山々」うかがいました!
きっかけはコロナ禍
北海道出身の山口さんは、もともとは札幌で事務員の仕事をしていました。
当時の仕事にマンネリを感じていたとき、高校の同級生から「カフェを開こう」と誘われました。
お菓子作りは昔からの趣味だった一方、実は「お菓子屋さんを開く夢があったわけではなかったんです」と話す山口さん。
でも「なんとなく『楽しそうじゃん!』と思った」とすぐに開業を決意。
職業が変わるだけでもあれこれ大変なことがあるのに、開業となると、投資面や経営などもっと大きな決断に感じますが…
「それがそうでもないんですよね。難しく考えてもいなくって…やってみて問題があればまた解決していければいいやって」
ワクワクした気持ちで、もう見つめていたのは前だけ。
しかし、その開業を予定していた2020年、新型コロナウイルスの流行によって計画が一気に白紙になってしまいます。
それでも山口さんにはエネルギーがあり余っていました。
「決めたからには、なにかやるっきゃない!」
さて、どうしようかと悩んでいたとき、思いついたのが「大好きな山でお菓子を売る」というアイデアだったのです。
販売場所を「山」にしたワケ
「『お菓子屋さん』というよりも『山が好き』がてくてくの原点だった」
山口さんはそう話します。
登山は山口さんの元々の趣味でした。
「12~13年前かな。山ガールブームだったんですよね。ちょっとやってみたらすごく楽しいじゃん!ってなって」
3人のお子さんの子育ての合間を縫い、幼稚園や学校に行っている間の時間などを使いながら「細く長く」、札幌近郊の山を中心に楽しんできたのだといいます。
「北海道の山は目まぐるしく季節の変化が感じられるのが好きです」
お気に入りは樽前山!50~60回は登っているんですって。
私も、溶岩ドームが見えるあの景色が大好きです!
そして、そんな大好きな「山」が山口さんが「てくてくさん」になるひらめきをもたらしました。
私、これをやりたい!
カフェを開くつもりで試作していたお菓子たち。
どこかで売りたいけれど、無名の自分が作ったものを買ってもらうにはどうしたらいいのか。
「誰もやっていないインパクトのある発信方法がないかなと頭をひねらせました」
そして注目したのが、コロナ禍の当時、屋外で活動する人が増えていたこと。
「最初はファミリーで訪れるような大きな公園で販売することなんかも考えたんですけど、ちょっと待てよ…って。山で売ればいいかなって」
そんなアイデアが生まれたときは「これだ!私、これをやりたい!」と心が踊ったといいます。
山で行商ってどうやるんだろう?前例のないことの模索
そこからは、山でお菓子を販売する方法を模索し始めました。
「そもそも、どんな許可がいるかがわからない。『山でお菓子を売るには?』と検索してもヒットしなくて(笑)」
工房や保健所の許可や菓子製造業の許可。
お菓子を販売するための必要なことからひとつひとつ調べ、山に関わっている行政、森林管理署や市町村などに片っ端から「山でお菓子を販売したい」と連絡をしていきました。
でも相談された側も、ほとんどが初めての経験。
「規制があるわけじゃないけど、前例のないことに『どうぞ』と言えない」
断られることが続きながら、交渉を続けていたところ、小樽市からはじめて行商の許可をもらうことができました。
そうして初めて行商を行ったのが、小樽市にある「塩谷丸山」。
私も大好き!年に何度も登るホームマウンテンが、てくてくさんの行商の原点だったんですね…!
SNSで1か月ほど前から発信し、、60個ほどのお菓子を初めて売ることができました。
広まっていく「てくてくさん」の行商
一度「行商を実際にした」という実績ができると、あとはほかの自治体でも続々と許可を取りやすくなり、「てくてく」としての活動が広がっていきました。
「最初はSNSで告知をしていてもフォロワーは100人程度。だけど山で出会ったみなさんが撮ってくれる写真がどんどんSNSで広まって、徐々に認知度があがっていきました」
今ではほぼ毎週末、道内各地を飛び回り、山で行商をしています。
背負子を背負って、きょうもどこかの山へ…。
そこで出会ったたくさんの人のなかで特に印象に残っている女の子がいたのだそう。
かわいさあふれるエピソードもたっぷり聞きました。
次回、お伝えします!
■記事内写真提供協力:田辺 信彦さん
東京都出身。2024年から北海道道北中川町を拠点とするフォトグラファー/ビデオグラファーそしてDJ。
写真というアートフォーマットに魅せられ自転車を中心としたあらゆるスポーツ、音楽などの中心に宿るカルチャーを美しく切り取る。
ヨーロッパの自転車競技「シクロクロス」に魅せられ、それを切り取った写真集プロジェクト「CROSS IS HERE」を進行中。
また現在は北海道内の山々でお菓子を売る、山でしか買えないお菓子屋さん「お菓子売りのてくてく」の活動を追いかけるドキュメンタリー作品の製作も行っている。
Instagram : @nobuhikotanabe
連載「堀内美里の言いたいことは山々ですが」
※北海道の山に登るときは、クマについても知っておきましょう。「クマに出会ったら」「出会わないためには」の基本の知恵は、HBCのサイト「クマここ」で、専門家監修のもとまとめています。
文:HBCアナウンサー・堀内美里(ほりうち・みさと)
北海道生まれ・北海道育ち。2021年入社。HBCテレビでは「グッチーな!」「ジンギス談」「吉田類 北海道ぶらり街めぐり」「大江裕の北海道湯るり旅」などを担当。登山歴4年。おいしくごはんを食べるために山に登っています。登山の魅力はインスタグラムでも発信中
編集:Sitakke編集部あい
※掲載の内容は取材時(2025年8月)の情報に基づきます。