圧倒的戦闘力を保持する水生昆虫の王者<タガメ> 身近にある意外な「天敵」とは?
「タガメ」という昆虫を知っていますか?
現在は全国的に数を減らしていることから「環境省が指定する絶滅危惧種」に認定されており、なかなか姿を見ることはできません。
実際、筆者の住んでいる五島列島にもタガメが生息できるような環境は数多くあるのですが、一度も野生のタガメを見たことはなく、幼少期は憧れの存在でした。
タガメは、水生昆虫の中では最大級の大きさを誇ります。自分の数倍も大きい獲物にも果敢に挑んでいく姿は<水生昆虫の王者>といっても過言ではありません。
しかし、そんなタガメにも意外な天敵がいるのです……。
タガメの生態とは? 大食漢&オスが子育て
タガメはカメムシ目コオイムシ科タガメ亜科に分類される水生カメムシ類。水生昆虫やカメムシの中では日本最大級で、全長は約65ミリまで成長します。
主に水田や池沼などに生息しています。タガメ1匹で大量の食事が必要となるため、タガメの存在はその環境の生物相が豊かであるという証にもなります。
タガメは幼虫から成虫になるまで、1匹のタガメで100匹以上のオタマジャクシを捕食するそうです。
オスが守りながら育てる
5月下旬~8月頃にかけて繁殖活動を開始。生まれた卵はメスではなく、オスが守りながら育てるという特徴的な生態を有しています。
メスは卵を産むとその場を離れて次の繁殖の準備をはじめますが、オスは卵が乾燥しないように水をかけたり、獲物から卵を守ったり、といった行動をみせるのです。
また、カメムシ目と分類されているだけあり、後胸部には大きな臭腺が存在しています。
しかし、カメムシのように外敵から身をも守るために強烈な匂いを放つということはなく、タガメの臭腺はメスを誘き寄せるために使われ、その香りはバナナやパイナップルに近いそうです。
タガメの圧倒的な戦闘力 ちょっと恐い食事法
タガメはカエルやカメをはじめ、時には小動物や蛇を食べます。過去には40センチの鯉が捕食されたという記録が残るほど、圧倒的な戦闘力を有している水生昆虫です。
特徴的な鎌の形をした前足を獲物の体に食い込ませた直後、口についている口針を刺し、強力な消化液を獲物の体の中に流し込みます。
この消化液は肉や骨をドロドロに溶かす効果があり、液状になった肉質を口針から吸収して食べます。
食べ尽くされた後の獲物は、小さなもので骨と皮膚しか残っておらず、大きいものになると肉質が飛び出しそうなほど柔らかくなった死体だけが残るのだとか。
水生昆虫の王者<タガメ>の意外な天敵とは?
タガメは生物系の頂点に君臨しており、まるで天敵はいないように感じますが、実は身近に天敵がいるのです。
その天敵とは、人間たちが作り出した「街灯」です。
タガメは6月中旬以降に餌や繁殖相手を求めて飛翔します。
しかし、光に向かっていく性質「走光性」を強くもっているため、水場に辿り着く前に、道端の街灯等に誘き寄せられてしまいます。このことから、繁殖相手を見つけることができず、数を減らしているのだとか。
体の大きさを考えると何度も飛べるわけではないので、街灯の下で干からびてしまうことも少なくないそうです。
急速に数を減らす<タガメ>
タガメは21世紀中に絶滅すると言われているほど、凄まじい勢いで数を減らしています。
タガメの命を奪っているのは、私たちの便利な生活。その事実を知った今、日々の暮らしに少しでも思いやりを持てたら……と思います。
人間の生活と隣合わせで生活する小さな生きものたち。彼らの生活に向き合うきっかけにしてみてください。
(サカナトライター:ティガ)