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【プロ県議の現場主義#1】新潟県議・市村浩二に聞く「地下空洞化による道路陥没から新潟を守るタスク」

にいがた経済新聞

新潟県議会・市村浩二県議。「現場」を重んじるプロ県議だ

新潟県議会・市村浩二県議。「現場」を重んじるプロ県議だ

2024-2025にかけ、多くの日本人は「自分がいま踏みしめている地の下が、いったいどういう状況なのか」について刮目したに違いない。

それは2024年の元日に発生した能登半島地震で見た液状化現象に始まり、2025年1月28日に埼玉県八潮市で発生した道路陥没による。液状化により家屋が地盤沈下にさらされる映像や、道路に忽然として大穴が口を開け、トラックを飲み込んだ映像を通して、われわれは「地の底の呪怨の声」を聴いた想いだった。

液状化は、まさに新潟が舞台となった災害。八潮市の道路陥没も、今後日本中のどこで起きても不思議ではない災害なのだという。

新潟県民は、ただでさえ脆弱な新潟の地盤に、今後どうやって足を踏みしめていくべきなのか。

新潟県議会に「地盤のプロ」ともいうべき人材がいる。新潟県議会議員2期目の市村浩二氏(公明党)がその人。

市村県議は長岡技術科学大学工学部出身で、1985年に同大学院(工学修士)を修了後、社団法人北陸建設弘済会(現一般社団法人北陸地域づくり協会)へ。参事、上級研究員を歴任した。国家資格・技術士(総合技術監理部門、建設部門)を取得しており、建設技術やインフラに対する知識は新潟県議会でも随一である。

令和6年能登半島地震で上越市の一般国道8号線土砂崩れ現場を視察する市村県議(左側)

中越地震、中越沖地震そして東日本大震災と多くの大災害現場の最前線で、復興事業に従事してきた豊富な経験値を有す市村県議に、新潟の地盤の上で生きて抜くための術(すべ)を語っていただいた。

対岸の火事ではない八潮の事故

埼玉県八潮市の道路陥没事故は未だ解明されていない部分が多いが、大まかな原因として地下下水管の老朽化による腐食が有力とされている。

一方で地下管路の老朽化は決して八潮市に限ったことではない。日経コンストラクション3月号には「埼玉道路陥没5つの疑問」と特集が組まれ、八潮市の悲劇をあらゆる角度から検証しているが、中でも注目されるのは「道路陥没が10年後に倍増の恐れ」という項目。全国的に地下管路の老朽化はすさまじく、多くの都市で耐用年数を超過した下水道管路が20%以上なのだという。

老朽化に対し対策、改善を行えるのなら道路陥没は減らせるが、現状では老朽化のスピードに全く追いついていない。下水道の維持管理に充当する使用料収入は、下水道を使う人口が減少すればそれに伴って枯渇していく。人口流出が顕著な地方都市なら加速度的だろう。維持管理に充てる予算が減少すれば、対策に従事する人員もそれだけ割かれてしまう、という負の連鎖だ。

市村県議は八潮の陥没事故について「一般的に道路管理者が行う道路パトロールの他、路面下の空洞化調査は、陥没の原因となる地中の空洞を見つけるため、地表から2~3mの領域でレーダーを当てて探査します。一方、八潮の場合のように、地中深くに埋められた流域下水道管は管内部の調査として目視点検などが行われています。今回、老朽化した下水道管の破損による水漏れが空洞を形成し、その空洞が大きくなることで地盤が支えを失い、深いところで起こったことが大規模な道路陥没につながったと考えられます」と話す。

「新潟県では過去に出雲崎町と新潟東港の道路で、地下空洞化が原因の陥没事故が起こっています。出雲崎では県道を走っていた女性が運転する自動車が落下しました。東港ではトレーラーの後ろ半分が落下して、ぶら下がった状態になりました。地下の空洞化は目に見えません。それでも兆候はどこかに必ず出ていたはずですが、行政だけではフォローしきれていない現状があります」(市村県議)

さらに「例えば新潟市などは、能登半島地震の液状化で大きな被害を受けましたが、この復興作業に大型車両が頻繁に行き来することで地盤に重量がかかり、ただでさえ脆弱な砂地盤の地域などは空洞化の危険性が高まることも考えられます」とも話す。

能登半島地震で起きた新潟市西区の液状化被害

県民が目を凝らす事前防災

目に見えない地の下の異変に対し、行政の空洞化調査だけでは間に合っていないのが現状。ならば、新潟の脆弱地盤の上で県民が生き抜くには何が必要なのか。

「政府は2026年度に『防災庁』の創設を目指しており、将来的には『防災省』へと格上げを視野に入れています。それがどのような役割を果たすのかといえば、最重要項目は『事前防災の強化』です。一方で行政の事前防災体制には限界があるのも事実。ではどうするのか。課題解決の頼みは、国民・県民のひとりひとりが常に目を凝らし、行政機関への通報を行う仕組みづくりです」(市村県議)

