小さな深海魚<ハダカイワシ>が地球を支える? 小さな生き物にも目を向けてみよう【私の好きなサカナたち】
Webメディア『サカナト』には様々な水生生物好きのライター(執筆者)が所属しています。そんなライターの皆さんが特に好きなサカナ・水生生物について自由闊達に語らう企画「私の好きなサカナたち」。今回はサカナトライター・れおさんによる「私の好きなサカナたち」をお届けします。
近年、地球温暖化による異常気象や海面上昇などが起こり、人々の生活に悪影響を与えています。
地球温暖化の対策として、森林保護や植樹活動などが思い浮かぶでしょう。でも、実は植物だけではなく、海の中で地球温暖化の緩和に役立っている魚がいます。
それは、体長がたった2~20センチの小さな深海魚、ハダカイワシ科の魚類の仲間です。
ふだん目にすることのない深海で、彼らがどんなふうに地球を守ってくれているのか、一緒にのぞいてみましょう。
ハダカイワシ科に属する魚の特徴とは?
ハダカイワシ科の魚は、世界中の海に広く分布する深海魚です。
ハダカイワシという名前の由来は、鱗が剥がれやすく、水揚げされた時には鱗が取れているからと言われています。また、鱗が剥がれやすいことに加え、多くの種で発光器を備えていることも大きな特徴です。
発光によりコミュニケーションを取ったり、捕食者から身を隠したりしているとされています。
ハダカイワシは深海魚というだけあってふつう深場にいますが、夜になるとエサを求めて浅海に上昇してくる「日周鉛直移動」を行います。そして、この海中の上下移動が、地球温暖化の進行を和らげることに役立っている可能性があるといいます。
では、何の変哲もなさそうな小魚たちが、どのように地球環境に貢献しているのでしょうか。
なぜ地球温暖化を防ぐ力を持っているの?
ハダカイワシ科の魚類が日周鉛直移動を行うことが、地球温暖化の緩和に役立つ「生物ポンプ」という仕組みに関与していると考えられています。
海は大量の二酸化炭素を取り入れていますが、これを元に表層にはプランクトンが発生します。このプランクトンは死ぬと海底に沈殿していき、結果的に地球深部へ炭素を隔離してくれるのです。
生物の遺骸や糞が沈んでいく様子は海の中の雪に例えられることから“マリンスノー”と呼ばれています。
しかし、マリンスノーは1日に約100メートルまでしか沈みません。海底まで3000メートルあれば、到達するまで1ヶ月近くかかり、さらに炭素が隔離されるまでには長い年月を要します。
そこで、ハダカイワシ科の魚類の出番です。ハダカイワシ科の魚類は夜になると海面近くまで浮上し、プランクトンなどを食べます。そして朝になると深海に戻り、そこで糞をして、マリンスノーよりも早く炭素を深海に運んでくれるのです。
つまり、ハダカイワシ科の魚類は炭素を海底へ運ぶ手助けをして地球環境を支えている、といえるのです。
日周鉛直移動をする他の生きものたちも生物ポンプに関わっていると言われていますが、この仕組みについてはまだ研究の途中。今後明らかになっていくのが楽しみです。
小さな魚が地球の環境を守っている
ふだん目にすることのない深い海で、小さな魚が炭素を海の底に運び地球環境に貢献している──彼らにとっては生きていくプロセスの中で、当たり前のことをしているだけなのかもしれません。
しかし、このような行動を紐解いていくと、ハダカイワシ科の魚類をはじめとした小さな生き物たちが地球を支える大きな存在であることを窺い知ることができます。
(サカナトライター:れお)