季節別の渓流テンカラ釣り完全ガイド シーズンごとの魚の行動と毛鉤の選び方を大公開
渓流では春の解禁から秋の禁漁までのおよそ半年が釣りシーズンとなります。この春・夏・秋、それぞれの季節ごとの渓流魚の行動パターンや捕食するエサの変化に合わせて、テンカラでの釣り方も変わっていきます。今回は、それぞれのシーズンに合わせたテンカラ釣りのスタイルをご紹介します。
渓流テンカラ釣りの魅力とは?
渓流テンカラ釣りは、シンプルな道具で山あいの自然を満喫しながら楽しめる、日本古来の伝統釣法です。リールを使わず、ラインと毛鉤だけで魚と対峙するスタイルは、初心者にも扱いやすく、装備もコンパクトで済むのが魅力。
渓流ならではの美しい景色や清らかな水の流れの中で、魚の気配を感じながら毛鉤を打ち込む時間は、日常を忘れる特別なひとときです。
また、テンカラ釣りは技術の上達が実感しやすく、季節ごとの変化や魚の反応をダイレクトに味わえるのも魅力。渓流釣りに興味がある方は、まずテンカラから始めてみるのもおすすめです。
今回は、シーズンごとのテンカラ釣りの攻略法をご紹介します。
早春の渓流対策(3月)
いよいよ待ちに待った3月。多くの渓流が解禁を迎えますが、山はまだ冬で雪が残っています。川には雪解け水が流れ込み、水温はかなり低く、魚の活性も極めて低い状態です。
この時期の釣りは、比較的気温と水温が上がる昼間の時間帯に里川を狙うのがおすすめです。
まだ昆虫も羽化しておらず、水生昆虫や流れてくるアリ、幼虫類などが魚の主なエサとなっています。魚は流れの少ない深場の水底でじっとしており、時々流れてくるそれらを捕食しています。
毛鉤はこれらに似せた黒くて小さなものを使い、ガン玉を付けて沈める、脈釣りに近い釣り方が中心となります。
釣れないときの代替手段
この時期の魚は深場から動かず、水面のエサにはほとんど反応を示しません。水面を流すテンカラ釣りでは、ほとんど釣果が得られないことも多いです。
魚の状態に合わせて毛鉤を水底に沈ませる釣り方が基本となりますが、それでも釣れないこともあるため、エサ釣りや管理釣り場への釣行も視野に入れたいところです。筆者もこの時期だけは保険としてエサ釣りタックルを一緒に持っていきます。
早春とはいえ、川の中はまだ冬。解禁直後はテンカラ釣りにとっては厳しいシーズンでもあります。
春本番の低山攻略(4〜5月)
4月に入ると水温が上がり、徐々に魚の活性も高まってきます。特に5月の山は新緑が美しく、低山の渓流でのテンカラ釣りは筆者にとって最も好きなシーズンです。
水温の上昇に伴って水生昆虫の活動も活発になります。また、チョウなどの羽虫も羽化を始め、魚たちのエサが一気に増える時期でもあります。
毛鉤も色やサイズを多めに用意しておくとよいでしょう。その日の虫の活動状況に合わせられるよう、選択肢を広げておくことで釣果アップが期待できます。
テンカラ釣り本格始動の時期
深場にいた魚たちも瀬に出て、積極的にエサを追うようになり、いよいよ水面を流すテンカラ釣りが本格的にスタートします。
ただし、この時期はゴールデンウィークで多くの人が入渓するシーズンでもあり、魚もスレやすくなる傾向があります。せっかくの連休ですが、あえて釣行日程をずらしたり、有名河川を避けたりするなどの工夫も必要です。
初夏の山岳渓流戦略(6〜7月)
夏に向けて気温・水温ともにさらに上がり、梅雨に入ると川の水量も増してきます。魚は水温の高い里川や低山の渓流から、適水温を求めて徐々に山奥へと移動を始めます。それに合わせて、釣りのフィールドも徐々に山奥へ移していきましょう。ここからが本格的な山岳渓流でのテンカラ釣りのシーズンです。
