海外に住む親族が亡くなったら?必要になる相続の手続きと税金の注意点を解説
海外で余生を過ごしたい、留学したい、税金の安いところで暮らしたいなど、さまざまな理由で海外に暮らす日本人が増えています。そんな親族(親など)が現地で亡くなった場合、相続はどうなるのでしょうか? 日本の相続税は課税されるのか? 今回は「被相続人(亡くなった人)が海外に居住していた場合の相続」について解説します。
国際相続の難しさ
被相続人または相続人が海外に暮らしていたり、相続財産が外国に存在したりする場合のように、国境を越えて生じる相続を国際相続といいます。こうした相続では、「準拠するのがどの国の法律になるか」ということが、まず問題になります。
日本の法は、「相続は、被相続人の本国法による」と規定しています(法の適用に関する通則法第36条)。このため、被相続人が日本国籍を持っていれば、たとえその人が海外に在住していても、相続に関して日本の法が適用されることになります。反対に、被相続人が現地で帰化したりして外国籍となっている場合には、日本法は適用されません。
ただし、遺産分割に関し、海外には日本の法とは違う考え方を採用する国もあることに注意が必要です。被相続人が海外に持っていた財産の扱いについては、その国の法律をしっかり調べ、それに従う必要があるのです。この点については後述します。
相続手続きに必要な戸籍などの取得方法
日本の法に従って相続の手続きを進めるためには、被相続人の死亡時の住民票と出生から死亡までの戸籍が必要になります。しかし、海外居住の日本人については、本籍地が日本国内にあったとしても、その戸籍や住民票に海外の住所地は記載されません。そのため、その取得のためには、特別な申請や手続きが必要になります。
「住民票」の取得
そもそも多くの国には、日本のような住民票がありません。その代わりになるのが在留証明書で、現地の在外公館(日本大使館や領事館)に申請して取得します。
戸籍の取得には死亡届の提出が必要
海外に居住する日本人が死亡した場合には、同居する親族などの届出者が、現地の在外公館に死亡届を提出する必要があります(戸籍法第40条)。その後、外務省を経由して被相続人の本籍地がある市区町村長宛てに必要書類が送付され、戸籍に死亡の事実が記載される、という流れになります。
なお、在外公館への届出に代えて、被相続人の本籍地の市区町村長に郵送で届出をすることもできます(戸籍法第47条)。
いずれの場合でも、死亡届には、医師の作成した死亡診断書の添付が求められます。国内で死亡した場合と異なり、現地の医師により外国語で作成された死亡診断書には、日本語の翻訳文を添付しなくてはなりません。翻訳は専門家によるものでなくてもかまいませんが、必ず翻訳者の氏名、翻訳した年月日などを明記します。
在外公館に届出を行った場合、日本の戸籍に死亡の事実が記載されるまでには、1ヵ月近くかかるとされています。手間と時間を要する作業になりますが、戸籍を取得するまで、国内にある遺産も含め、相続手続きを進めることはできません。
海外にある財産を相続するには
相続財産を調べる
遺産分割の対象となる相続財産が外国にあるときは、それらを調べ、確定させる必要があります。不動産や預貯金などのほか、海外での借金も調査の対象です。
ところで、国際相続の遺産分割は、被相続人の居住していた国によって、大きく「相続統一主義」と「相続分割主義」という考え方に分かれています。そのため、それぞれ該当する法に則って手続きを進めなくてはなりません。
相続統一主義とは
すべての相続財産について、特定の国の法律に基づき遺産分割を行う考え方で、日本や韓国、ドイツなどで採用されています。相続統一主義は、被相続人の国籍に基づく「本国法主義」と被相続人の最後の住所地に基づく「住所地法主義」に分けることができます。
※「本国法主義」に加えて、「住所地法」を準拠法とする国もあり、実際には各国で適用の優先順位が異なるため、個別の確認が必要です。
相続分割主義とは
被相続人が所有していた財産の種類または所在地によって、適用する法律が変わるという考え方です。例えば、財産のうち自動車や貴金属などの動産については被相続人の属人法(さきほどの「本国法」や「住所地法」)に従う一方、不動産については不動産の所在地の法律を準拠法とする、といったイメージです。アメリカ、イギリスなどの英米法圏、フランス、中国などで採用されています。
注意すべき「プロベート」
アメリカやイギリスなど欧米諸国を中心に、遺産相続に当たって「プロベート」という手続きを必要とする場合があります。これらの国々では、被相続人の死亡によって現地の財産が財団に移され、裁判所が介入して財団から相続債務の弁済を行ったうえで、残った財産を相続人に分配する、という方法がとられます。
読んでおわかりのように、かなり「面倒な」仕組みになっています。被相続人が住んでいた国で、このプロベートが採用されているかどうか、相続手続きを始める前によく確認し、該当する場合には、専門家の手も借りて必要な手立てを講じるべきでしょう。
日本の相続税は課税されるのか
最後に、気になる相続税についてみておきましょう。被相続人が海外に残した財産を相続した場合、日本の相続税は課税されるのでしょうか?
