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サザンオールスターズ 愛と感謝と希望と闘魂が音楽に乗って表現された、東京ドーム公演を振り返る

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サザンオールスターズ

サザンオールスターズ LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」
2025.5.29 東京ドーム

「“THANK YOU SO MUCH!!”はこっちのセリフ」と言いたくなった。桑田佳祐がMCや曲の間奏中に何度も「ありがとう」と観客に感謝の意を示していたのだが、そのたびに「いえいえ、こちらこそ」と返したくなったからだ。サザンオールスターズの13都市を巡るツアー、LIVE TOUR 2025「THANK YOU SO MUCH!!」のファイナル公演となる5月29日の東京ドーム。会場内にはバンドと観客の双方からの“愛と感謝の思い”が充満していた。何から何まで破格のステージだ。サザン史上最多となる60万人を動員したツアーであり、この日はライブビューイングも実施され、15万人がリアルタイムの映像でステージを鑑賞した。さらに、デビューしてもうすぐ47年というタイミングで、新作アルバム『THANK YOU SO MUCH』を発表し、新曲が軸となるステージを展開するところも素晴らしい。“サザンの最新の音楽”を堪能できたからだ。

お馴染みのサポートメンバーに続いて、野沢秀行(Per)、関口和之(Ba)、原 由子(Key&Vo)、松田 弘(Dr)、桑田佳祐(Vo&Gt)の順でステージに登場してライブが始まった。オープニングナンバーは『NUDE MAN』(1982年発表)収録曲の「逢いたさ見たさ 病める My Mind」だ。せつない歌声と人間味あふれる演奏が染みてくる。“逢いたさ見たさ”は観客の思いとも重なるものだろう。アウトロで桑田が「THANK YOU SO MUCH!!」とシャウトすると、大歓声が起こった。続いては最新作収録曲の「ジャンヌ・ダルクによろしく」。野沢の刻むカウベルに観客のハンドクラップが重なり、高揚感と開放感が漂い、ロックンロールバンドとしての魅力が全開となった。銀テープが発射されると、大きなどよめきが波のように押し寄せた。ステージ背後の電飾風の巨大なロゴ文字、“SOUTHERN ALL STARS”が輝いている。その文字を見て、これまで支持してきたことに対して、誇らしい気持ちになった人もたくさんいたのではないだろうか。

「東京ドームに帰ってきました。うれしいような寂しいような悲しい気持ちの千秋楽です。延長したいです」との桑田の言葉に、観客が大きな歓声で同意していた。3曲目からは「せつない胸に風が吹いてた」「愛する女性(ひと)とのすれ違い」「海」など、80年代から90年代にかけての曲が続いた。せつなさや懐かしさとともに、今の彼らだから醸し出せる“滋味”のようなものも感じた。「神の島遥か国」では琉球衣装に身を包んだ踊り手たちが踊る中での演奏。セカンドラインや琉球音楽など、多様な音楽の融合によって生まれるグルーヴそのものが人間賛歌のようだ。能のお囃子のSEから始まった「愛の言霊(ことだま)~Spiritual Message~」は彼らにしか作れない、古今東西の音楽のミクスチャー。歌の根底からは無常観や人生の不条理さまでもが伝わってくるようだった。

ここからは5曲連続で『THANK YOU SO MUCH』収録曲が演奏された。能登半島地震の被災者へのエールの思いがきっかけとなって制作された曲「桜、ひらり」では、スクリーンに桜の水彩画のような映像が映し出される中での演奏だ。優しくてうるわしい歌声と温かな演奏はまるで春の日差しのようだった。松田の「1、2、3、4」というカウントから始まったのは「神様からの贈り物」。この曲にも人の心を明るくするポップミュージックの魔法がたっぷり詰まっている。坂本九、永六輔、中村八大、弘田三枝子、奥村チヨ、植木等など、昭和歌謡を彩った大スターや作家の映像が流されている。ルーツミュージックへの深いリスペクトがあるからこそ、これらの音楽の持っていたエッセンスやエネルギーをしっかりと継承できるのだろう。昭和の朗らかな空気だけでなく、モータウンなどの洋楽ポップスの明るいエネルギーもたっぷり吸い込んで、今の時代の新しい歌として奏でられるところにもサザンオールスターズの真髄がある。