市村県議はさらに続ける「通勤・通学の道すがら、一般の県民が意識を高めることです。『日頃歩いている道の穴が以前より大きくなっている』『斜面に流れている水の量がいつもより多い』『自動車で走っていて変な音がする』など異変に気づいたら行政に通報するという行動が、インフラ老朽化が引き起こす災害から地域を守る術(すべ)だと考えます。八潮の事故も、確かに深い場所で起こった陥没でしたが、それでも何らかの兆候はあったのではないかと思います」

県民ひとりひとりが、事前防災の担い手となることが大事なのだという。

普段の身の回りで、ちょっとした変化を見つけることが、事前防災につながる

現在新潟県土木部道路管理課では、LINE公式アカウント「新潟県道路損傷通報システム」を設け、県民が「穴ぼこ」「側溝の破損」「落下物」「照明の損傷」など道路の損傷、不具合などを見つけた際に情報提供をする仕組みができ、2022年2月より運用が開始されている。それまで市町村単位では導入実績もあったが、都道府県単位では新潟県が全国の先駆けとなった。

2024年12月5日時点でLINEアカウントの登録者数は2,968名、通報件数は216件。月に6件ほどの通報がある。利用者からは「24時間いつでも通報できるから便利」「これまで通報したことがなかったが、これなら通報しやすい」などの声が寄せられ、管理者側からも「従前より位置が特定しやすくなった」「写真などの情報が速やかに共有できる」と大いに重宝がられている。県民が地元を守る事前防災の具現化と言える。

2021年10月の新潟県議会一般質問で「SNSを活用した通報システム」の提案をする市村県議

このLINEによる通報システムは、2021年10月に開かれた県議会で一般質問に立った市村県議による提案が発端となった。

本県の災害に係る住民からの通報は、『新潟県土砂災害110番』など電話が主体であるが、全国や県内の自治体ではSNSを活用した住民通報システムを実施している事例もある。公共土木施設の被災・損傷情報などを写真付きで通報できるSNSを活用した『住民通報システム』を構築し、住民等からの情報収集体制を強化すべきと考えるが、所見を伺う」(議事録から抜粋)

新潟県が「防災先進県」「防災と言えば新潟県」を目指すうえで、多大な功績と言える。

運用が始まった当初は対象が県の管轄道路になっており、政令市である新潟市には県の管轄道路がないので対象外だった。そこに住む県民にとっては、国だろうが県だろうがどこの管轄なのかは問題ではない。市村県議はこの点も指摘し、その後改善され、2024年11月から新潟市の通報も円滑に受けつけられるようになった。

技術士としての経験が活きる

市村県議は、県議になる前の前職で技術士として地盤調査等にかかわってきた。中でも「液状化しやすさマップ」の整備で地盤情報システムの構築やコンクリートの品質検査機器の改良開発等に携わり、老朽化インフラ管理や被災地の災害対策支援業務にも直面した。

それまで、公共施設などが建てられる際の地盤を検査するボーリング調査は、国は国で、県は県でと各公共機関が各々で行っており、その情報は一元化されることはなかった。そこで市村氏らが北陸三県を中心に10年間で4万1000カ所のデータを収集した。このデータをもとに国土交通省北陸地方整備局と公益社団法人地盤工学会が「液状化しやすさマップ」を作成したのである。

ところがこうしたデータベース化の取り組みは、提案当初のプロセスでは一部から「地価に影響する」として受け入れられなかったのだという。

「それでも最近は『地盤情報は国民共有の財産であり、良いところも悪いところも公開されるべき』と徐々に理解を得られるようになったのです。県議会一般質問でもこの点をとり上げ、現在新潟県のホームページでは道路陥没の発生しやすい箇所と特徴を公開しています。また、事前防災がますますクローズアップされる今、最新技術のAIやドローン技術を活用したシステム、3Dモデルを活用したインフラの『見える化』、経年変化の分析による維持管理の高度化・効率化を図る必要があると思います」(市村県議)

2024年1月12日、令和6年能登半島地震に関する緊急要望書を花角英世新潟県知事に提出

民間から県議に、その間常に「地盤」と向き合ってきたエキスパート。脆弱な地盤に県民がおびえる、そんな新潟県には、そんなエキスパートの県議がいることを、県民は知っておきたい。

市村県議は今も月に一度、ボランティアで街頭の清掃活動を行っている。これは「道路点検」「橋梁点検」などインフラのパトロールに精を出した民間時代の名残だという。

「清掃活動の中でも、街に異変を見つけたらすぐに監督官庁に連絡を取ります。新潟県民一人一人に事前防災の必要性に対しての意識が、さらに高まってほしい」と話す県議の姿に「地盤のプロ」の矜持が垣間見えた。

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