海外の財産が日本の相続税の課税対象になるかどうかは、被相続人、相続人が日本に居住している(いた)か、などによって違ってきます。今回のテーマである「被相続人が海外に住んでいる=日本に居住していない」ケースの相続税の扱いは、次のようになります。なお、相続人は「日本国籍を持つ人」とします。
相続人が日本に住んでいる
日本に住む日本人が相続人となる場合⇒「国内・国外すべての財産」が課税対象になります。
相続人も海外に住んでいる
こうしたケースでは、相続人が10年以内に日本に住んでいたかどうかが、まず判断基準となります。
今は日本に住んでいないが10年以内に住んでいたことがある日本人が相続人となる場合⇒「国内・国外すべての財産」が課税対象になります。
一方、10年を超えて日本に住んでいない日本人が相続人となる場合については、今度は被相続人が10年以内に日本に住んでいたことがあるかどうか、が基準とされます。
被相続人が10年以内に日本に住んだことがある場合⇒「国内・国外すべての財産」が課税対象になります。
被相続人が10年以内に国内に住んだことがない場合⇒「国内の財産のみ」が課税対象になります。
つまり、相続発生時に、被相続人、相続人がともに10年を超えて日本に住んでいなかった場合には、相続税は「日本にある財産のみ」に課税され、それ以外のケースでは、「国内・国外すべての財産」が課税対象とされるわけです。
海外資産の評価が必要になる
説明したように、被相続人、相続人がともに長く海外で暮らしている場合を除き、相続になれば、海外資産の金額を調べ、国内の財産と合算して日本で相続税を納める必要があります。
現地での生活費などを貯めている預金口座の残高証明を取得したり、不動産を持っていれば、その評価額を算出したりしなくてはなりません。海外では、不動産の評価方法などが異なることもあり、やはり手間と時間がかかることを念頭に置くべきでしょう。
「二重課税」を防ぐ「外国税額控除」
日本の相続税が海外資産にかかると同時に、その資産の所在地の相続税も発生する可能性があります。そのままだと、海外資産に関しては相続税を二重に取られることになりますが、それを回避する「外国税額控除」という仕組みがあります。
海外で相続税を納めた場合には、日本で相続税を支払うときに、
・外国で支払った相続税
・日本の相続税額×(海外にある相続財産額÷相続人の相続財産額)
のいずれか少ないほうを差し引くことができます。
海外資産の相続手続きについては
亡くなった親が海外に資産を持っていた 相続の手続きはどうしたらいい? | MONEYIZM
まとめ
海外に居住する親族が亡くなった場合の相続、相続税の扱いなどについてみてきました。国際相続では、日本以外の国の法律や慣習が絡むため、手続きはより複雑で、時間を要します。日本での相続税の申告期限は相続発生から10ヵ月となっており、海外財産が含まれていても変わりません。
海外資産が絡む相続は、思った以上に複雑です。このような相続が発生した場合には、早めにいち早く国際相続に詳しい税理士などに相談し、相続準備を始めるようにしましょう。