この時期の山では、トンボやカゲロウといった大型の羽虫も活動を始めています。毛鉤も比較的大きめのサイズに反応が出やすくなります。
大物が潜むポイント探し
また、水量が多い日は次々に流れてくる大型のエサを効率よく捕食するため、流れの緩い岩の下などに大物が潜んでいることがあります。この時期は特に丹念にポイントを探ることで、よい釣果につながることがあるでしょう。
渓流は多少濁りが入っている方が魚の警戒心が薄れ、釣りやすい場合もありますが、梅雨時期の渓流は急な増水が起こりやすく、危険なフィールドでもあります。できれば単独釣行は避け、経験豊富な仲間とチームでの釣行をおすすめします。
盛夏の源流テンカラ(7〜8月)
いよいよ梅雨が明け、気温・水温ともに急上昇し、夏本番を迎えます。低山では水温が上がり、朝晩以外は釣りにならないため、水温の低い最奥の源流域での釣りが中心になります。
羽虫系の昆虫が最も多くなる時期です。毛鉤もチョウやカゲロウに模した白くて大きめのものへの反応が特に良好です。
魚に毛鉤を見切られないようにするためには、流心や流れ込みなどを狙って速い流れに毛鉤を乗せて流す釣り方が効果的です。また、小まめに毛鉤の色を変えることで、見切られにくくなります。
高山ではこの時期、朝夕に気温が一桁台になることも実は珍しくありません。意外に思われるかもしれませんが、日の出前後の朝マズメよりも、気温・水温ともに上がる10時ごろからが、高山の源流域でのテンカラ釣りスタートの目安になります。
幻想的な夕暮れ釣行の魅力
盛夏の日暮れ前の時間帯はとても美しく、特別なひとときです。山間に落ちる夕日が周囲を赤く染める中、カゲロウやトンボが舞う水辺の風景は、この世のものとは思えないほど幻想的です。
このタイミングでの釣りは、渓流シーズンの中でも最も贅沢な時間といえるでしょう。これから渓流釣りを始めるという人には、ぜひ一度体験していただきたいです。
ただし、日が落ちた後は急速に暗くなります。山での夜間行動は極めて危険です。釣りの後はすぐにその日の行動を終えられるように、ビバークや山小屋など宿泊の事前準備を忘れないようにしましょう。
秋の大物狙い(9月)
街ではまだまだ残暑が続いていますが、山は早くも秋の気配が漂い始めます。朝夕の気温と水温が急激に下がり、魚たちは本格的な冬を前に荒食いを始める季節です。
この時期は、ダムや湖の上にある沢を狙います。暑い夏を乗り越え、大きく成長した魚が産卵のために遡上してくるのです。羽虫系のエサを中心に、大きめの毛鉤で大物を狙うのが基本です。
ただし、山では昆虫類が減り始める時期でもあります。初夏のように毛鉤の選択肢を多めに用意し、さまざまな状況に対応できるようにして臨みたいところです。
産卵時期の配慮と心得
前述のとおり、気候が少し涼しくなり、魚も冬に向けて荒食いをする時期であることから、他のシーズンよりも比較的釣りやすく、釣果も出やすい時期です。
大物も出やすいですが、中にはすでに産卵準備に入ってペアリングを始めている魚もいます。こういった魚はエサにほとんど反応を示しませんが、時には釣れてしまうケースもあります。
筆者も以前、ペアリング中の大物のオスを釣ってしまったことがあります。残されたメスが所在なげに1匹で漂っている姿を見て、非常にやるせない気持ちになりました。こういったシーンに出会った際には、釣りを控えるのがスマートな対応です。
季節攻略で渓流テンカラを楽しもう
渓流釣りは、魚を釣る楽しみはもちろんのこと、季節ごとに変わる美しい山の景色や時間と出会える釣りでもあります。場所によっては危険も伴いますが、安全に十分注意を払いながら、この釣りの魅力を存分に楽しんでください。
<夏野/TSURINEWSライター>