地球環境や人類への問題提起を含んだ「史上最恐のモンスター」では、メッセージを音楽的に鮮やかに表現しているところも見事だった。ギターとコーラスとのユニゾンが無意識下の領域にまで届いてくるようだった。深い陰影のある歌声の魅力を堪能したのは「暮れゆく街のふたり」だ。桑田の歌唱の根底にある昭和歌謡の情感とブルースの哀感がじわりじわりと滲む。原がリードボーカルを取った「風のタイムマシンにのって」では潮風に吹かれて鎌倉〜湘南界隈を時間旅行している気分を味わった。清涼感と爽快感を備えた歌声が気持ちいい。観客のハンドクラップが鳴り響き、桑田の口笛がこだましていく。

ボサノバテイストが楽しい初期の曲「別れ話は最後に」、アコースティック編成での「ニッポンのヒール」を挟んで、再び新曲が5曲続く展開へ。デビュー前からある曲「悲しみはブギの彼方に」では、グルーヴィーな演奏に体が揺れた。メンバーそれぞれがデビュー前から現在まで、音楽を愛し、楽しみながら奏でるマインドを持ち続けていることが音に乗って伝わってくるようだった。アルバムと同じ曲順で「ミツコとカンジ」へと続く流れがいい。“ミツコ”と“カンジ”と思われる2人を描いたアニメ映像の演出もあった。満員電車に揺られるシーンもあったので、このアニメの主人公はサラリーマンでも当てはまりそうな普遍的な設定となっているようだった。明るい曲調だからこそ、主人公の後悔の念や悲しみが染みてきた。

グラムロックのスペイシーかつカラフルな世界観が楽しい「夢の宇宙旅行」では観客に配布されたリストバンド、“THANK YOU SO MUCHライト”が星の光のように点滅する中での演奏となった。オルタナティブポップ調の「ごめんね母さん」では、桑田の妖しい歌声によって、ダークかつディープな世界へと引きずりこまれた。後悔の念や罪の意識までもポップミュージックに変換していけるからこそ、こんなにも多彩な音楽を作り続けることができるのだろう。ここから最新作1曲目の「恋のブギウギナイト」へとなだれ込んでいく展開も見事だった。東京ドームが巨大なディスコティックへと化したからだ。クライマックスの連続となり、本編ラストの「マンピーのG★SPOT」まで怒濤の展開だ。メンバーの平均年齢は69歳。桑田が渾身の力を振り絞ってシャウトする姿に胸が熱くなった。バンドの熱気あふれる演奏、桑田のエネルギッシュな歌声はもちろんのこと、エロティックな演出も含めて、すべてが尊い瞬間だ。

アンコールでは最新作収録曲の「Relay~杜の詩」が披露された。緑色の照明がシンボリックに“杜”を描き出している。音楽が世代を超えて受け継がれていくように、杜もまた受け継がれていくべきものであることが、真摯な歌声と演奏から伝わってくる。5万人が拳を突き上げた「東京VICTORY」、『茅ヶ崎ライブ2023』の映像が映し出されながらの「希望の轍」、そしてサンバダンサー、プロレスラーのコスプレをしたダンサーなど、約40名が参加&乱入する中で混沌としたパワーが渦巻いた「勝手にシンドバッド」に突入。1978年に発表された曲が今もなお、こんなに熱い歓声と拍手とシンガロングによって共有されているところにも、サザンオールスターズの破格さが現れている。曲の合間にも、桑田が隙あらば、「ありがとう」という言葉を発している。観客も負けずに熱烈なコール&レスポンスで感謝の思いを示している。感謝の思いとともに、確かに届いてきたのは希望だ。過去・現在・未来を音楽によって繋いでいくような28曲、2時間半。過去の中に存在している希望を現在に蘇らせ、未来に芽生えるであろう希望を予感させるステージでもあった。

「デビュー50周年という大きな目標もあることにはあります。これからもみなさんに楽しんでいただけるように、サザンオールスターズ、頑張ります」との桑田の言葉もあった。この発言を聞いて、もう少し一緒に頑張ってみようと思った観客も数多くいたのではないだろうか。サザンオールスターズの音楽がこんなにも長きにわたって多くの人々に愛されつづけてきたのは、人々を奮い立たせてくれる力を備えているからだろう。

ステージを去る直前に、桑田が観客に呼びかけて、5万人による「1、2、3、ダー!」が実現した。本家であるアントニオ猪木の闘魂注入が始まったのは1990年、東京ドームでの新日本プロレスの試合からである。その同じ場所での35年後の「ダー!」。この日は「ミツコとカンジ」が演奏されたこともあり、カンジも一緒に「ダー!」をしているような気がした。愛と感謝と希望と闘魂は音楽に乗って表現されることで、どこへでもどこまでも届いていくに違いない。

取材・文=長谷川誠 撮影=西槇太一

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