【横浜美術館のリニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」】 改修工事後のコレクション展を「静岡的視点」で鑑賞する
静岡新聞論説委員がお届けするアートやカルチャーに関するコラム。今回は横浜市西区の横浜美術館のリニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」を題材に。
横浜美術館は2021年からの大規模改修工事を終え、2024年3~6月の「第8回横浜トリエンナーレ」の後、外部倉庫に保管していた約1万4000点のコレクションを館内に戻す作業を経て2025年2月に本格的に再開を果たした。
展覧会は絵画、写真、工芸、映像などの作品や史料を通じて、縄文時代からの横浜市の歴史をたどる。横浜市歴史博物館、横浜開港資料館などのコレクションも交えた多彩な出品物を時系列に並べ、都市化していく「ヨコハマ」の姿とそこに集う人々の顔相をさまざまな角度から明らかにする。
最も目を見張ったのは渡辺幽香の油彩「幼児図」(1893年)。渡辺は横浜に縁が深い洋画家五姓田義松の妹である。米シカゴの万博博覧会(1893年)の出品作は、石臼を足で引きずって這いながら、床のトンボをわしづかみにする乳児を描いている。丸々とした顔、手足のはち切れんばかりのふくよかさに、得も言われぬ力強さを感じる。
静岡がらみでは2人の写真家に巡り合った。下岡蓮杖(下田出身)の「題名不詳(琴を弾く女)」(1863~76年頃)などのポートレートは、開国後にやってきた外国人に向けて、あえて日本的なイメージを強調している。昨年の横浜トリエンナーレでも出品があった浜口タカシ(旧伊豆長岡町出身)の中国残留孤児を巡る諸作品は、「報道」の枠を超え、「物語」の領域に近づいている気もする。
開国後の横浜に設置された遊郭の風景を描いた歌川貞秀の浮世絵「横浜本町景港崎街新廓」(1860年)は、2022年夏に平野美術館(浜松市中央区)で開かれた「蘭字ー開港と近代日本の輸出ラベルー」の「横浜絵」のコーナーで見た記憶がある。タイの尾頭付きなど大皿料理がのった膳を前に、遊女を侍らせた洋装の外国人が両手を挙げて踊っている姿はなんとも滑稽だ。
吉田博「熱海温泉」(1927年)は、風景画のイメージが強い人気版画家の裸婦像作品。浴場のタイルに落ちた奇妙な影の濃淡には風景画と共通する点が見られる。
「おかえり、ヨコハマ」展は6月2日(月)で終了。6月28日(土)から沼津市出身のクリエーター佐藤雅彦さんの初の回顧展が予定されている。
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■横浜美術館リニューアルオープン記念展「おかえり、ヨコハマ」
住所:横浜市西区みなとみらい3-4-1
開館:午前10時~午後6時(木曜休館、祝日の場合は翌日休館)
観覧料(当日):一般1800円、大学生1500円、高校・中学生900円、小学生以下無料
会期:6月2日(月)まで