研究者=白衣は思い込み?産総研のユニークすぎる「研究者カード」に注目
近頃SNS上でよく見かける、研究者の方々が自身の専門領域の“正装写真”を披露するという投稿。さまざま研究者の画像がタイムラインに流れてくるという、実に知的なこのブームですが……実は2022年にはすでに、これをまるで“先取り”していたかのような取り組みがありました。
「産業技術総合研究所」による「研究者カード」です。
■ 研究者・学者の堅苦しいイメージを覆す、産業技術総合研究所の「研究者カード」
研究者と聞くと、多くの人は「白衣を着て試験管を持っている」といった姿を想像してしまうのではないでしょうか。
しかし、冒頭のブームに乗る形でXに披露された研究者たちの姿は、“研究者・学者”のお堅いイメージが覆るものばかりで実にさまざま。
「研究者だっていろいろなんだ!」と思わされる写真の中で、ふと筆者の目にとまったのが「産業技術総合研究所」(以下、産総研)が投稿していた「研究者カード」でした。
け……研究者……カード?
Xに投稿されていたのは、研究者の近影、名前、専門分野・気分転換の方法といった情報が盛り込まれた、手のひらサイズのカードです。スタイリッシュなデザインは、まるでトレーディングカードのようで、潜在意識に眠っていた収集心にぽっと火が点く気がします。
「産総研」とは、国内12カ所に研究拠点を持ち、約2300名の研究者が8つの研究領域に対して研究を進めている、“日本最大級”の国立の研究開発法人です。
いち企業でも、いちサークルでもなく、ガチガチの研究機関が、作っているのです。このスタイリッシュなカードたちを。
「産総研」公式Xの投稿によれば「産総研の研究分野、そして研究者の多様性を、一般公開に参加されるみなさんに見える形で感じていただきたい」という意図で企画されたものだそう。
実際、カードに写っている研究者の方々の服装はパリッとしたワイシャツからラフなTシャツまでいろいろ。手にしているものも石だったり、骨格標本だったり、フォークリフトだったりと多岐にわたります。
眺めているうちに気になって仕方がなくなってきたので、実際に産総研の広報担当者に問い合わせて、詳しく話を聞いてみました。
■ コンセプトは“カジュアルな名刺”!いつ、どこで、どうしたらもらえる?
−− 「研究者カード」はどんなきっかけで誕生したのでしょうか?
2022年の一般公開で「研究者の顔が見える」「現場の空気がわかる」お土産として6種類(研究者6名分)を試作・配布したのが始まりです。
その後、研究者のカジュアルな名刺として定着しつつあります。
−− なるほど、カジュアルな名刺。
研究者カードは、産総研最大の研究拠点・つくばセンターで毎年開催される「産総研特別公開」のほか、臨海副都心センター、福島再生可能エネルギー研究所などの地域拠点で実施される一般公開でも受け取ることができます。
−− いろいろなところでもらうチャンスがありますね。
さらに、研究者が参加する採用イベント、出前授業、学会などでも配布される可能性があります。
−− 公式Xの投稿で「リアルイベントで研究者本人に質問するともらえるルール」と拝見したのですが、質問内容はどんなものでもいいんでしょうか?
良識の範囲内であればどんな内容でもOK。ぜひ研究者一人ひとりとの会話を楽しんでください!
−− 研究領域に深く踏み込んだものではなく、ちょっとした疑問でも大丈夫ということですね!
■ 全種類が“レア”な「研究者カード」!実物を見た研究者から「うらやましい」の声も
−− カードは2024年秋時点で150種類超あるとのことですが、まだまだ増えていくのでしょうか?
研究者の希望やイベントの開催状況によって、今後も増えていく可能性があります。
−− すでにある研究者の方でも、デザインが刷新されるということもありますか?
デザイン刷新の予定は現時点ではありませんが、肩書の変更など微修正が入ることはあります。
−− ということはキラカードになる……とかは、ないんですね。
一般のトレーディングカードのようなレアリティ(SSRとかURといった、いわゆる“レア度”)を設定することはありません。
「名刺」ですので、ある意味で全種類がレアなのです!
−− はっ……!確かに!全部がレアなカード、夢しかない……。ところで当事者である研究者の方々からの反応というのは?
研究者たちからも評価は高く、「同僚のカードを見てうらやましくなった、自分も作りたい!」という声も多く寄せられています。
−− 「うらやましい!」と思う研究者の方に、すごく親近感が湧きました。
学会発表やリクルーティング活動などでの、自己紹介ツールとしても役立っていると聞いています。
イベント配布用に限らず、研究者が希望に応じて今後もカードを増やしていければと考えています。
−− あとあまりに見た目がトレカっぽいので「対戦とかできないかな?」と思ってしまったのですが、そのあたりって……?
一般の方からも「カードバトルできればいいのに……!」という声をよくいただきます。
が、研究者カードはあくまで研究者とのコミュニケーションツール。バトル機能の実装予定はありません。悪しからず、ご了承ください。
−− ですよね……!バトルとは対極のコンセプトで生まれたカードでしたね……!
■ “研究者の正装”ブームを先取り?産総研広報部は「こんな時が来るだろうと思って……」
−− ちなみに今回、私が研究者カードを知ったきっかけは、Xで話題になっていた「専門領域の正装写真」を巡る投稿でした。「産総研」は、今回のブームについてどう受け止めましたか?
「いろんな分野の研究者の正装を見てみたい」という声は、まさに私たち産総研の広報担当者の心の声と同じです。
−− カードの画像を拝見すると、本当にさまざまなスタイルの研究者がいらっしゃるのがわかりますね。
「白衣を着て、試験管やフラスコに囲まれて実験している」というのが、ステレオタイプな「研究者像」じゃないでしょうか。
でも実際の研究者と会ってみると、ぜんっぜんそんなことないんです(もちろん、白衣の人もいますが)!ユニフォームも、使う道具も、研究分野によって驚くほど違います。
産総研は、産業技術「総合」研究所の名のとおり、研究者の多様性を国内でいちばん感じられる組織かもしれません。
−− Xのブームはやはり内部でも話題でしたか?
研究者カードの発案者であるブランディング・広報部の荻原総括主任技師は、今回のバズを見た瞬間、「してやったり!」と思ったそうです。「こんなときが来るだろうと思って、2年前から研究者カードを準備しておいたんですよ!」と笑っていました。
−− さすが国内最大級の研究機関……。先見の明に脱帽です。
* * *
研究者、学者と聞くとどうしても堅苦しい存在としてとらえてしまいがちです。
しかし今回のXでのブームや、「産総研」の取り組みにもあるように、ひと口に研究者と言ってもその姿はさまざま。
「産総研」の取り組みや、他の研究者の方々の発信を通じて、多様な研究者像が世間に広がることで、日本のあらゆる学術研究の裾野も広がっていくのではないでしょうか。
<記事化協力・画像提供>
産業技術総合研究所
(ヨシクラミク)
Publisher By おたくま経済新聞 | Edited By YoshikuraMiku | 記事元URL https://otakuma.net/archives/2025030102.html