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上川隆也インタビュー「この作品の主人公は物語」~サスペンス劇『罠』で主演・カンタン警部役に挑む

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上川隆也

読売新聞創刊150周年記念、よみうり大手町ホール開場10周年記念舞台として、2024年10月に、東京・よみうり大手町ホールで、サスペンス劇の傑作『罠』が上演される。

『罠』は、フランスの劇作家ロベール・トマが1960年に発表した作品で、騙し合い、駆け引き、張り巡らされた伏線、とわずか6人の登場人物による台詞劇でスリリングな展開を見せ、やがて驚愕の結末を迎える。時代も国境も超えて人々を魅了し続けてきた作品で、日本においても様々なカンパニーによって上演されてきた。

演出は、今回で『罠』を手掛けるのは7年ぶり3回目となる深作健太。主演のカンタン警部役の上川隆也に、本作へ挑む今の心境を聞いた。

『罠』 テレビスポットCM(東京公演)

観客をいかにミステリーの世界に招き入れるかが要

ーー上川さんは映像作品でもミステリーやサスペンス作品へ非常に多くご出演されている印象があります。ご自身はそういった作品はお好きですか?

20代の頃から本格ミステリーと言われる部類の小説は楽しんでいて、そこから推理小説の古典、エラリー・クイーンなどの作品も読んでいました。中でも『ドルリー・レーン』シリーズが好きでした。なじみが深いというのは言いすぎかもしれませんけれども、好きなジャンルではあります。

ーー演じる側としてはどうでしょう。他のジャンルの作品と比べて難しい部分や、ミステリーだからこその醍醐味などはありますか。

演じる側に回った際に求められるのは、ご覧になる方をいかにミステリーの世界に招き入れるか、謎に向き合っていただくように仕向けられるか、ということが要だと思っています。読者としての自分は観客側で、物語に翻弄されることを楽しむのが主軸になりますが、演じる側になったときは翻って、お客様を翻弄するような形をいかに作劇の中に構築していくのか、ということに気持ちを注ぎます。

ーー小説であれば作家が読み手に物語を届けるように、演じる時は観客に物語を届けるような感覚に近いのでしょうか。

そのあたりが、演じるというのは何か不思議な時間といいますか、もちろん演じる側として物語をお届けする際には、結末までわかったうえで演じているわけですが、演じている最中は「渦中の人間」なんです。その二つの相容れない要素が常に自分の中に同時にあって、そこのさじ加減をしながら存在しているというのが、作者側ともいえるし、観客側ともいえるという、不思議な説明のしにくい感覚です。

ーー本作の上演に寄せての上川さんのコメントの一言目が「したたか<強か>」でした。本作をお読みになって最初に感じたのが「したたか」ということだったのでしょうか。

もちろん読んだときにも感じたことですが、同時にこの脚本の来歴なども勉強したうえで、1960年の初演から60年以上の年月の中で上演を繰り返しながら今日に至っているという、上演を重ねることで決して摩滅することのない物語としての強さというのも、「したたか」な部分に感じました。

ーー上川さんの役は、事件の捜査を担当するカンタン警部です。この役へのオファーが来たときの率直なお気持ちをお聞かせください。

役うんぬんというよりは、この物語の構成の妙に唸らされましたし、カンタン役だからということではなく「この物語を演じたい」と純粋に思いました。

ーー役は関係なく、この作品だから出演したいと思われたということですね。

この作品、妻が行方不明になってしまったダニエル(本作では渡辺大が演じる)が主人公としてクレジットされていることが多いんですが、今回はカンタン警部がトップにクレジットされています。でも実のところ、この作品の主人公はこの物語なんです。その物語にキャラクターが様々に配役されて、お客様の前で上演され続けて来たということでしかなくて、だから誰が順番の上か下かは実はあまり意味がないのではないか、と受け止めました。だからこそ演じたいと思いましたし、今回僕がトップクレジットではあるにせよ、そこは全く意識しないで臨もうと思っています。

ーー演出の深作健太さんとは2013年に舞台『渇いた太陽』でご一緒されています。そのときの印象など教えてください。

『渇いた太陽』は、ちょっと癖のある作品で、主人公が物事を斜めに見ている、僕のキャリアの中ではちょっと異色な役柄と物語ではありましたが、それに臨む僕のアプローチに対して、深作さんは本当に物静かに、でも的を外すことなく演出をつけてくださったというのが何より一番大きな印象です。今回も癖があるという意味では多分引けを取らない作品だと思いますが、前回の深作さんとの邂逅があったからこそ、まったく不安は抱いていないですし、深作さんは『罠』という作品とこれまで深く付き合ってこられた経緯もおありですから、安心して身を委ねられると思っています。

舞台に乗れる機会をいただけるありがたさに尽きる

ーー舞台俳優としてキャリアをスタートさせた上川さん。現在はドラマや映画等の映像作品に数々ご出演されてお忙しい中、舞台への出演もコンスタントに続けていらっしゃいます。

嘘偽りなく、舞台に立てることは本当に嬉しいことだと思っています。僕は演出ができるわけではないですし、脚本を書く能力も企画を立てるような才覚もありません。そんな僕が舞台に乗ろうと思ったら、使いたいと思ってくださるどなたかにお声がけをいただかないことには叶わない。煎じ詰めて考えていくと、僕が毎年舞台に乗れているというのは、幸いにしてそうした機会をいただけていることにほかならないんです。僕を使いたいと思ってくださる、ということをまず第一にありがたいと思いますし、しかも毎回面白い題材をご用意していただけるので、何て幸せなことなんだろう、と思います。僕は自分自身を『素材に過ぎない』と思っておりますから、素材としてなるべくうまみを抽出していただいて、それをお客様に味わっていただくしか出来ることはないと思って常に臨んでいます。

ーー近年は比較的シリアスな役柄が多く、もちろん役柄によってはコミカルな一面を見せることもありますが、コメディに出演している上川さんを拝見する機会が減っているような印象があります。ご自身としては、シリアスな役とコミカルな役、どちらが好きであるとか、何か思うところはおありでしょうか。

基本的な姿勢として、コメディを遠ざけているということは全くないんです。ここ数年そうしたオファーがないというだけのことで(笑)。でも例えば、映像作品で言えばドラマ『遺留捜査』(EX)の中で、科捜研の一幕などは100%コメディチックに振りながら作り上げているシーンで、僕自身、コメディや笑いの要素を好きでいる部分は、昔と比べて一切目減りはしていません。それは舞台でも同じで、またもしお話がいただけたら、それはそれで多分喜んでコメディに全振りしてやるんだと思います。僕自身はウェルカムです(笑)。

ーー最後に、本作に向けたメッセージをお願いします。

先ほど『物語が主人公だ』というふうな喩えをしましたが、その物語のタイトルが『罠』である事が、この物語の肝です。その“罠”は開幕したその瞬間から仕掛けられています。60余年の年月を生き続けて来た、ウェルメイドと呼ばれる『罠』をぜひ楽しみに、劇場に足を運んでいただければと思います。


取材・文=久田絢子

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