コーネリアスとは小山田圭吾!そのデビューアルバムは渋谷系の中心的存在として一世を風靡
コーネリアス、デビュー30周年
コーネリアスとは、元フリッパーズ・ギターの小山田圭吾のソロプロジェクト。フリッパーズ解散後、ソロ活動開始に際して【小山田圭吾】と名乗らず【コーネリアス】と名乗ったのも、なんとも小山田らしい。そして、コーネリアスとしてのデビューアルバム『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』がリリースされて30年になる。そんな節目にあたり、本作について検証してみたい。
デビューアルバムのリリースに向けて、コーネリアスは次々と先行シングルを切っていった。そのシングル曲はどれも抜群のクオリティでアルバムに対する期待を否応なく高めていった。我々ファンも早くアルバムを聴きたいという飢餓感が沸点に達したところで満を持してリリースされたアルバムは、文句なしの大名盤だった。
渋谷系の中心的存在
フリッパーズのファンを裏切ることのない軽快なギターポップから当時の洋楽トレンドだったアシッドジャズ、往年のロックやソウルへのオマージュまで感じられる楽曲もフォローした本作は、まさに1994年のポップミュージックの最適解と言える作品だ。小山田自身も “全曲シングルカット可能なアルバムを作る” と断言していたほどで、そのクオリティの高さには相当な自信があったのだろう。
『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』はオリコンでも最高位4位を記録し、フリッパーズ時代と比べても大きなセールスを記録した。しかし、時代は空前のミリオンヒット連発=CDバブル期であり、コーネリアスはミスチルやB'zほどの国民的ヒットには至っていない。むしろ、そうしたミリオンヒットに対して斜に構えて見ている早耳リスナーがこぞってコーネリアスを聴き、そうしたリスナーと洋楽的な響きやクラブカルチャーを重視したアーティストたち、それを上手く取りまとめた外資系大型CDショップの戦略により渋谷系なるムーブメントが作られていった。コーネリアスは渋谷系の中心的存在として一世を風靡し、前述のとおりオリコン4位というヒットを記録したのだ。
お洒落と同居する小山田圭吾のシニカルな視点
アルバムのヒットや渋谷系の活況は追い風になり、コーネリアスはトレンドセッターとして捉えられるようになっていき、全てが順風満帆なように感じられた。しかし、本作で歌われる歌詞は決して前向きなものではない。と言うか、むしろ後ろ向きでどの曲も小山田のシニカルな視点を感じさせる歌ばかりだ。
90年代のJ-POPでは恋愛を謳歌するラブソングや人生の応援歌が人気を得ていたが、コーネリアスのスタンスはその真逆だった。当時、私は大学卒業を間近に控えた状況で、終わってしまう学生時代への喪失感と大人になることを強要されているような居心地の悪さを感じながら、イラついたり、ため息をつくばかりのモラトリアムな日常だった。そんな時にコーネリアスが歌うシニカルなポップチューンには助けられることが多く、“まぁ、後ろ向きでもいいんじゃない…” と小山田がボソボソと言ってくれているような気分だった。
ポップマエストロとしての才覚とニューウェイヴ以降のロックが獲得した鬱屈とした感覚を同時に鳴らし、それを最高にオシャレなものとしてアウトプットしたコーネリアスこそ、私にとっては最高にロックを感じるアーティストであり、そこに気付いている自分自身こそイケてるリスナーだと思い上がっていた(← 今思い返すとかなりイタい奴だよな)。
コーネリアスはこの後も音楽的な趣向を変えながら次々に傑作アルバムをリリースしていく。
特にサードアルバム『ファンタズマ』は世界中でリリースされ、アメリカの辛口メディア『ピッチフォーク』でも絶賛され、その知名度はワールドワイドになっていく。
新作「Ethereal Essence」をリリース
そして、デビュー30周年を迎えた2024年、コーネリアスは新作『Ethereal Essence』をリリースした。本作は、近年発表してきたアンビエント寄りの楽曲を中心に構成した作品で、今作のために再編集や再レコーディングをおこなった曲がメインとなっている。
本作は、デビューアルバム『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』にあったような弾けるポップネスは影をひそめ、シンセサイザーやギターの音色が美しく、深淵に響くアンビエントミュージックが展開されている。しかし、ただただ美しい音響系サウンドが響くばかりではなく、斬新なアイデアや遊び心を盛り込むことは決して忘れてはいない。例えば、「ここ」という曲では谷川俊太郎の詩の朗読に合わせて、その朗読を音階に分解しメロディーを付けるという聴いたこともない手法でメロディーを構築している。
音楽的変遷こそコーネリアスの魅力
このように新作で鳴らされているサウンドは、30年前のデビューアルバム『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』とは似ても似つかないサウンドであり、小山田の音楽的趣向が時を経て大きく変化してきたことが伺える。こうした変化は、彼にとっては自然な成り行きだったのだろうが、新たな表現に次々と挑戦し、冒険心に溢れた作品を作り、そのどれもが世界水準を軽々と飛び越えるクオリティに仕上げたことは正に偉業と言える。
コーネリアスは、これからも尽きることない冒険心をもって、音楽的な変化を続けていくだろう。その変化を誰よりも楽しんでいるのは小山田本人であるように私には感じられる。だからこそ、彼の作る音楽はいつでも新鮮さを失わず、私たちを夢中にさせるのだ。その原点にあるデビューアルバム『ザ・ファースト・クエスチョン・アワード』を聴き返し、併せて新作を楽しむことでコーネリアスの音楽的変遷を感じてみてはいかがだろうか。